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「…自分が本当にしたい事が、やっと見つかったの。私は…自分でも性格が悪いってわかってた。他人に意地悪をしている自覚もあった。周りが見えなくて、自分自身も見えなくなっていて、ずっと回り道をして、その度に人を傷つけたりして。それを何とも思わなくなっていた自分がいた…そんな自分が、本当は嫌いで堪らなかった…。」
「…ソウデシタカ…」
「でも、菜々子と入れ替わって、仕事に没頭して、信頼できる仲間が出来て、私…今、本当に生きているって実感できるの!」
「良カッタデス。夏子サンガ ソウ思エル 日ガ 来テ。デモ、時ニ 人生ハ 残酷デス。コノママ生キテ イク事ハ 偽リノ 人生ヲ 生キテ イクト イウ事ニナルノデス。夏子サン、アナタハ モウ 大丈夫。元ノ体ニ戻ッテモ、自分ヲ 見失ウ事無ク 真ッスグ 歩イテ ユケル…」
「…菜々子の体、そろそろ返してあげなきゃいけないしね…。わかった。」
その時、駐車場にやって来ていた社長が私に気付いた。
「鈴原さん!」
社長はニコニコしながらやってくる。
「ナビ、私、ちゃんと元の体に戻るから、少しだけ時間をくれない?」
「ワカリマシタ! 了解デス。」
私は車を降りて社長の元へ行った。
「今から社に戻るの? 今晩、みんなで打ち上げをしようかって言ってるんだけど、鈴原さんも来るよね?」
「…社長…、私、ちょっと行けそうにないんです。」
「都合悪い? じゃ、明日にしようか? 主役の鈴原さんが来られないんだったら意味ないからね! みんなから文句言われちゃうよ。」
「社長! 私、ずっと社長やみんなと一緒に仕事をしていきたかった…」
「え? 当たり前じゃない! いなくなってもらったら困るよ! あ! そうか! 人事の件でしょ? 僕、もうメタメタに叱っといたから! 鈴原さんがリストラ候補なんて有り得ないから!」
「…そうじゃ無くて…」
私が言葉に困っていると、社長は心配そうに私の顔を見た。私は自分が歯がゆかった。これがもし本当の自分だったなら、気持ちを伝える事が出来るのに。
「社長の元で働かせてもらって、本当に幸せです。ここには信頼できる仲間もいるし、やりがいのある仕事もある。最高です!」
「鈴原さん、ありがとう。…でも…何でそんなに泣いてるの?」
「私は…私は…菜々子でいたかった…」
「え?」
「すみませんっ! 今日、ちょっと急用があって、このまま直帰しますね! では、お疲れ様です!」
「ちょっと、鈴原さん!」
社長が呼び止めたが、私は車に駆け込み急いでエンジンをかけて発進した。
「ルート ガ 検出サレマシタ。夏子ルート。選択サレマスカ?」
「…お願い。」
「了解シマシタ。デハ 目的地ヘ ナビゲート サセテ イタダキマス。」




