問い詰められた話。
土日を挟んで月曜日。いつもどうり学校についたのだが、なんだかクラスの雰囲気が違う。普段なら教室で騒いでるグループが今日は少し静かだ。何事かとそわそわしていると、担任の先生が教室に入ってきた。
「今日は皆さんに話があります。実はこのクラスの小谷俊平君が金曜日から行方不明になりました。学校の後、家に帰っていないそうです。もし誰か行方を知っていたら先生に教えてください。」
僕はこの話を聞いて驚いた。なぜかといえば、行方不明になった小谷俊平は金曜日に僕を脅していた人物だったからだ。休み時間になると、今までほとんど話したこともないクラスメイトたちが僕のところに集まってきた。
「お前なんか知らないの?放課後話してなかった?」
「いや……全く。」
実際、心当たりは全くなかった。そもそも彼は僕を脅しこそすれど友達と呼べるような存在ではなかったのだ。
「なぁ、あいつがどこにいるか本当にわからないのか?」
「さっぱり……」
「じゃあ最後に会ってたのは誰なんだよ」
「それは……」
言い淀む僕に痺れを切らせたのか、一人の男子生徒が僕に掴みかかってくる。
「おい、まさかお前がやったんじゃないだろうな!?」
その時、ちょうどチャイムが鳴ってしまったため、皆自分の席に戻っていった。ただ、彼らの目は明らかに疑いの色を浮かべていた。
その日の授業中はずっと居心地の悪い思いをすることになった。
昼休み、いつも通り弁当を食べていると怜が来た。
「先輩、少し顔色が悪いように見えますけど、大丈夫ですか?」
「まぁ大丈夫だけど……どうしてここに来たんだい?」
「それはもちろん、先輩と一緒にご飯を食べるために決まってます!」
「そっか……」
「もしかして迷惑でした?」
「そんなことはないよ。でも……」
「でも?」
「いやなんでもないよ」
怜が作ってくれた卵焼きを口に運ぶ。うん、美味しい。いつもながら料理上手いな。
「先輩!放課後、ちょっとお話ししたいことがあるんですが良いでしょうか?」
「別にいいけど、どんな内容だい?」
「それは……秘密です♪」
可愛らしくウインクをする怜。こんな状況だが、なんだかとても喜ばしく感じる。昼食が終わった後、怜はどこかへ行ってしまい、僕は一人教室に残っていた。
「さて、これからどうするか」
などと考えていると、
「あの、ちょっと良いかな?」
声をかけられたので振り向くとそこには見知らぬ女子生徒がいた。
「えっと……君は」
僕が名前を聞く前に彼女は自己紹介を始めた。
「初めまして、私は小谷理沙っていいます。小谷俊平の妹で、彼の行方について何か知ってるんじゃないかと思って貴方に声をかけさせていただきました。」
「いや、特に何も知らないよ。」
「嘘つかないでください」
いきなり強い口調で言われてびっくりしてしまった。
「貴方、昨日の放課後、兄と何を話してたんですか?」
「……本当に何も知らないよ」
「嘘つき」
また嘘呼ばわりされてしまった。
「兄がどこに行ったのか知っているんでしょう?ねぇ教えて下さい。」
彼女の表情は必死そのものだ。
「本当に知らないんだって。」
「そんなわけないじゃないですか!」
「本当だって」
「いい加減にして!」
突然大きな声で怒鳴られたのでついビクッとなってしまった。周囲の人もちらちらとこちらを見てくる。
「貴方、私のこと舐めてるんですか?私がどれだけ兄のことを心配しているかわかってるんですか?なのになんでそんな態度取るんですか?」
「僕は何も知らないんだって!」
「……そうですか」
すると彼女はポケットからカッターナイフを取り出して僕に向けてきた。
「これで先輩のことを切りつけても良いんですよ?私、本気ですからね」
正直かなり怖い。今すぐ逃げ出してしまいたい。だがここで逃げたら何の解決にもならないし、何より彼女をこのまま放っておくことはできない。
「……とりあえず落ち着こうか。」
僕はなるべく優しいトーンで言う。
「落ち着いてますよ。だから早く答えてください。」
少しは落ち着いた様子だったが、刃物を持っているというだけで恐怖を感じてしまう。
「……ごめん、本当に心当たりがないんだ。」
「……本当に?」
「ああ」
納得しきれていない様子だったが、
「……そうですか。ではもう用はないですね。さようなら。」
と言って彼女は教室から出て行こうとする。なんとか呼び止めようとしたが言葉が出てこず、そのまま見送ってしまった。