「夏の雨はいつか晴れる、でも冬の雨はずっと冷たい」
ー生と死ー
ー誕生と臨終は表裏一体であるー
「ねぇ知ってる、最近の行方不明事件とかって」
「全部のっぺらぼうの仕業だって」
「何それありえない」
それはまことしやかに噂にされる都市伝説。
のはずだった。
噂話をしていた子たちの場所。
「ねぇおねーさんたちその話、もっと詳しく聞かせて・・・」
そこには赤い水たまりが広がっていたー。
それは、満月の夜。
寒い冬の雨の夜。
寒い…凍えそう…。
葉っぱから落ちた雫が肩に落ちて体温を奪っていく。
雨が降ってる。
冷たい雨。
冬に降る、冷たい雨だ。
冬の雨って嫌いだ。
だって晴れないから。
夏の雨は、心地よい。
だって降った後には綺麗な温かい綺麗な青空が戻ってくるから。。
夏の雨がテーマの物語は、夏に雨が降っても最後には晴れて幸せなハッピーエンドになるから。
でも冬の雨は違う。
晴れても凍えそうな薄暗い空とどんよりした雲と冷たい空気が残るだけだ。
痛っ・・・。
濡れた服の水分が、脇腹についた切り傷に浸み込んで肌を刺激する。
走るのはもう疲れた、壁にもたれかかる。
目の前には、「のっぺらぼう」の人型の化け物がいた。
人型の化け物が腕を伸ばす、私の首絞めようと手を伸ばしてくる。
最後だと思った瞬間、化け物の頭部が風船で割れたかのように大きな音をたてて破裂した。
パァン
そんな無機質な破裂音とザーザーとなる雨の音と共に現れたのは。
「傘持ってないのか?濡れたら風邪ひくぞ、早く家へ帰れ」
銃と傘を手に持った一人の男の子。
「あ…ありだとう」
私に傘の方を差しだしてきた。
へたり込んでいた私は、傘を受けとる、手が触れた。
黒髪の綺麗な人。
少し濡れた髪の毛がそれを一層引き立たせていた。
声を綺麗だと思った。
私は思わず、見惚れてしまった。
助けてくれた上に傘までくれてお礼を言わないけないのを忘れるほどに、美しかった。
彼は、笑う。
やっぱり、綺麗だ。
「あ、あの!」
「あなたは?」
それは。
孤独だった私に、雫のように冷たく降ってきた。
希望であり、これかの人生で憑いてくる呪いだった。
「俺に触れれる…のか」
「そうか…君は」
「お前は俺のために、生きろ」
「え……それは?」
その言葉を言われた瞬間、私は彼に引き込まれた。
引き込まれてしまっていた。
「同じだ…俺もこの雨は嫌いだから」
「にしても驚いたな・・・のっぺらぼうの攻撃で死なないしさらに特異体質と来た、原石ってことか」
この人は…私と同じでこの冬の雨が嫌い。
気づいたら私は彼の名前を訪ねていた。
「あなたの名前は?」
「俺は澪、お前を呪う死神の代行者だ」
私は、この呪いを解くことができるだろか。
そして、私は気づいてしまった。
頭部が破裂した化け物が仰向けに倒れれていた。
すると今までのっぺらぼうだった化け物の頭部が変化し。
人の顔になった。
その顔は・・・妹の顔だった。
「ユルサナイ」
「……ぁああああああ」
「嫌ぁああ!」
その時の光景は今でも脳裏に焼き付き、忘れた頃に悪夢としてよみがえり。
うなされながら朝を目を覚ます。
汗で濡れた私の長い黒髪がしっとりと肌に張り付く。
髪と顔を洗い。
朝の身支度を終えて、私服に着替えて目的の場所まで移動している。
私の名前は水。
普段の私は普通の両親から三姉妹の真ん中の生まれの16歳の少女で、学校では成績優秀の美少女と言われている。
けど、私にそんな自覚はない。
普通の女の子だと思う。
私は待ち合わせの時間まで、昨日起きたことを考えていた。
私を助けてくれた澪と呼ばれる少年のことを。
彼は一体何者でどこから来たのか?。
昨日のこと思い返す。
私はこの日、もうこの世界なんでどうでもいい思っていた。
あの日は、葬式があった。
両親と妹の葬式だった。
死因は交通事故だった。
暴走した車が両親の乗ってる車に向かい、衝突した。
たったそれだけの理由でいなくなった。
残ったのは私と姉だけ。
突如として家族を失った悲しみに暮れる時間もなく、私は選択を余儀なくされた。
両親の遺産は残ってはいるが裕福ではなくむしろ生活は厳しかったため。
アルバイトをしていても、卒業までの生活費や持つかどうかでその先の進学もできるのかわからない。
姉は成人して仕事もしていて結婚もしてる、その結婚相手っていうのが昔近所で姉の幼馴染で近所で付き合いあったお義兄さん、私も彼とはよく一緒に遊んでもらっていて実は私の好きだった人っていう。
当然、姉の家に世話になることも考えたけど…。
しかし現在お姉ちゃんは妊娠中でもうすぐ赤ちゃんも生まれる。
「水もうちにくればいいのに・・・本当にいいの」
「心配しないでお姉ちゃん、バイトするし遺産思ったよりあったし一人でも大丈夫・・・たまに様子を見てきてくれるだけでいいから」
「それよりもお姉ちゃんは、今はお腹の赤ちゃんを大切にしてあげて」
「無理だったらすぐ言ってよ」
「わかってるって」
私は、姉の誘いを断った。
姉には姉の幸せがある、きっとこれから幸せに満ちあふれて生きていくのだろう。
そんなとこに私が居ていいのかと思うし。
正直、そんな幸せを見せつけられながら過ごすのは何か嫌だった。
だから断った。
でも…こんなの不公平だ。
姉にはまだたくさんの大切なものが残ってるのに。
私には何もない、何もなかった。
姉だって邪魔になれば私を捨てるかもしれない。
孤独だった、地球でこの世界でたった一人で取り残された気持ちっていうのかな。
自分でもわかってる、勝手におねえちゃんに嫉妬していて勝手に絶望して。
勝手に死のうと考えてる。
もうなにもかもやんなっちゃった…。
そんなとき、のっぺらぼうの化け物に襲われた。
最初は死にたくなくて逃げ回った。
でも無理だとわかると。
ああ、私はこの化け物に訳も分からず殺されて死ぬんだと思った。
本当は凄く嫌だけど、もうそれでいいかって思ってた。
でもそれは覆された。
突如として現れた澪と名乗る男の子によって。
彼はいったい何者なの?。
そして。
彼が言った言葉。
「俺のために、生きろ」
その言葉が脳裏に深く焼き付いて離れなかった。
俺は名前は澪。
俺は代々祓いに関して名のある神社の跡取りだった。
その関係で、福音にも所属してる。
俺は水と呼ばれる少女との約束の場所までの移動中考えていた。
あの日も何のことのない任務を終えての帰り道だった。
一人の少女と出会った。
俺の好みじゃないけど長い黒髪の可愛い女の子だった。
ほどなくして、目的地に着いた。
そこで彼女の横顔を見かける。
遠くで見てもすぐわかるくらい、自然と引き込まれる。
今見ても可愛い思えるくらいに彼女はとても可憐だ。
あの時彼女は泣いていた。
それはきっと痛くて泣いていたからじゃない。
全てを失っていて、孤独で。
悲しくて泣いていたんだろう。
どこか自分と似てる気がした。
だから、俺は彼女を放っておけなかった。
だから、俺は彼女が死んでしまわないよう呪いの言葉を送った。
それは彼女の体質が俺の特異な体質と合致しうる打算的可能性も含めてだ。
私はぼうっと待っていた。
もうすぐ、約束の時が来ようとしていた。
あの後、澪さんにへ近くの神社へと来るようにへと言われていた。
背後から声が聞こえる。
私は振り向いてその顔を確認する。
間違いない。
「来たか・・・まさか本当にくるなんてな」
彼が、澪さんが来てた。
「あ・・・おはようございます、初めまして水って言います」
昨日と今日と出会いの関係でしかないので。
言うこと見当たらず、とりあえず挨拶してしまう。
「知ってる、調べてあるからな」
「じゃあさっそく、いくか」
そんな私の心配も気にせず。
彼は親指を後ろに向け行こうぜと言わんばかりに促し、どこかへ歩いていく。
「え?どこへ」
私は目的地はここじゃないの?と聞く。
「俺達の福音へ」
彼の本当の目的の場所はどうやら違うところらしい。
福音の弾丸 (ゴスペル・バレット)
建物にはそう書いてあった。
案内された部屋に入る。
「失礼します」
「お帰り澪、隣の彼女が言ってた澪が呪った子かな?」
「あの・・・?」
部屋に入ると、茶髪の眼鏡をかけた中年男性がいた。
「失礼した、自己紹介がまだだったね」
「私はこの福音の弾丸の東京支部の室長の長次郎というものでね」
「こうして、君のような祓いの才能のある人材の採用や霊能事件全体の指揮をとってる者だよ」
ここが何かの組織で、この人がここの偉い人それはなんとなくわかった。
「とりあえず、今の君を取り巻く状況についてこの世界の裏側を説明しようか」
彼らが言う説明が始まった。
霊能事件
社会ではまことしやかに噂される都市伝説全般をそう呼ぶ。
現代は霊能による凶悪な事件が多発する時代になっていた。
人々の負の感情が呪いとして姿形を表し、人々を襲う。
そんな霊能を祓い対抗するために政府直属の対抗組織が設立された。
その組織の名は「福音の弾丸」。
輪廻転生
はるか昔から死んだ人間は生まれ変わりまた次の生を受ける。
天国や地獄の存在は現代の科学では確認できない。
だけど、この世界では輪廻転生は確認された。
それは祓われた人間の霊魂が光となって消えて、空気中に溶けていったからだ。
霊能犯罪は何故起こるか、そして何故祓われなければいけないのか。
通常、死んだ人間の霊魂ははすぐに消えて輪廻転生を始める。
しかし強い念を持った霊魂は成仏しきれず、現世に残り続け人々に害をなす。
彼らの霊魂を鎮め、自然の中の輪廻に還すことを行う必要がある。
それらを「祓い」と呼ぶ。
だから、悪事を働く呪われた霊魂を祓い輪廻転生させる必要があるのだった。
祓いには様々な道具が使われる、昔は護符や刀で行われていたが今の主流は現代兵器を使う。
俺は、銃を使って祓いを行なう。
効率がいいからだ。
「顔名無」
それは。
未練や後悔、恨みなどの強い念を持った霊魂が。
輪廻転生を拒み、霊魂が実体をもって人々に害をなす存在「のっぺらぼう」。
安い言葉だが客観的に悪霊と表すのが分かりやすいか。
「のっぺらぼう」の特徴は、ほとんどが生前の人の「形」だけは保ってること。
と言っても保ってるのは形だけで、容姿性別や身長は関係なくなり。
全身が黒い体に変わってしまう、またその身体能力は個体によるが常人の数倍から数十倍とされる。
そして、最大の特徴が見境なく人を襲うことと。
襲った人の霊魂を食べて存在を維持すること。
「顔」がないこと、また顔がないから喋れない。
まぁ、たまに体がめちゃくちゃ大きい奴や、新たな体と意思を獲得した上位個体がいるがな。
だがそんなのっぺらぼうがが唯一顔を取り戻す時がある。
それは祓われ輪廻転生したときだ。
その時だけは、生前の顔に戻ることができる。
ああ後、これは余談だが。
俗に言うトイレの花子さんやお岩さんなんかは本当はのっぺらぼうの上位存在だったんじゃないかって学説もあるくらいだってな。
彼らの説明終了はした。
きっとまだ頭の中で整理しきれてない。
「ざっとこんなとこだ、何か質問は?」
「…まぁだいたいはわかりました」
「…」
いっぺんに色々難しそうなこと、それもおよそ現実の物理法則に則さないアニメやゲームの世界のような事実を聞かされて頭がどうかになりそうだったけど。
あの時、のっぺらぼうが顔が戻った瞬間。
あの顔は妹の顔だった。
一番聞かなきゃいけないことを聞くべきだと思った。
「あの時、じゃああの時…澪さんが祓ったのは…」
「私の妹だったんですね」
「そうだ」
「…」
澪さんは壁にもたれかけながら腕を組み無感情にそう言い放った。
そこに、優しさや慈悲はなかった。
ただあるのは残酷な事実のみ。
そんな悲しい事実のを突き付けられても。
聞きたいことがまだあった。
「二つ知りたいことがあります」
でもそれを聞いたら後戻りできなくなる。
でも知らなきゃいけないと思ったから言わなきゃいけないことだと思うから。
聞いても後悔するだろう、でも聞かなかったらきっと後悔する。
私は、スカートの俯いて端をぎゅっと握りしてめ言葉を絞り出す。
「妹がそこにいたのなら…まだ私の父と母は祓われていないんですよね?」
「そうだ、俺と福音は水がいた近くで強い霊魂の存在を「三体」探知したからあそこへ来た」
「…やっぱりそう…だったんだ」
薄々わかっていた。
あの場に妹がいたなら、当然いるはずだと考えられる。
でも分かっていても、感情が理解を拒んでいる。
優しかった両親が、人を襲う怪物になってしまってたなんて。
私の中のショックは大きかった。
複雑な感情の中。
澪さんは言葉を続ける。
「そしていまだに、霊魂の力はあの付近で留まりつづけている」
「そして、このままだと水のお姉さんが身ごもってる赤子に魂が宿らないかもしれねぇってな」
「え…?」
この澪さんの発言はどういいう意図で言ってるのだろう?。
姉とそのお腹の胎児に何か関係があるというのだろうか。
「澪、それは・・・」
「すまん長次郎さん、俺はもうこいつを呪っちかまったからさ」
それ以上の発言は余計だと、長次郎さんが言うが。
澪さんは、制止を意に介さず続ける。
「あくまで可能性の話だけどな、言っただろ魂は輪廻転生するって」
「祓われた魂は近くの波長の合う胎児に宿ることが多い、水のお姉さんは近親者で可能性は高い」
つまり、両親ののっぺらぼうを祓わなければもしかしたら姉の赤子は生まれないかもしないということだ。
澪さんはそう言いたかったんだろう。
そしてそれは…。
私に対するもう一つの残酷で悲しい宣告だったことだ。
私は家族が無事だったころ、姉の妊娠の知らせ聞いたときは素直に喜んでいた。
それでも彼は一切躊躇わず言うというとことは。
澪さんにとって、私にとっても何か意味のある言葉のような気がした。
長次郎さんはその先の言葉は不要と言わんばかりに先を促す。
「・・・もう一つは?」
私はもう一つの気になってる事柄を話す。
「はい、澪さんや長次郎さんが最初に言った祓いの力があるって・・・」
「私、今まで幽霊を見たことも一度もないし霊感とかそういうのも無い・・・と思います」
澪さんも長次郎さんも二人は祓いの才能があるとか言ったけど。
今まで生きてきて、そんな特別な力を自覚したことはなかった。
「ああ、そのことか」
「それは私が説明しよう」
長次郎さんが言うには。
水君、君には祓いの才能がある。
それは何故かというと。
ショックな体験をしたり、死に近づけ近づくほど。
自身に眠る霊魂の力が強まるらしい。
そう言った人間は自然とのっぺらぼうの存在を視認できるようになる。
故に、霊魂の力が強いものはのっぺらぼうに攻撃されても。
霊的な障壁が働いていくばかは耐えられるらしい。
だからあの日、私は脇腹に切り傷程度で済んで逃げ回ることができたらしい。
と言うことらしい。
だけどそれだけじゃないらしい私はちょっと特殊らしく。
澪さんに触れても何とも体質らしい。
澪さんも特異な霊魂の形をしてるらしく。
彼に触れた人間は自我を保てず簡単に催眠状態のようなものになる。
彼の操り人形と化してしまうらしい。
澪さん曰く、私のような触れても平気な体質たまにいるらしく。
だから、澪さんは出会ってすぐ私の才覚を見抜けた、と。
私に才能があるのはそういうことらしい。
正直にわかには信じ難い…信じ難いけど。
もし…私に力があるなら…私の力でできることがあるなら…
一通り、聞きたいことを終えた私は。
一呼吸するように目を閉じ考えた後。
「私をここに入れてさい」
彼らにそう言った。
福音の銃弾に所属したい意思を伝えた。
私の存在が、家族をこの世界に縛り付けて私や…友達や生まれてくる命にも害をなすなら。
知ったしまった以上放ってはおけないと思う。
もちろん、祓いの仕事なんて危険なことはこの人たちに任せて。
明日から全部忘れたふりして見てふりして過ごすこともできるだろう。
「水君が望んで入ってくれるなら、私たちも願ったり叶ったりだよ…だけど」
「…本気で言ってるんだな、この世界に入ればもう後戻りはできないぞ」
裏側の世界に踏み込めば今以上に辛いことも痛いことも悲しいこともあるだろう。
覚悟なんて無理。
できっこない、でも。
「今はまだ迷って…ます」
「覚悟は…まだ…でも!」
「……最後に見送ってあげたくて…生まれてく赤ちゃんがかわいそうだよ」
そう私は両手と服の袖では抑えきれない涙をぬぐいながら言った。
私も見た、二人はそうかとだけ言って納得してくれたと思う。
「お金も欲しいですし」
「それもかよ」
澪と出会ってから一週間が立った。
私は、その期間でのっぺらぼうを払うための戦闘訓練や武器の扱いかたを澪から習っていた。
今は、澪さんが使ってる祓いの道具として使ってる拳銃の使い方のレクチャーを受けていた。
射撃台の前に立ち、狙いを立ち尽くしてるとき。
「いいか、最初は反動で吹っ飛ばないよう俺が後ろから支えてやる」
澪さんが、後ろから腰に手を当てて抱き着いてきた。
そして顔を近づけて耳元で囁くように。
「思い切りぶっ放せ」
って言ってきた。
「ひぁ!」
「ち、近い!……です」
私は思わず、声にもならない鳥みたいな鳴き声が出てしまい。
反射的に押しのけようと手で澪さんの体を抑える。
「何変な声出してるんだよ、何か言ったか?」
そんな私の気持ちも知らず澪はあっけらかんとした態度でことを進めようとしてくる。
「な、なんでも・・・ないです!・・・・ともかくやってみます!」
初めて会った時から容姿と同じく綺麗だと思った美声で囁かれて。
胸がドキドキするような動悸が止まらない。
彼の容姿はどちらかといえば好みの方だ。
これが恋だとか恋愛だとかそういう感情なのか今の私には分からない。
今まで異性と付き合ったことなんてなかったから。
おおお、落ち着け私…!。
今は訓練に集中だ!。
深呼吸。
「すぅー・・・はぁー」
よし、大丈夫だ。
よく考えたら、銃の反動は慣れてない人は転倒する危険性があると聞いたことがある。
そう考えたら、自然と落ち着いてきた。
祓い清めの力が籠められた弾丸をカートリッジに装填して。
安全装置を解除して狙いをつけて。
的の真ん中に向かって撃つだけだけど、今まで銃なんて触ったことない純然たる初心者には難しかった。
最初は、上手くいかず的から外れた所にばかり飛んでいったけど。
数時間しないうちに、中心とは言わなくても段々的に当たるようになってきた。
「よし、だいぶ慣れてきたな・・・案外筋が良いな」
訓練を終えて、私たちは組織の備品係に武器を頼んでいた。
「水に合う銃も選んでおいた」
「俺は45口径を使ってるけど、こいつは反動が強いしメンテも携帯しずらい」
「水に合うのはベレッタかグロッグだな」
澪さんは私の為に、合う拳銃を見繕って選んでくれた。
「小さい分命中率は悪いから、そこは訓練して補っていけ」
「小さい・・・これなら私でも使えそう、ありがとう澪」
澪さんのアドバイスに、お礼を言うきっと私は口元が緩んで笑顔だったのかもしれない。
「・・・かわいいな」
澪さんは何か小さく言った気がしたような…
澪さんと一緒に帰り道を歩いていた時、私は結婚相手のパートナーと歩いてる姉を発見してしまった。
突然のことだったので隠れる暇もなく見つかってしまった。
正直、姉には複雑な感情を抱いてるし。
隣の澪さんとともども、公にしずらい仕事をしてるので。
危険な仕事をしてるとばれたら面倒なことになりそうだし。
会いたくなかった。
「水じゃない!どうしたの?あれ隣の方は?」
「もしかして~彼氏さん?いつの間にこんなイケメンの彼氏見つけたの?」
「な!?違う違う…ただのバイトの先輩だって」
「えーと、俺は澪って言います水さんとは仲良くさせていただき・・・」
それでなんで澪さんも顔緊張して赤くしながら曖昧な感じ返答なの?。
もっとちゃんと否定してしてよ。
いやっ完全否定されるのもなんかやだな…。
「なれてねぇんだよ、女の子と二人で歩いたことねぇから」
そう澪さんがボソッと言った気がした。
初心な乙女ですか?。
「なんだ違うのかぁまぁでも…」
「水の明るい顔が見れて良かった、一人で抱え込んでないか心配して損した」
「水ちゃんのことが心配でね、僕たち何かできないかって考えたんだけど・・・」
「…あ」
心配されたことに、胸がチクりと刺された感じになって。
その場から逃げたくなって。
私は、無理矢理話題を反らした。
目を背けていても。
お姉ちゃんとお義兄さんが本当に心配してくれているがわかってしまう。
「それより、お腹の赤ちゃんは?」
「一週間後に出産予定よ」
…そうだ。
お姉ちゃんのお腹にいるこの子は、もしかしたら生まれることができないかもしれないのだ…。
「お腹にいても気な子でね、水も触ってみるもしかたら挨拶してくれるかもよ」
お姉ちゃんがお腹に触ること促してくる。
断ることもできず、おずおずおっかなびっくりと赤ちゃんがいるお腹に触れていく。
「いいの?…じゃあ、こんにちは赤ちゃん」
「わ…お腹蹴ってる」
動いているのが分かる。
トントン、小さな足か手がお腹をたたいている。
この子は今生きようとしている。
今を早く生まれたい、生まれてパパとママの顔が見たいって言ってる気がする。
「赤ちゃん元気だね」
「でしょ」
私は、思わず笑顔になっていた。
こんな気持ちになるのいつ以来だろう。
「水の笑った顔久しぶりね」
「さてこんな良い先輩がいるな心配は杞憂だったか、じゃあ邪魔しちゃ悪いし私たちはいくね」
「未成年だからハメは外さないようにね」
って、だから澪さんと私はそんな関係じゃないって。
「こんど生まれる子名前は何にしようか」
「そうね~」
「もう、そんなんじゃないって…でもそうか…そうだよね」
私は、遠くに離れていく二人を見送りながら。
心を決めた。
隣の澪さんと話す。
「ねぇ澪さん」
「なんだ?」
「私、決めたよ」
私の決意を。
澪はそうかとだけ言った。
そして私にとって運命の日がやってきた。
福音の情報では、病院の今は使われてない廃病棟に両親ののっぺらぼうが潜んでいるらしい。
何の因果か偶然にも、隣の病棟では出産の為に姉が入院している。
今は、罠を張って奴らが来るのを待つだけだ。
「来たぞ、霊魂の反応が二つ!」
スマホの霊魂探知アプリに霊魂を表示にする二つ青い点が表示される。
事前の作戦では、人間を模した霊魂の塊を入れた人形を置いて。
のっぺらぼうがそれに近づいたら、周りの祓いの力が籠められた護符が反応して。
奴らの足を止める。
護符の見える物陰で私たちは待機して、止まったととこを祓う。
そういう作戦だ。
「いいか手筈通りいくぞまずは、罠で足を止める」
「そこに祓いの銃弾をぶち込め」
「わかった」
澪曰く、完璧な作戦らしい。
探知から数分もしないうちに、奴らがやってきて罠にかかった。
護符の結界が反応し青白く光り。
護符から白い布のような光の塊が出て、のっぺらぼうを拘束する。
そこへ、私たちが出ていき。
銃を構え、のっぺらぼうに祓いの力を籠めた銃弾を撃ち込む。
はずだった。
バチバチバチ!。
耳障りな電気がショートした音と共に、のっぺらぼうを拘束していた。
護符の布が紙切れみたいに破かれ。
護符自体も何者かの攻撃でびりびりに破れていた。
「何!?護符が破られた!?」
「霊魂が三つ!しまった!」
そう言った瞬間、二人ののっぺらぼうの反対側の明かりの届かない奥の方から天井を這うように四つん這いで移動するもう一体ののっぺらぼうが現れた。
多分、よくわかんなけど。
この街に今いるのっぺらぼうは両親と妹のものだけではなかったということ…?。
そして拘束から解放された方の二人のっぺらぼう達は、私に向かって攻撃しようと腕を振るって殴りつけようと向かってくる。
「澪さん!?」
「俺のことはいい!」
「こいつはやばい、俺がこいつ抑えてるうちに早く親の方を祓え!」
そう言うと澪さんは今までに見たことない容姿になっていた。
その姿は狐のような、白髪で耳と尻尾が生えた姿だった。
冷静に考えろ。
もう一体の方は澪さんに任せていれば大丈夫。
今は、目の前のあの二人に集中しろ。
「っはい・・・!」
両親の方であろうのっぺらぼうに相対する。
俺は、俺自身に眠る妖狐の力を引き出す。
銃を捨てて、霊力で作った刀で新しく現れたのっぺらぼうを真横に切り裂いた。
通常の奴より硬い、上位個体・・・?。
真っ二つされたのっぺらぼうは、窓から落ちていく。
俺は落ちる瞬間しっかり確認した。
切り裂いたのに奴は顔が戻ってない・・・やはり奴は上位ののっぺらぼうか。
両親の方であろうのっぺらぼうに相対する。
私は、自分を奮い立たせるに叫んで両手で銃を掴み引き金を引く。
「うわああああ!」
一つまた一つと放っていく。
硝煙の匂いと排出された薬莢がやけに鬱陶しく感じた。
放った銃弾がのっぺらぼうのの体を貫いていく。
銃弾を多数受けた二人のっぺらぼうは地面に仰向けに倒れていく。
のっぺらぼうの顔が半分だけ両親の顔に戻っていく。
きっと終わりが近いんだ、二人はもうすぐ祓われてしまう。
「家族に最後の引き金を引く覚悟はあるか」
イレギュラーなのっぺらぼうとの戦闘を終わらせた澪さんが戻って来て私に問う。
容姿は変わっていたままだった。
でもそんなことはは後でいい。
今の私の気持ちは…。
「…やっぱり!…無理だ私……でも」
やっぱり別れを告げるなんて辛すぎるよ…!。
でも。
「最後にさよならも言えないなんて…そんなの悲しい」
言えないともっと悲しくなるから。
後悔はしたくないから。
「だから…」
澪さんは一言つぶやく。
「俺もそうだった、初めては…お母さんだった」
「お別れくらいちゃんと言ってこい…」
「澪・・・さん」
そう言った、澪さんの顔はどこか寂しそうだった。
でもそれは澪さんの、後押しだっただろうな。
「わたし…ちゃんと言うよ」
もう銃は…使わないでもいいと思った。
懐のホルスターにしまい。
両親の手の平で顔を触る。
その瞬間だった。
虚ろだった、両親の瞳に光が宿り。
半分だった顔は完全に元の両親へと戻った。
「ああ…水」
「私たちとしずくは見守ってるから、生きて…おねがい」
顔が戻った両親は口を開いて言葉を話す。
「ああ…お父さん…お母さん…!」
「「水、生まれてきてありがとう」」
「私こそ…最後に話せてよかった…」
「ありがとう」
最後に私はそう言う。
その直後、両親は光となって消えていき。
隣の病棟へと向かっていた。
…最後に両親と話せた。
それだけで、心が軽くなっていくのを感じた。
この日も雨が降っていた。
私はコートとマフラーを着ていた
私は両親と妹の墓参りを終えた後だった。
私と澪さんは歩道橋の上で行き交う人々や車を見ている。
「水、聞いてると思うが・・・無事に生まれたってよ」
「うん…よかった」
「妹には、言えなかったけど……」
出産は成功、おそらく輪廻転生して上手く胎児に入ったのだろう。
「コーヒー」
「ありがと」
私は、澪さんが買ってきた缶コーヒーを受け取り。
飲みながら。
雨の降る町の景色を見る。
私は、冬にふる雨が嫌いだった。
晴れないから。
でも、今は違う。
「ねぇ・・・冬の雨は冷たいよ」
雨の水滴が。
雪の結晶へと変わった。
「でも、ひとつ今までと違うことに出会えた澪と出会えた」
「冬の雨は、雪の花に変わる」
冬の雨は雪に変わる。
澪さんに会ったことがこんなにも心を雪の花みたいに温かい気持ちにさせる。
「これからもよろしくね澪さん」
「今更だ、これからも俺も水と一緒にいたいって思ってる」
これが恋かどうかわからないけど。
この先も彼と一緒にいたいと思っていた。
思ってしまっていた。
それが私にかけられた彼の呪いだと思うからー。
「おかーさんもおとーさんも勝手に満足してさ、おかしいよね・・・おねーちゃん」
そして呪いは一つではなかった。