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「わかったよ…私たち三人の意味が!」
奈美は涙を流しながら笑顔で僕たちの方を向きそう言った。そして両手を広げてその手を握るよう促した。僕たちはそうされるがまま、奈美の手を握って、もう片方の手を僕と理人が握って、三人で一つの円になった。
「…来るよ! 目を瞑って!」
奈美はそう言った。
僕らは何を言っているのか意味が分からなかったけど、そっと目を瞑った。その瞬間体が物凄い勢いで浮かび上がった。気が付くと僕たちは病室の天井のところまで浮かんでいた。
いや、違う! 体から魂が抜け出たんだ! 下を見ると、僕ら三人の体は手を繋いで座っているままだった。
「手を! 手を放しちゃダメ!」
僕たちはお互いの手を力いっぱい握りしめた。
そして天井をすり抜け、病院の建物をすり抜け、空へ高く高く浮かんでいった。上昇するスピードは増していき、見えていた僕らの住む町もやがて見えなくなり、雲を突き抜け、やがて宇宙空間にまで達して止まった。
星々が僕らの周りを流れていく。ゆっくりとした動きもあれば、流れ星のような一瞬で通り抜けてしまうものもあった。壮大な天体ショーに、僕らは言葉を失ってしばらくそれを見続けていた。
そしてしばらくすると、目の前にトンネルが現れた。トンネルは僕らを物凄い勢いで吸い上げた。トンネルの中を飛びながら吸い込まれていくと、最初暗かったトンネルは、次第に明るくなって、そして絵具をぶちまけたような極彩色の空間が広がった。
「約束したんだよ…私たち。」
奈美が突然言った。
「約束? 何の?」
「生まれる前に私たち三人は、約束をして生まれてきたの。だからずっと一緒。離れてもずっと一緒。私たちは地球に生まれて、同じ目的を果たす。」
「ずっと…一緒? だから奈美は、俺たちが昔イジメられていた時、必ず駆け付けて助けてくれたの?」
「そうだよ。私たちは助け合うの。そういう運命なの。」
「じゃあ、俺らも奈美を助ける運命なんだ!」
「そうよ! 助けてくれなくちゃ困る!」
僕と奈美が話をしている間、ずっと黙っていた理人が突然話し出した。
「俺も…わかった。そうだった。俺たち、約束をして生まれてきたんだ。今までの事は全てそのための準備だった。俺が生まれた家も、イジメを受けた過去も、両親が与えてくれた学びも、これから研究する全ても、全ては約束の為!」
奈美は理人の話を聞きながら嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと待って! 俺だけ何も思い出せない!」
僕は二人に嫉妬した。二人だけ全て分かって、何故僕は一向に何も分からないんだ。イライラしている僕に奈美が気づいた。
「頼人! 自分で決めたくせに何イライラしてんの?」
「え? 自分で決めたって、何だよ、それ。俺だけ何も分からなくて仲間外れみたいじゃん!」
拗ねている僕を奈美は優しく抱きしめた。
「頼人、気持ちは分かるよ。もしそれが私だったら、頼人と同じようにイライラしてると思う。あのね、頼人は、私たちと約束した時、自分は最後まで思い出さないようにするって、自分で決めたんだよ。」
「どうして! 嫌だよ! 俺だけ知らないなんて! 何も知らなかったら俺、何も出来ないじゃん!」
「大丈夫! 頼人が、頼人らしく、自分を見失わないでいたら、何も覚えてなくてもやり遂げられる! 頼人なら出来る! いや、それは、私でも理人でもでも出来ない! 頼人だから出来る事なんだ!」
そう言っている奈美の目から、涙が溢れ出ていた。横を見ると、理人も号泣している。こんなに泣いている理人を見るのは初めてだ。
イジメっ子たちにボコボコにされてもこんなに泣かなかった、親から叱られてもこんなに泣いたことはない理人がしゃくりあげるように泣いていた。
それを見ると、僕はもう何も言えなくなった。すごく気になるけど、覚えてもいないけど、僕が自分で決めたことなのだ。もう追及するのは止めよう。
しかし僕にも思い出せたことがある。それは、確かに僕たち三人は何か約束をした、という事実だ。それは実感として僕の体が感じ取っていた。
奈美は僕と理人を抱きしめた。僕たちもお互いを抱きしめた。すると周りが、極彩色の空間から、暖かな空間に変わっていった。
柔らかいピンク色の眠たくなるような心地よさ。急に声が聞こえてきた。よく知っている声。
父さんと母さんだ!
「理人はドイツ語で光だから、この子は英語で光って意味にしよう。頼人ってどう?」
「理人と頼人か~。私たちの光の天使ね!」
「…現地の人が聞いたら、発音が悪いって叱られそうだけどね、ハハ。」
その空間に身をゆだねると、懐かしいような泣きたいような気持になった。
「あら、やだ、この子達、手を繋いで寝ているわ。」
奈美の母親の声で目が覚めた。
どのくらい寝ていたんだろう。すごく長い気がするけど、実際は母親たちがレストランで食事をしていた短い間の事だったようだ。
目を覚ますと、意識を失っていた奈美も目を覚ました。
さっきの宇宙空間での出来事…ハッキリと覚えている。奈美と理人を見ると、二人は何も言わずに目で語りかけてきた。僕は頷いた。
言葉には出さない方がいい。今は。




