帰宅中、いきなり可愛い女の子に声を掛けられる話。
高校二年生の春、僕こと涼風颯斗はいつものように一人で家に帰っていた。高校デビューに失敗してからというもの、周囲の人と関わることはほぼない。かと言って特に寂しいわけでもなく、自分は一人でも生きていけるタイプなんだろう。そんなどうでもいいことを考えていると、ふと、一人の女の子の声が聞こえた。
「あの……」
振り返るとそこには僕と同じくらいの身長をした少女がいた。綺麗な黒髪は腰まで伸びており、前髪をヘアピンで止めている。大きな瞳からはどこか気弱そうな印象を受けた。そして、僕と同じ高校の制服を着ている。彼女は何やら不安げな表情をしている。
「何か用ですか?」
そう聞くと彼女は少し驚いたような顔をした後、
「あっ、えっと……その……」
と言いながら俯いてしまった。しばらくすると意を決したように顔を上げ、こちらを見つめてきた。そして口を開く。
「私に勉強を教えてください!」
……はい?突然のお願いに思考が追いつかない。しかし彼女の真剣な眼差しを見て、冗談ではなさそうなことはわかった。とりあえず話を聞くことにする。
「えっと、どうして?」
当然といえば当然だが、理由を聞いてみた。すると彼女はこう答えた。
「実は私、この学校に入るためにすごく頑張って勉強して、やっと入れたんです。でも授業についていけなくて……。」
確かにこの学校は進学校ではあるし、僕も最初は苦労した。
そこで疑問が生じた。
「それなら他の人に教えてもらえばいいんじゃないのかな?」
わざわざ僕を選ぶ必要はないはずだ。しかし彼女は首を横に振った。
「みんな忙しくてなかなか時間が取れないみたいで……。それに私、今まで友達がいなかったので頼れる人がいないんです。」
「なるほどね……」
それでも知らない人である僕に声をかけるだろうか?あれこれと思考を巡らせたが、きっと彼女なりに必死だったんだろうという結論に落ち着いた。
僕は少し考えた後、彼女に言った。
「いいよ、引き受けよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!じゃあさっそく明日とか大丈夫ですか?」
「ああ、空いてるよ。場所はどこが良いかな?」
「図書館なんてどうかなって思うんですけど……」
「うん、良いと思うよ。」
こうして僕らの勉強会は始まった。