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第一章 第一話 いつもと違う何か

 紅嶋秀一二十九歳を乗せた、薄緑色の二十人乗り大型ワンボックスカーと其れに続く白色の八人乗り小型ワンボックスカー二台が、大型商業施設『タキオン・ショッピングモール弐番館』の裏手、商品搬入口専用門前に到着した。


 三台のワンボックスのサイドにはそれぞれ、『有限会社ベータテンプルマン』と書かれた百ミリ幅の透明のテプラ、そして住所と電話番号が書かれたA4サイズ大の真っ白なシールが不細工に貼ってある。


 朝夕が少し寒くなり、秋の季節の気配が近くに感じられる九月十六日土曜日、朝五時半より少し前。

 前日の天気予報通り、空には分厚い雲が垂れ込め、曇り空らしく、辺り一面、まだまだ暗闇に包まれている。


 ただ、もう既に何度も来ている商業施設だけに、辺りの見通しが利かずとも、運転手の大久保寛太六十六歳は、車を何処に止めれば良いか熟知している。


 大久保がサイドブレーキを引いたのを確認してから、紅嶋秀一は大型ワンボックスカーを降り、直ぐ後ろに停車したワンボックスカーから降りてきた高丘茜音と連れだって『タキオン・ショッピングモール弐番館』裏手、商品搬入口専用門を越えて直ぐの守衛室に顔を出す。


 「今日は、いつもよりトラックが多いですね?社長?」

 株式会社ベータテンプルマンの社員兼社長秘書の高丘茜音二十五歳がそういったのを聞いて、紅嶋秀一は改めて周囲を見渡す。


 見慣れた、いつもの『タキオン・ショッピングモール弐番館』へ納入する為に順序よく列を成している、大中小様々な地元ナンバーの納入業者のトラックとは別に、少し離れた場所に観た事のない練馬ナンバー、十トントラックよりももう一回り大きな、恐らくは十二トントラックだろう、ウィングサイドパネル機構が一目で分かる真っ白なトラックが五台、『タキオン・ショッピングモール弐番館』の裏手、商品搬入口専用門前の道路に列を成して停まっている。


 「あれ、なんて書いてあるか読める?」

 紅嶋秀一は五台のトラックのサイドに共通して書かれている文字を読もうとしたが、暗がりでよく見えない。


 「さあ・・・私もよく見えません」

 高丘茜音も目を凝らして読もうとするが、やはりよく見えない。


 「ベータさん、ベータさん、何してるんですか・・・急いで入館手続きして貰わないと・・・」

 其処へ、明るいLED懐中電灯を持った守衛、紅嶋秀一もよく見知った、平山が駆け込んでくる。


 「今日の入館は四時とファックスしましたが、届いてませんでしたか?」

 平山が強い口調でそう言ったのを聞き、紅嶋秀一は改めて高丘茜音の目を見る。


 「今日、事務所から出掛けにもファックスは確認してきましたが、届いてませんでした」

 高丘茜音が丁寧な口調で、平山に応える。


 「法華津の間抜けかぁ、また仕事忘れ取るんやな・・・あれだけホウレンソウ忘れるなと、注意したのに、あいつはダメだな」

 平山はそう言って天を仰ぐ。


 「まあ、いいですわ、もうどうにもならんから、とにかく車を大急ぎで駐車場に入れてくれますか?後が閊えてるから、書類は後や、後・・・こうなったら顔パスで通してもベータさんなら良いかも知れんな」

 そう言い残すと、平山は七十五歳の老体に鞭打って、再び守衛室に向かって走り出す。


 「ああ・・・言い忘れ取った。今日はいつもの駐車場所が無いので、『ベータ様』と書いてある区画に、停めてな、泥濘んでて悪いけど、今日だけやから、たぶん」


 「分かりました。それなら先に車入れてから其方に戻ってきます」

 紅嶋秀一がそう言ったのを、平山は走りながら右手を振って応える。


 ◇ ◇ ◇


 夜明け前の暗がりの中で、平山の指示通りに見つけた、薄緑色の二十人乗り大型ワンボックスカーと白色の八人乗り小型ワンボックスカー二台に割り当てられていた駐車場所は、前日の大雨で泥濘んだ、アスファルトが敷かれていない地面丸出しの場所だった。


 「うわぁ・・・今日はエラい場所になってしまいましたな、社長・・・タイヤ滑らんかな?下手したらスタックしますよ」

 バックモニターを確認しつつ、周囲に注意しながら駐車スペースに二十人乗り大型ワンボックスカーを停車させてから大久保が残念そうに声を上げる。

 「それに台車、泥濘でとてもじゃないけれど使えそうに無いですよ」


 「今日はシルバーウィーク初日の土曜やしタキオンさん、それこそ他にイベント、幾つも有るんだろう」

 そう言って紅嶋秀一は二十人乗り大型ワンボックスカーの扉を開けて車外に出る。


 「とにかく時間は充分にあるから大丈夫、台車を汚したら店内で使えなくなるから、舗装したところまでは担いで運びましょう。大久保さん、他の車に作業の指示、お願いします。あと、台車のタイヤ、店の中に入る前の掃除、念入りにするように。万が一にも店内フロア、汚したりでもしたら、ショウどころの話しじゃ無くなるからね?頼むよ?三年前の事、忘れてないよね?」


 「解りました・・・そうでしたな、もちろん忘れるもんですか・・・」

 何かを思い出したように表情を引き締めると大久保はそう応え、運転席から降りて馴れた所作で他のワンボックスカー二台の元に走って行く。

 「今日のバイト君達は何度も来てくれてる子達の中でもエエ子ばっかりやから大丈夫でしょう」


 大久保の声を聞いて右手で応えると、もう既に守衛室の方に向かって歩き始めている高丘茜音の背中を追うように、紅嶋秀一もまた、守衛室の方に向かって小走りする。


 そのタイミングで守衛室の近辺では、通常の納入業者とは別の場所に待機していた五台の十二トントラックが列を成し、ゆっくりと商品搬入口専用門から搬入業者用に用意された駐車場に向かって移動し始めていた。


 そして其れ等の動きは、明らかに『有限会社ベータテンプルマン』所有の薄緑色の二十人乗り大型ワンボックスカーと白色の八人乗り小型ワンボックスカー二台が駐車場から出る事が出来ない場所、つまり、五台の十二トントラックが駐車場から出て行かない限り、『有限会社ベータテンプルマン』所有の薄緑色の二十人乗り大型ワンボックスカーと白色の八人乗り小型ワンボックスカー二台もまた駐車場から出て行く事が出来なくなった状態である事を示していた。


 「うわぁ・・・社員はともかく・・・バイト君達には送迎用のタクシー手配するか」

 紅嶋秀一は肩を落として小声で呟く。


 折しもまた小雨がさめざめと降り始めている。


既出の作品に似ている等、パクリ疑惑等有りましたら、遠慮無くお申し付けください

本人にその気は全く無いですが、題材として「珍しいモノではない」だと、思いますので


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