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プロローグ

異能力モノです。

プロローグという事で説明多めですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。




燃える。

 私は燃えている。いや、正確に言うと私を炎が包んでいる。目の前には男が一人。男というよりはもう薪になっている。

 見えたのはそれだけ。

 聞こえた音も何一つとしてない。

 気づくと私は、真っ白な部屋にいた。




 「はぁ」

 なんの代わり映えもしないいつもの通学路。

 今日もまたつまらない授業を聞かされるのかと思うと気分が重くなる。

 最低限の手入れしかしておらず、適当に後ろで一つにまとめた髪の重みでなんとか前を向いている。

 「どうしたの?響華」

 「なんでもない…」

 南響華(みなみきょうか)

 私の名前。父は住宅火災で亡くなり、自分はそれの生き残り。母は何故か旧姓の方を名乗っている。だから正直名字の方はいらないなと最近は思っている。

 私の名前を呼んだ私より少し小さい彼女は相宮有理(あいみやゆり)。そろそろ出会って11年にもなる長い付き合いのある幼馴染だ。

 「なんでもなくないでしょ。分からないと思った?」

 そんじょそこらの家族とやらよりも長い間いるのだから当然か。仕方がない。

 「あー…そうだね。んじゃあ聞くけど、有理は学校楽しい?」

 「んー、楽しいよ?初めてのことばっかりだし。まぁ授業は退屈だけど」

 ショートヘアーの髪が軽く揺れる程度に首を傾けてそうつぶやく有理。

 もう少しだけ今日一日やることを整理してみる。特にしなければならないこともないし、学校にさえ行けば問題ない。特段面倒ではないことにようやく気付いた。

 「有理が言うならいっか」

 「結局何のため息だったの?」

 頭上に?を浮かべた有理に、私はもう一度「なんでもない」と返した。


 他愛ない会話を続けるうち、学園に着いた。

 許可なしには通れない半透明な校門をすり抜けて校内に入る。

 1~2世紀ほど変わっていないブレザーの制服に身を包んだまま、エスカレーターに乗る。

 こちらは旧時代(無能力時代)とは大きく異なり、人二人が余裕をもって並んで立てるくらいの板に有理と二人で乗ると、板は私たちを乗せてそのまま徒歩より少し早いくらいの速度でふわふわと長い校舎玄関までの一本道を進む。なぜこんなことをしないといけない位に校舎前の校庭を広げてしまったのか。謎だ。

 校舎内で有理とは別のクラスに始業時間ギリギリに入り、そのままHRを適当に聞き流す。

 一時限目は世界史。まあまあ好きだが物足りない。正直なところ私も有理も高校のカリキュラムはとうに終えている。

 人類史全体からすれば割と最近のことを教師が話す。この異能力時代と呼ばれる21世紀から現在までに起きた出来事を。


 21世紀は始まりの時代。西暦2012年、世界で初めて異能力の存在が正式に公表された。

 当時はまだ異能力者の数も少なく、人口の割合で言えばかなりのマイノリティだ。だが、既にその存在は大衆に広まっていたため、それが公的な組織から認められたというのが正しいだろう。

 そんな中、平等を重んじる世論や異能力という危険分子の管理という思想から異能力者のための法律や制度などが固められていった。十数年後には異能力の研究は異能力学として世界からも認められるようになる。

これらの試みが達成され、異能力に関する集団的な不満が収まってきたのが西暦2100~2115年ごろだ。

 22世紀は発展の時代。西暦2123年、全世界の異能力者の人口の総人口に対する割合がついに50%に達した。

 異能力が生活に応用され、異能力を国家が管理し、異能力が生まれ持った才能として社会に評価される時代である。

 この時代に世界中に蔓延する多くの諸問題が異能力によってほとんど解決した。勿論国家間のいざこざや人間同士のトラブルは解決するはずがないが。

 若干外交に緊張感が走っていても、我々の生活に大した損害はあまり感じられず、現在はとても豊かな時代である。


 と、70前半位の男性教師はだいたいこんな風なことを言った。

 老人特有の眠くなる声の周波数と既に持っている知識の朗読とが重なって、8時間は睡眠をとっていたはずの脳を夢へと誘う。

 何も変わらない日常。嫌いじゃないが、あんまりおもしろくもない。




 「ん~」

 居眠りで固まっていた体を伸ばす。

 概ね授業が終わり、そろそろ帰ろうかというところ。

 旧時代には掃除をしなければいけなかったようだが、そんなことは気にせず帰れる。自浄機能つきの素材には感謝だ。

 と、どうでもいいことを考えていると、教室の窓が勢いよく開いた。

 「おい!『狂火(きょうか)』はどこだ!」

 どうやら訪問者の目的は私らしい。この学校に来てもう二年目というのに、こういう時代遅れなバカは結構いる。

 「いないよー」

 適当に返してみたらガラの悪そうなバカと目が合った。

 「その金髪、てめえだな?」

 亜麻色と言ってほしい。これだからバカは。

 「人違いだと思います」

 「Ⅱ組にいる金髪といえば『狂火』しかいねえだろ?すっとぼけてんじゃねえぞ!!」

 私の父親が住宅火災で死んだのは私の持つ発火能力が原因なんて噂が出回り、結果ついたあだ名が狂う火と書いて狂火。そのネーミングセンスは別のことに活かしてほしかった。

 結果的に力試しに挑んでくる目の前にいる男のようなバカは増え、それらをきっちり後悔させていくうちにいつの間にか私は不良生徒みたいな扱いを受けている。迷惑極まりない。

 「てめえのランクは確かラックツヴァイセカンドだったな?ドライサードの俺様の力をたっぷり味わわせてやる!」

 国が定めたランク制度は結構面倒くさい。

 簡単な機械での脳波測定で算出するくせに『使える能力の数をゼロ、ファースト、セカンド、サードと呼ぼう』とか『同時に使える能力数でアインス、ツヴァイ、ドライという名前にしよう』とかその他諸々の非常に面倒な構成となっている。細かい事を気にする偉い人達らしいといえばそうなのかもしれない。ちなみに私についているラックとは能力数に対して判明している能力数が少ない者に付けられるランクだ。

 それらが理解できているのかそれとも事前に私のランクを人づてに知ったのか、どちらにしろそれなりに頭は回るようだ。

 「パス」

 私はバカにそう伝えた。

 頭が回ろうが回るまいが結局は大声を出すしか能がないバカ。バカは放っておくに限る。

 「なんだとぉ?こちとら弟分をやられてんだ!ただで済ませるはずがねえだろうが!これでも喰らえ!『ストロンゲスト』!」

 目が回るくらい時代錯誤な言葉に続けて大きく張り上げた自身の能力を行使するという宣言。するとバカの姿が一瞬で消えた。そして背後からとんでもない速度の腕が飛んできた。体の向きを変えて避けると、その拳はおおよそ人間の腕力では壊せないような床をぶち抜く。しかも殴った拳にはかすり傷すらない。

 「瞬間移動、身体強化、衝撃耐性ってところ?弱体化の影響を受けながらそこまでできるんだ」

 「そうだ!俺様の能力はその三つ!そしてこいつらを使いこなせる俺様はこの町でナンバーワンだからな!」

 国が山間部や研究所などの一部の地域以外ほぼ全域に展開しているA(Anti)G(Gift)A(Area)は異能力による事件犯罪などを防ぐために異能力を弱体化する効果がある。その中でも頑丈な床板を貫通するほどの破壊力を出したバカは能力面で言えば相当に強い。が、やっぱりバカだ。

その後もバカは私を死角から殴り続けるも、一つとして私に届かない。

 「能力だけで最強なんて、やっぱりバカだね」

 「あん?」

 怒らせてしまってようだ。床にめり込んだ拳を抜きながらバカがこっちを睨んでくる。

 「でも真実だよ。君はその能力を活かせていない。」

 「んだと?」

 バカの動きが止まる。威圧のつもりなのかこちらを睨みつけている。


 「『THE OXO』」


 キレるバカを無視して能力を行使、私は床を思い切り踏みつけた。

 ぐしゃっという音と共に床はぼろぼろと崩れ去り、おおよそバカが作ったのと同じくらいの深さの穴を作った。

 バカを含め教室に残って騒ぎを見ていた生徒たちも動揺したのが分かった。

 「私の能力は発火だけじゃない。酸化もできる。どんな酸化でもね。人体だって例外じゃない。流石に君でももうわかるよね?」

 そうしてもう一度、今度はバカの目の前の床を踏み抜いてやる。

 今度はバンっとバカが教室に入ってくるときと似たような音が鳴る。

 「ひっ…」

 バカがその場に尻もちをついた。バカの目にもう戦意はない。むしろそれとは真逆の色をした感情がうかがえる。

 「決めて?君が今すぐ帰るか、私が君をじっくりと後悔させてから帰るか」

 顔を近づけて微笑んでやる。バカの瞳から徐々にハイライトが失われていく。

 「あ…が…ぁ」

 どんっと巨体の背中が床とぶつかる音がする。

 「あれ?」

 やりすぎた。バカが気絶してしまった。相当想像力の強いバカだったらしい。

 教室の穴はバカのせいにしてさっさと帰ろうと思ったのに、これじゃまた職員室に呼び出される。

 周囲はざわついている。ある者はこうなることが分かっていたようにため息をつき、ある者は恐怖に涙を流し、ある者は小型の携帯式デバイスで面白そうにこちらを撮影している。

 一番ため息がつきたいのは私だ。

 そう思って疲れを肺の中の空気と共に吐き出して、一瞬のため息を満喫した。




 「ただいまー」

 言いながらオートロックのドアをゆっくり閉める。

 おかえりなさいと有理が玄関に来てくれる。私が一番ほっとする、そして今日一日の疲れが最も現れる瞬間だ。

 有理と私は同じ部屋に住んでいる。人口爆発を恐れた人類が異能力学を駆使して作った空間圧縮式小型マンションは家賃が安くて助かる。

 旧時代と同じ形の建造物は少なくはないが、それでも既に6割程度の住居等の建造物は縮小化されているだろう。地球環境に関する諸問題を解決した異能力テクノロジーの筆頭だ。

 「今日はずいぶんとお楽しみだったらしいじゃない。『狂火』さん♪」

 靴を脱いでいると有理の方から話しかけてきた。いつもはリビングで出迎えるというのに珍しいと思ったらただ皮肉を言いたかっただけらしい。

 「なにが楽しかったのか説明してほしいわ。バカに絡まれるわ教師には説教されるわでろくな1日じゃなかったのよ?」

 片眉が吊り上がっているのが自分でもわかる。昔はあんなに物静かだったのになどと私が思っていると、有理の表情が急に固く、鋭くなった。

 「次の指令までの最後のやんちゃってこと。はいこれ」

 もう来たかとため息をついて渡された茶封筒を受け取る。

 情報化社会とはいえやはり手渡しが一番秘密の保護に確実な方法なのだ。

 『コードネームUL、X0、両名に本日より新しい任務を命ずる』

 出てきた一文目がこれだ。時候の挨拶もできないのかとうんざりする。ULが有理で、X0は私だ。有理の能力の性質上こうやって二人セットで運用されることが多い。

 私達は簡単に言えば軍人みたいなものだ。

 異能力施設で育った子供のうち、最高危険度の施設で育った子供たちは政府に直接管理される。そのた め多くは政府のために働くことしかできない。ワークスタイルにある程度の自由はあるものの、基本的にそういう施設に行く子供の大半は攻撃系、つまり戦闘とか物騒な仕事をやる場合が殆どだ。

 どんな家庭であれ、能力が危険と判断されれば最高危険度の施設には問答無用で連れて行かれる。そこで親と離されて10年程度会えないなんてことはよくある。施設から卒業できれば住む場所や同居する人間などは自由だが、そこには監視と政府からの仕事がセットで付きまとう。そうして働かせていた方が政府としても管理がしやすいんだろう。実際それで給料はでるから他で働く必要はないし、本人の意思で仕事の難易度も変わってくるから旧時代のブラック企業なんかと比べればまだいい方かもしれない。

 物騒な仕事はなんやかんや嫌いじゃないしまあいいか。

 と、しばらく秘匿された現行の危険能力者への制度に色々と思考を巡らせていたが、その間に同時に呼んでいた手元の書類が大体何を言いたいのかが分かった。

 いろいろごちゃごちゃ書いているが、要約すると今回の任務は護衛らしい。対象は二人。明日うちの学校に転校してくるとだけしか書いていない。

 「変なところは省略するんだよなぁ…」

 ほんの小さな文句が、私が上司にできる最大限の抵抗だった。


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