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月の双子③

体を貫くような爆発音。爆発元は音から判断して恐らく1階玄関付近。

 「急ぐよ…!」

 「は、はいぃ!」

 威勢はよかったがやはり体が付いてこないようで、どこかデジャヴを感じつつ水無月を抱えて走る。

 階段を全段飛ばしで下りて、職員室前を目指す。

 パニック状態の生徒の波の間を縫うように走り抜け、相棒の姿を見つける。

 「響華!こっち!」

 人の波から少し離れたところに有理と緋月がいる。

 「夏波ちゃん…!」

 ≪姫夜ちゃん!≫

 「感動の再開は後!いいから行くわよ、響華!」

 「オーケー、有理」

 

 『ユアサーヴァント』

 

 有理の能力が行使される宣言。それが響いた瞬間、有理の体が淡く輝き、そしてその光は輝きをそのままに小さくなりながら、私へと向かってくる。

 飛んでくる有理が変化した光を私は右手に受け止め、そしてそのまま右手を胸へと叩きつける。

 体に外部から熱がしみ込んでくる感覚、これこそが対象の肉体と言う器に自分を溶かす有理の能力、ユアサーヴァントだ。

『響華、問題はないわね?』

 「うん、大丈夫。このまま強化をよろしく」

 『了解』

 脳内に直接響く有理の声と対話をし、もう一つオーダーを付け加える。

 『Exceed』

 「ありがとう」

 認識能力を中心に私の体のステータス全体が上昇しているのが分かる。

 「さあ行こうか、二人とも。最短ルートで家に帰るよ」

 「えっ?あの、相宮さんは…?」

 『あー。あー。ここにいるわよ。ほら、呆けてないでさっさと動く!』

 私の口が勝手に動く。しかし出てくる声は有理のもの。二人はますます頭上の疑問符を大きくして、それからそれを払うように頭をぶんぶんと振って走り出した私を追いかけ始める。

 「こっち…!」

人の波とは別の通路へ走る。

 本来ならば、この先は行き止まり。突き当りの教室の扉が見えたころに私は止まる。

 「水無月、緋月、「観測者』は使える?」

 「え?あ、はい。使えますけど…」

 ≪何をするんですか?≫

 緊急時に行き止まりに来て、役に立ちそうもない能力を使えと言われて、確かに疑問を抱いても仕方がない。が、残念ながら今は緊急時、説明している暇もない。

 「私の半径15m圏内に人がいないことを確認して…!」

 「は、はい…!」

水無月と緋月が両手を合わせて目を閉じる。


 『観測者』

 

 ≪人、いません!≫


『THE OXO!!』


緋月の報告を見てから間髪入れずに能力を行使。ありったけの力を込めて酸化してもろくなった床を踏み抜く。

 崩れる足場にふらつく二人を抱え、一階へと着地。二人をおろして玄関へと向かう。

 『響華ちょっと乱暴すぎ!二人がケガでもしたらどうするの?』

 聞く耳が頭の中にあって塞げないので無視して走る。

 「あの、こっちって、火が…」

 水無月の不安そうな声。

 「いいからついてきて」

 有理の予想通り玄関が爆心地のようで、ひしゃげたり焦げたりしている鉄製の靴箱の墓場を舞台に、炎が躍っている。

 私はその辺に転がっている鉄の破片を炎に投げ込み、もう一度能力を使う。すると火の威力が若干弱まり、玄関への道ができた。

 「息止めて。そこを一気に突っ切るよ」

 一酸化炭素の心配ではなく、もっと別のこと。今私は燃焼を助けている空気中の酸素を無理矢理鉄板に化合させて火を弱めた。そして今もそれをロッカーの残骸へと行使し続けている。今私の作った道はほぼ無酸素どころか恐らく気圧そのものすら下がっている。そこで息をしようものなら肺の空気を逆に外に吸われてしまう。

 そんな説明をせずとも二人はハンカチで既に口を覆っている。

 「じゃあ行くよ。せーの…!」

 三人で玄関を走り抜ける。

 走り抜けた先には無駄に広い校庭と、茜色の空と、そして一人の男がいた。

 

 

 

「なんだ、案外早いんだな」

 ショッキングピンクに染めた髪や耳を貫く大量のピアスから受け取れる派手な印象とは裏腹に、男は落ち着いてものを言う。

 「あんた誰?」

 男はわざとらしく首をすくめる。

 「おおっと、それは言えない。が、まあ君の後ろにいる彼女たちをエスコートしに来たことくらいは言ってもいいかな」

 遠回りな言い方が私の神経を逆なでする。

 「さっきの爆発はあんたの能力で間違いない?」

 「そうさ。なかなかいいだろう?AGA下でも小型爆弾程度の威力はある」

 男からは余裕が溢れ出ている。やはり少し苦手なタイプだ。

 「とりあえずこの子たちを守るためにはまず最初にあんたを倒せばいいんだよね?」

 舞台役者みたいな大きな笑い声。いちいち動作が大げさな男だ。

 「大正解。お前の直近の脅威は俺だ。さあ、楽しませてくれよ?」

 そう言って男がパチンと指を鳴らすと、試合開始のゴングともとれるような大きな爆発音と共に、私と男の間に爆煙が立ち上る。

 先に仕掛けてきたのは男の方。私の足元に熱が収束していく。

 「ちッ」

 舌打ちをしながら後ろに跳びのくと、さっきまで私がいた地面が爆ぜる。有理の『Exceed』による感覚強化がなければどうなっていたか分からない。

 ポケットからリレクターを抜き、右手で構えて発砲する。

 初速度はがレールガンくらいにはある弾丸を男は体を捻って最低限の動きで避けた。

 が、

「想定済み」

 弾丸の先端に細工した超小型爆弾。これに私の能力で着火する。

 「!」

 パンっという破裂音と共にリレクターの弾丸が170度ほど方向を変えて再び男へと矛先を向ける。

 今度は男の頬の皮膚をいくらか掠め取っていった。

 「面白い。空中で跳弾させるとはな…」

 「それ、弾に当たってから言うとカッコ悪いよ?」

 無駄口に憎まれ口で返しながら足元に収束された熱をサイドステップで躱し、リレクターを連続で発砲。細かい照準は跳弾で合わせていく。

 身体強化かもしくは素の身体能力か、男はきれいに致命傷を避けて弾丸を地面に誘導していく。

 インファイトも攻撃に交えていくが、跳弾の対応に加え、肉体攻撃の回避もしっかりと行ってくる。

 「あんた、めんどくさい男って言われない?」

 リロードした弾丸と共に心から出た声を投げつける。

「ははっ、よく言われるよ」

 大げさに肩をすくめる男。どうにも役者っぽいのが気に食わない。

 「だが嬢ちゃん」

 唐突に男の顔がニヤリと歪む。


「今回は『めんどくさい』俺の勝ちだ」

 

『…っ!響華後ろ!』

 いち早く男の言葉の意味をくみ取った有理に従って振り向くと、そこには既に拘束された水無月と緋月がいた。

 戦闘員らしき者たちが拘束した二人を抱える。

 「残念。タイムオーバーだ」

 「っ…!」

いつの間にか私の真後ろに迫っていた男に反射的にリレクターを撃つ。

 跳弾で急所を狙い続け、男に生まれた隙をついてそのまま距離をとるが、弾丸もすぐに男の爆発の能力でつぶされてしまった。

 (まずいな…)

 残弾数は問題ない。ただ身体強化による肉体の疲労と、能力によるリレクターの反射を使い続けた脳の疲労とで体力がそろそろ限界だ。

 「見た感じだと、もう満身創痍ってところか?」

 「うるさい…」

 無駄口を叩くのも体力の無駄だ。足元の熱源を後ろに跳んで回避してっ…!

 「チェックメイトだ」

 足先から膨らんでいく熱を感じ取るが、空中にいる体は言う事を聞かない。

 「かはっ…!」

 体を捻り、急所は守ったものの、爆発のエネルギーに宙を舞う体が、同時に悲鳴を上げる。

 受け身も取れず、地面に背中からぶつかる。

 「~~っ!」

 声にならないとはこういう事かと理解する。と、

『響華、引こう』

 唐突に有理の声が頭に響く。

 「何言って…!」

 『このまま私たちが負ける方がリスクが高いわ。相手は水無月さんたちを利用しようとしてるから手荒なマネはできないはず。アジトを突き止めてからでも遅くはないわ』

 「それはそうだけど…」

 (それじゃあ、水無月は…)

 もう一度心に深い傷を負ってしまう。その結論に至るとともに、もう一度銃口を男に向ける。

 『響華!』

 「うるさい!今救わないとダメなんだ!」

 弾丸を男の肩に向けて放つ。

 相手は相当な手練れだが、同時に相当なナルシストだ。舞台演技みたいな大げさな動きや言動からそれがひしひしと伝わってきた。

 (だったら…!)

 男が肩を逸らし、そのまま空へと向かう弾丸を反射。今度は頭を狙う。これも男は最小限の動きで避け、

 二回目の跳弾(・・・・・)に頭を打ち抜かれた。

 カッコつけてギリギリで避けるのが分かってたら、外す方が難しい。

 さっきまでの戦闘で跳弾を一回しか使わなかったのと、男のナルシストのおかげで、不意打ちを致命傷にできた。

 「なんとか、勝った…」

 地面に倒れたまま、動かない男を見て安堵する。

 「ごめん有理。二人のこと、よろ…しく…」

 体から有理を解放する。

 Exceedの効果が切れ、疲労が体を上から押さえつけてくる。

 (眠い…)

 久々の重たい一撃に、私の意識はすんなりと途切れてしまった。


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