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「どうぞ~!」
中野さんはケーキと紅茶を持ってきてくれた。
私の大好きなモンブラン。
「美味しぃ~!」
幸せな気持ちに浸りきった。
「ほんと! 嬉しい! そうだよね? 自分でも美味しく出来てると思うのよ! だけど…」
中野さんはため息をついた。
「この店…時間の問題かもしれないわ…。せっかく頑張ったんだけど…」
こんなに美味しい物を作っても、やっぱり場所が大事なんだな…。
並べられてある美しいケーキを見ると、私も悲しい気持ちになってきた。
ビジュアル的にも素敵だし、写真を撮ってもいいか中野さんに聞いた。
どこもかしこも撮ってちょうだい、もしかしたら次来るときはこの店無くなってるかもしれないから、と自虐的な笑みを浮かべて答えていた。
私はスマホを取り出し、お菓子だけでなく店の中の様子も撮った。
「せっかくだから動画も撮りましょ!」
そう言うと、中野さんはノリノリになってハロウィン用に買ってあった魔女のコスプレをし始めた。
店のオブジェで天井から吊るしてある大きな寸胴鍋を木のヘラで悪い笑みを浮かべながらかき回した。




