寂しがり屋の木
木は退屈な毎日をぼんやりと過ごしていた。
とても長い年月を丘の上でぽつんと生きて来た。
長く生きた木への、神様からのご褒美だろうか。
木は自我を持ち、蔓を自在に操った。
木は暇つぶしに時々やって来る人間の足にそっと蔓を伸ばして、転ばせる。驚いた顔でまわりを見回す人間の顔が面白くて、ひそかに笑う。
ある日、小さな男の子がやってきて、木のまわりで遊んでいた。
男の子は木が気に入ったのかそれから毎日やってきて、木の下で本を読み、虫を捕まえ、花を摘んだ。
いつも木にやって来る少年。ある日少年は木の幹で首を吊る。それから、少年は木のそばにずっといた。
少年は時おり風に吹かれて葉っぱと一緒になってゆらゆら揺れる。
木は嬉しかった。少年が自分と同じ存在になってくれたことが。
枝葉の一部となってゆらゆらと風にゆらめく少年を蔓がしゅるりと抱きしめた。
でもしばらくすると、赤いぴかぴかした光と沢山の人間がやって来て少年を木から無理やり降ろし、連れ去った。
せっかく一緒にいたのに、どうして連れて行ってしまうんだ。
木は悲しかった。
少年を失って、寂しかった。
また、誰か来ないかな。
木は待った。じっと待った。
ある日、若い男がやって来て木の根元に腰を下ろす。男は本を取り出すと木に寄りかかって静かに本を読み耽る。
木が、ざわめく。風もないのに葉が揺れる。
木はやってきた人間の首にそっと蔓を絡め、一瞬で〝友達〟を手に入れた。
今度は木の茂みの見えにくいところまで運ぼう。一緒に風に揺れるんだ。
ゆらり ゆらり
一緒に揺れよう。