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 私は今、真帆さんのマンションにいる。真帆さんは遥人君のお母さんで、尚之さんのお姉さんだ。いきなり訪ねて拒否されるかと思ったけど、意外とすんなり中へ入れてくれた。


 部屋の中は真帆さんの心の状態を表しているかの如く無茶苦茶だった…。物が散乱して床が見えない。そして洗ったのか洗ってないのかわからない洋服が山積みに放置されている。キッチンは食べたものが放置されたままで臭いもする。よくこんなとこに住めるな…。


「…何の用?」

真帆さんはさっきまで寝ていたようで、眠たそうに私に言った。

「あ、いえ…お義姉さん元気にしていらっしゃるかな…と、思いまして…」

「珍しいわね…。今まで全く会いに来るなんて無かったのに…」

「あの…体調悪いんですか?」

もう昼の2時だ。この時間までこの人は寝ていたらしい。

「別に…。悪い? 寝てちゃ…。」

「い、いえ…。」

外はいいお天気だというのにカーテンは閉めっぱなしで部屋は暗く、空気も淀んでいる。

「あの! 窓開けてもいいですか? お天気もいいし、気持ち良い風も吹いてますよ!」


 真帆さんは無言で頷いた。カーテンを開けると眩しい光が射しこんできた。窓を全開にすると、爽やかな風が部屋を駆け抜けた。


「…もう昼…か…。で? あんた、いきなり訪ねて来たって事は、何か用事あるんでしょ?」

「…それは…」


 そう。私は目的があってここへやってきた。その目的というのは…





 2週間前


「あのさ、私がとやかく言える問題じゃないんだけど、お母さんの為と言ってもやっぱり中学生が飲み屋なんかに出入りしてちゃダメだと思うの…。」

「…でもさ、あんなボロボロになったママを放っておけないよ。あれでも僕にとっては母親だもん…」

「遥人君…優しいんだね。」


 遥人君の健気さに涙が出そうになる。子供って…ほんとにありがたい存在だよね。酷い母親でも庇って助けようとするんだもん。


 遥人君の母親・真帆さんは、今もことあるごとに飲んだくれて遥人君を呼び出している。弟のいる私は、遥人君がうちの大輝と重なって見えて気が気では無いのだ。何としてでも遥人君の中学生らしい生活を取り戻したい! それにはやっぱり元凶である真帆さんが目を覚ましてくれない事にはどうしようもないのだ。


「遥人君! ここはちょっと私に任せてほしいの!」

「任すって?」

「ママを取り戻すの!」


 そうよ! 真帆さんは遥人君が優しいのをいいことに甘えすぎてる! 逆でしょ! 本当ならこの年齢の子なら反抗期の真っ最中。親を振り回して頭を悩ませるくらいが当たり前なのに、何なの、子の子の異常なまでの大人ぶり! 子供を大人にさせてんじゃないわよ! 子供が子供でいられる時間なんて限られてるのにっ! 私は心底腹が立って来た。そしてそれが力となり、体の底からパワーが漲ってきた。生まれつきのおせっかいさ全開でいってやろうと誓った!


「…ママを取り戻すって…どうするの?」

「興信所を使って、真帆さんが付き合っている男の正体をあばいてやるのよ!」

「もし…まともな人だったら…やるだけ損じゃないの?」

「まともな男と付き合ってるんだったら遥人君をこんな状態にするわけない! ちゃんと家族の事を聞くだろうし、親子一緒に面倒みるはずでしょ! 子供がいるのにこんな付き合い方するような男は絶対にクズだよ! もし真帆さんが遥人君の存在を言えないような相手なんだったら、もう言わなくても明白だよね。」

「…うん。でも…お金…どうするの? 興信所ってけっこうお金かかるんじゃないの?」

「それは…尚之さんには悪いけど家計から捻出させてもらおうかと…」

「夏子、大丈夫なの?」

「今まで夏…いや私ね、家計簿なんて全く付けて無かったんだけど、最近きっちりつけ始めたら、うちの家計はかなり節約できるって分かったの。だからその分で使わせてもらおうと思って。落ち着いたら私がパートに出て使った分は返すつもり。尚之さんには私から今度言うから…。だから遥人君は心配しないで!」

「…夏子にそこまでしてもらうなんて…悪いよ…」

「そんな悲しい事言わないでよ! 私たち、家族でしょ!」

「家族? 俺たち家族なんだ…」

「そうよ! 私たち家族だよ!」

「…夏子…」


 遥人君は目に涙を浮かべた。私はその姿を見て心臓が掴まれたように苦しくなった。そして思わず遥人君をギュっと抱きしめた。この子はまだ子供だよ。親の支えが必要な子供なの! 


 真帆さん! 私、絶対にあなたを連れ戻しますから!


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