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40 夏子→菜々子


 私たちの新しいブランドは、光ヶ丘支店周辺の顧客の意識の高さと、巣ごもり需要も相まって、売れ行き好調だった。ブランドコンセプトの「少しいい物に囲まれて生活を豊かに」が、オシャレな住人たちのニーズにピッタリマッチしたのだ。


 企画、広報は例の私を虐めていた内海さんたち…いや、もうこの言い方はやめよう…彼女たちが頑張ってくれたおかげで、地元のテレビ局や情報誌だけでなく、東京のメディアからも取材が来た。


 取材は中川夫妻の農園でも行われて、うちの製品はお洒落で体にいいだけじゃなく、社会貢献もしているという事も全国区で放送されると、その力は凄まじく、遠くから来てくれるお客さんもたくさんいた。


 そして彼女たちが立案した店舗の2階の情報発信スペースも大好評だった。中高生たちがSNSに発信してくれて、この間は有名ユーチューバーが来てくれた! 


 光ヶ丘店の成功によって、他の社員たちも士気があがり、今では退屈そうにしている人間なんていない。さらにまた新たなプライベートブランドの開発にも乗り出している。


 そういう訳で、ついに会長も社長の事を認めざるを得なくなって、会社の運営は全て社長に任し、事実上引退してくれることになった。社長はやっと社長らしくなった…でもいまだに時々シャツの裾がズボンからはみ出ているけど…。


 でも…そんなところ、可愛く思えてしまうんだよね…。



 私は光ヶ丘支店の視察を終えて、本社に戻ろうと車に乗った。エンジンをかけるといきなりナビが話し出した。

「コンニチワ、菜々子サン。ア! アナタハ 本当ハ 夏子サン デシタネ! 失敬、失敬。オ仕事成功、誠ニ オメデトウ ゴザイマス!」


 …何なの、このナビ…。

 何でその事知ってるの?


「宴モ タケナワ デ ゴザイマスガ、ソロソロ 本来ノ 体ニ 戻ル 時ガ ヤッテ参リマシタ。オ名残惜シイ トハ 思ワレ マスガ、ショウガ アリマセン。」

「どういうこと?」


「夏子サン モ 菜々子サン モ ソレゾレノ 課題ヲ クリア シタヨウデス。ナノデ、戻ルベキ 場所ヘ 戻ルノデス。」

「何、課題をクリアって。私はここが居心地がいいの。菜々子として生きてもいいかなって思ってるのに…」

「残念ナガラ ソレハ 無理デス。抗ッタ トコロデ 魂ハ 入レ替ワルデショウ。」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 菜々子と入れ替わったら、仕事はどうなるの? せっかく軌道に乗って来たっていうのに! それに私がいないとみんな困るじゃない! 社長だって!」

もとの体に戻ると聞いて…真っ先に浮かんだのは、何故か社長のあのちょっと間の抜けた人の良さそうな顔だった。

「私が付いてないと、あの人ズボンのシャツ出しっぱなしだし、口のまわりにお菓子のカスをつけたまま気付かないし、私がいないと…!」


「夏子サン、アナタハ 本当ニ 良ク ヤリ遂ゲ マシタヨ。退屈デ 生キル 意味ヲ 見失ッテイタ 同僚ヲ 鼓舞シ、彼ラニ ヤリガイヲ 与エテ クレマシタ。ソシテ、抑圧サレテ 本来ノ 輝キヲ 失イカケテイタ 社長ノ 魂ヲ 解キ放ッタ。コンナコト 夏子サン ニシカ 出来ナイ 事デス。ソレヲ ヤリ遂ゲタ事デ、アナタモ 本当ノ アナタニ 戻ル 事ガ 出来タノデハ ナイデスカ?」


 ナビの言葉が胸に刺さって、後から後から涙が零れ落ちた。


 悲しい事では無いのに、むしろ喜ばしい事なのに、涙が止まらない。

 これは…私の心が嬉しがって泣いているんだ!


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