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「…何が足りないんだろう…」
「御使い様、素晴らしい仕上がりでございます。これなら若君もお気に召してくださいますでしょう。」
女房はそう言うが、それだけじゃダメなんだ。
確かこの時代は通い婚のはず…。
正室じゃなければ夫の屋敷に住めない。
側室は夫に飽きられたらそれで終わってしまう。
そう!
正室だ!
気に入る程度じゃダメだ!
この姫君を救うには、若君を虜にして手放したくないくらいの女にしなきゃダメだ!
現代なら容姿だけじゃなくて、性格とか趣味とか笑うツボとか、好きになる要素はたくさんあるけど、この時代はそんな事はあまり重要視されなかったはず…。
とにかく第一印象で強烈な物を焼き付けるしかない!
そうだ…!
「女房さん、卵ってありますか?」
「…卵でございますか…。」
無いのかな…。
この時代のお金があったら僕が買ってあげたいところなんだけど…。
「大丈夫でございます! 今は姫の一大事! ワタクシ、必ずや卵を調達してまいりましょうぞ!」
女房さんは慌てて表へ飛び出していった。
残された僕と姫君は会話に窮した。
えっと…何を話せばいいかな…。
美容師という職業柄、お客さんとの会話には慣れていたつもりだったが、平安時代の姫君と一体何を話せばよいのか…。
共通する話題すら思い浮かばない…。
そんな事を思っていたら、姫の方から話しかけて来てくれた。




