重大会議のまとめ
ようやく城も落ち着き、城を守っていた第三部隊も任務を解かれ通常の任務に就くこととなった。
出来たばかりなので、第壱部隊、第弐部隊がフェイスと共に戻ってくるまでは城の周りで警備を継続するだけとなる。
シャトレーヌは先に親方様の屋敷に帰ることとなった。
「じゃ、リリィちゃん。また、今度ね? 私のお店の方にも、たまには顔を出してね」
「うん。わかったのだ」
「メイさん! 元気でね。メイさんもお幸せにね」
「ありがとうございました」
とメイが答える。
「じゃ、あなた。先に帰ります」
シャトレーヌは親方様に言った。
「うむ。気をつけてな。私は殿下が戻るまでは、城の周辺警備となる」
「はい。お気をつけて。皆さん、お元気で。オルト君やルナさんにも遊びに来てねと伝えてね」
そう言って、シャトレーヌは城を後にした。
親方様は、シャトレーヌを見送り、そのまま城の警備に付いた。
「リリィ、私も帰るね」
帰る準備を整えたメイが言った。
「うん。ちょっと寂しいな」
「何言ってるの? お店にいつでも来てよ。私、店長がお店再開するから帰ってきてって催促されてるの」
「うん」
「リリィ、あなたに出会えたお陰で、私も運命がガラッと変わったわ」
「そうか。良い方向にか?」
「そうよ。こんなにハラハラ・ドキドキなんて、今まで思ってもみなかった」
「そうか、ハラハラ・ドキドキってレベルじゃない気もするけど」
「私ね。リリィに出会う前は、ウェイトレスの仕事して、そこで出会った人と結婚して、一生を終えると思っていたの」
「うん」
「それが、国や世界を左右する出来事に直接出会えるなんて思ってもみなかった」
「でも、たまに死にそうになるぞ」
「普通に生活してても、病気や事故とかで危険はあるわ。それに言辞さんのいた世界に比べたら治安は良いって言えないし」
「まあ、そうだな」
「リリィ。言辞さんが言っていたんだけど、人の一生って小説一冊分になるらしいって聞いたことがあるって言っていたの。私は、リリィのお陰で二冊分ぐらいにはなるかしら?」
そう言うとニコリとメイは笑った。
「お? メイも言辞の小説にメインヒロインとして出たいか? ネタ探しはいつもしているから話しておくぞ」
そうか、メイも私と同じ運命を辿りたいのか?
「いやいや、そうじゃなくてね」
「メイが二冊分か? 私はエピソードひとつだけで四冊もあるな」
「出会う前と結婚した後の加えるとリリィは六冊分?」
「おお。ちょっと凄いな」
と驚く私。
「そうじゃなくて。言辞さんが小説に書いて頂いたおかげで、あなたの友達は私じゃないかってお店に変なのが来るの。ちょっと困ってる」
そう言うとメイは笑った。
「くふふ。でも、メイの彼氏はオルトだぞ。それを知ったら変なのは蹴散らしてくれる。今度言っておくぞ」
「や、やめて。あの人に、そんな……」
と、赤くなるメイ。
「にしし。まあ冗談だけど、オルトにはメイのお店に寄るように言っておくよ。どんなところで仕事しているか見てもらいたいでしょ?」
「あ、ありがとう」
「メイには親方様がバックについている。オルトはちゃんとメイを御嫁さんにするから安心しろな」
「ま、まだ早いって。お付き合いが始まったばかりだから……」
「にしし。お城デートの時のお返しだ」
「もう。リリィは」
そう言って、二人して笑った。
「じゃ、帰りはオルトに送らせよう」
「え?」
驚いていて返事をする、メイ。
「『えっ?』じゃなくて、普通そうじゃないのか?」
「えっと、え――? 家に?」
「終わったとはいえ、最後までちゃんと気を引き締めないとな。メイに何かあったらオルトも心配する。見送らせてやってくれよ、メイ」
「わ、わかりました」
これで、メイのご両親にもオルトを会わせることが出来る。
シャトレーヌに託されたメイの為の仕事なのだ。
「メイ」
「なあに、リリィ」
「オルトは良いやつだ。責任感のある奴だ」
「うん」
「私とルナが抜けてしまった元帝国暗殺部隊を親方様の助けをしながらまとめている」
「うん」
「ちょっと堅物だけど、仲間と思った奴は大事にする奴だ。きっとメイの事も大事にしてくれる」
「はい。わかりました」
「メイとは性格も合うと思う。あいつも真面目な性格だし」
「うん。気負ってない所も凄いよね」
「な、そうだろ。上二人に不出来な姉さんいる末っ子みたいなんだが、しっかりしているんだよアイツ」
「くふふ。そういうのあるよね?」
「ああ、もっと下にもいるから、末っ子じゃないか?」
「どっちでも良いわ」
「うん。そうだな。どっちでも良いな」
しばらくしてオルトがやって来た。
メイの事を初めて話した時には仏頂面だったのに、今は妙に緊張している。
親方様、オルトになんて言ったんだろう?
気になるから後で聞いてみよう。
あ、私が聞かなくてもルナが勝手に調べて教えてくれるかな?
「では姉様、メイ様をお送りしてきます。その後戻ったら警備に付きます」
「うん。気をつけてな」
「姉様は、お屋敷に戻られるので?」
「うん。使用人さん達が荷物をまとめているところだ。それが終われば屋敷に帰る」
「わかりました。姉様もお気をつけて」
「ありがとな」
「ローズ様にも、お礼をよろしくお願いします。こんどお伺いしたい。メルティの件、お手を煩わせて頂いたようで」
「うん。伝えておく。このままコッソリ帰ろうものなら、屋敷に軍隊連れて襲撃してきそうだからな。ちゃんと挨拶して帰らないと……」
「フッ。姉様は、相変わらずローズ様を……」
オルトがメイの視線に気が付いて話を止めた。
「あ、あの……。何か?」
オルトがメイに尋ねる。
「い、いえ」
(あっ!)
鈍感な私でも気が付いた。
「じゃ、オルト。直ぐ行け。メイの事、よろしくな」
「はい。では失礼します」
とオルト。
「じゃ、リリィ。またね?」
メイは、機嫌を直してくれた。
(へぇ。メイもあんな拗ねた顔するんだな。意外と、可愛いところあるんだな)
二人が落ち着くまでは、今までの様にオルトに気軽に話しかけないよう気を付けよう。
と、心に決めた瞬間だった。




