異世界への切符 参枚目
翌日、屋敷のなかの全ての食材は一旦捨てて、食器類も綺麗に洗いなおした。
机から壁から何まで、綺麗に掃除をしていった。
拭いたものや、洗っい終わった水などは、集めて少し離れたところに集めて保管し、後でまとめて燃やすことにした。
「引っ越した方が早かったかな?」
私は、少し気になってしまった。
何せ、これをヤレと言ってきたのはオルトだった。
あの仏頂面で、『姉様。仮にも我々は元暗殺者だったのですから、相手を殺すのに刃物だけじゃないのは十分ご存じのはずですよね? ね?』と言われたのだ。
だが私は、到着して早々、ソファーに寝っ転がったていた。
「念のためにやってるだけだし。それに、実は他の屋敷の方に撒いていたとかだったら目も当てられないし。良いんじゃない?」
と言辞。
「何とか午前中に終ったから良かったな」
「うん。じゃ、明日の準備を午後からしようか?」
「そうだな」
朝一番に、お城の城下町に買い出しへ行く使用人さんにナビの国は行く旨を、国に伝えて貰うよう手紙を書いてお願いしていた。
ナビ婦人がいる国の外交官に当たる人が、お城の近くに常駐していたからだ。
私達が行きたいと言うと、とても喜んでくれていたという。
ナビ婦人の事だ。
きっと、そのあたりも手配がしてあったのだろう。
その場で許可がおり、入国許可証を貰って来ていた。
「ふえー。相変わらずナビさんは凄いな」
と感嘆にふける異世界大小説家先生の言辞さん。
「小説書いていた時も、こんな感じだったのか?」
「うん。あの時も早く小説を出さなきゃいけなかったからね。若い子なのに本当に頭が良く回る。数か国語をマスターするわけだよ」
「ぶ――」
私は、ナビ婦人の事を褒めちぎる言辞にちょっとむくれた。
「なんでむくれるの。褒めちゃダメなの。お陰でこうしてリリィとも会えたんだよ。協力してくれたんだよ」
「それは嬉しいけど」
「お陰で明日にはナビさんの国にいけるし。ね?」
「うん。お、そういえば、ナビさんの旦那様が私の怪我を手当してくれた御医者さんだったな」
「そうそう。先生にもお礼言わないと。そうだった。海行くのが第一目的じゃなかった。危ない危ない」
「さては忘れてたな、言辞。私の怪我を見て、あんなの大騒ぎしてたのに」
「また、リリィはそういう意地悪を言う。もっと大変なことが、その後いっぱい起きてたでしょう」
「じゃぁ、しょうがない。お医者さんに代わって許してやる」
「まったくもう」
食事を終えた後、使用人さん達と相談しながら旅の準備を始めた。
私が女子女子していないので、持っていく荷物は実にシンプルだ。
言辞も、『え? そんなに少なくて良いの? ちょっとは持っていこうよ』と呆れたぐらいだ。
だって、数日分の食糧と数枚の着替えや体拭き用の布とか数枚でも事足りるように訓練してきたのだ。
急にやり方変えろと言われても……。
こちらに来た時、街へ同伴してくれた時のメイドさんが手伝ってくれた。
メイドさんの判断で用意してもらった。
(これじゃ、私はまるで駄目な奥さんみたいじゃないか? これは、いかんな)
と、私は反省した。
「これ、『新婚旅行』みたいだね」
言辞が嬉しそうに言った。
「『新婚旅行』?」
また、新しい単語が出てきた。
「結婚したばかりの新郎新婦が、式を挙げた後、旅行に行くことだよ」
「へぇ。そんな習慣があるか?」
「うん」
「結婚したばかりだから、楽しいだろうな」
「そうだね」
「……。この私が、『新婚旅行』? ……。へぇ――。へぇ――」
「どうしたの?」
言辞がクスリと笑う。
「結婚するとなった時も、こんな不思議な気持ちになったの」
「へぇ」
「へぇって」
「今、『のだ!』って言わなかったね?」
「う、うるさいのだ。たまに出るだけで、いつも出る話じゃないのだ」
「アハハ。ごめん、ごめん」
「もう! 話が進まない」
「ごめんなさい」
「で、最初にナビさんの所によるのだな」
「そうだね。そこで今後の事とかも相談してみよう。同年代の女性の目から良いアドバイスをしてもらえるかもしれない。リリィの『能力』についても話してみよう」
「私達夫婦が共通で最初に出会った皇国の女の子だしな。そう思うと、他人に思えなくなってきたな」
「皇国の工作などでも頭を使ってきただろうから、女性の視点でフェイスと違う意見を言ってもらえるかもしれない。親方様もフェイスも男性だし、リリィに取ってはその視点で聞ける人はナビさんかな? 今のところは」
「ローズは、これから頑張る人だしな」
「また、ローズさんに厳しい事を」
私のこの『能力』が、生死にかかわるようなことになっていくかもしれない。
異世界に関係する『能力』か、それとも他の何かか?
ローズやシャトレーヌ、メイに相談して心配させたくない。
ルナに相談しても自分と同じ様な結論になってしまうから、それとはちょっと違う意見が欲しいのだ。
それからしばらくは、使用人さん達も混ざって、ナビ婦人の国にある『海』についての話で盛り上がった。
使用人さん達も、あまり遠出したことはなく、見た人は少なかった。
言辞は、ちょっとショックを感じていた。
言辞が住んでいた国は、島国だったそうだ。
内陸に住めば海に直ぐには行けないが、それでも半日もかからずに行けると言う。
それだけ交通が発達しているらしい。
帰って来たら、屋敷の人全員で『海』に行こうと盛り上がった。
その為の下見だと思ったら気が楽になったと言辞は言う。
(ん? 新婚旅行は下見なのか?)
だけど、楽しそうな言辞を見ていたら、「まあ、いいか」と許してやることにした。




