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E月14日 惑星日3
急にバイトが無くなった。
真子がご飯を作ってくれるというので、学校帰りにそのまま彼女に家に行くことになった。
真子は今、実家で一人暮らしをしている。
彼女の両親は少し前から仕事でヨーロッパに住んでいると言っていた。
広い家に一人で暮らすのも寂しいらしく、彼女は僕のマンションにいることが多かった。
飼っている魚の世話があるからと、たまに実家に帰っていた。
今日は魚の世話ついででもあった。
玄関扉を開けると、真正面に横長いテーブルが置いてあって、その上に大きな水槽が置いてあった。
魚は僕たちが来るのがわかっていたかの如く、扉が開くなりこちらをギロっと睨んだ。
大きな魚は一匹だけで悠々と泳いでいた。
よく見ると片方の目がイエロー、もう片方がレッド、左右の目の色が違うオッドアイだった。
「珍しいね。」
「でしょ? 母の知り合いから譲り受けたんだ。」
彼女は僕に魚の餌を預けた。
料理するから餌をやっといてと言われた。
魚は僕をジロジロ睨みながらまだかまだかと待っているようだった。
「…なんならお前を喰ってやろうか?」
ゾクっとして振り向いた。
魚からそう言われた気がした。
喰われては堪らないので、僕は餌をあげた。
魚は僕を勘弁してくれたようだ。
彼または彼女は黙々と餌を食べた。
オッドアイの目は僕をジッと見る。
「おまえは本当に真子を守れるのか?」
魚は僕に聞いてくる。
「心配いらない。彼女の事は任せてくれ。俺の命にかえても真子を守る。」
「そうか。いざとなったら、俺がこの水槽を飛び出してアイツを喰ってやるさ。」
「アイツ…?」
ともかく、魚と僕との間に真子を守るという共通の連帯感が生まれたようだ。
彼女はミートソーススパゲティを作ってくれた。
食べようとした時、彼女のスマホが鳴った。
かけてきたのは倉田俊成。
真子が付き合っていた男だ。
僕のせいで…というか、真子は僕の為に彼と別れてくれたのだ。
「何だろう…。」
「さあ…。」
もちろんいい気はしなかった。
「出た方がいいのかな?」
「俺は構わないから出なよ。」
本当は真子が倉田と話をすること自体嫌だったけど、小さい男と思われたくなくて思っても無い事を言ってしまった。




