21 離れないで
教室に戻ると、マリスイヤーの動向を探っていた副会長とライが戻っていた。課題の手伝いをしたメンバーはとっくに終わって副会長たちに報告して帰ったそうだ。
「待たせたようで悪かったね。」
「待つ時間は好きだから気にするな。」
「それで、物探しでしたか?無事に達成しましたか?」
「それは問題がなかったんだけど、終わった後にジスターに会ったよ。」
「ジスターですか・・・」
ギリっと、歯がきしむような音が副会長から聞こえた。大丈夫だろうか?
「奇遇だな、俺たちもジスターを見た。マリスイヤーが会っていたんだ。」
「別に会うなとは言いませんが、何を考えているのか・・・とても仲がよさそうでしたね。」
「最近の態度にあれを見れば・・・どう考えてもジスター側の人間だとしか思えないな。」
「やっぱりね。」
「何か、対策を立てるか?マリスイヤーの最近の態度を知っている者なら、幹部から外しても不思議には思わないと思うが。」
「別に、このままでいいよ。」
さらっと答えたイリクに、副会長は目じりを釣り上げて立ち上がった。座っているイリクは面白そうに彼女を見上げる。
「裏切ったのですよ!彼女は!」
「落ち着いたら?さっき副会長が言ったように、別にジスターに会ってはいけないわけじゃないし。まぁ、裏切っていると思うけど・・・そもそもそれがどうしたって話なんだよね。」
「そうだな。ジスターに僕たちの活動を話したとして、それが僕たちの邪魔にならないのなら特に問題はない。」
「あー、確かに。だから2人も慌ててないんだ。」
「まぁね。でも、個人的には彼女のこと好きじゃないけどね。関わりたくない。」
「そう言ってやるな。確かに言動に問題はあるが、ただ弱いだけだ。誰かのせいにして自分を守ることしかできない、可哀そうな子だ・・・」
「意味が分かりません!前々から彼女の言動には頭にくるものがありました。ですが、ライのような能力者が何も言わないので、私も黙っていましたが・・・なぜ、あなた方は何も言わないのですか!」
副会長が机を叩いてライを睨みつける。最初の印象とは違い熱い人だなと思いながらも、私も同意見だ。マリスイヤーは、心が読める能力者たちに対して差別的だ。彼女の言動で傷ついたメンバーは少なくないだろう。
確かに、ライが言っていることも理解できるが、傷つけられて黙っている人間がいるとは思えない。2人の態度は傷つけられた人の態度ではない。なぜそんな態度がとれるのか・・・
「それはね、弱さを理解しているからだよ。ウチもライも人の心に多く触れてきたから、他人を傷つけないと自分を守れない人間がいるっていうのは、嫌というほど理解しているんだ。」
「あぁ。慣れてしまったんだよな。心無い言葉を口に出す者はいるが、それをはばかっている者の心の声さえわかってしまう俺たちは、考えられないほどの人の怯えを見てきた。苛立ち、悲しみなんかも。」
「だから、いまさらなんだよ。苛立つけど、マリスイヤーも言ってたでしょ?ウチたちに言葉を繕う必要はないって・・・」
だから、気にしなくていいんだよって笑うイリク。
慣れていると、諦めたように笑うライ。
ざわざわと、心がざわめく。何もできないもどかしさが体の中を暴れて、口から出た声は普段よりも大きなものだった。
「そんなの!」
間違っている!そう言おうとしたが、バキッと目の前の机がひしゃげたことで、声が出せなくなった。
一応言うが、私ではない。
「また、優等生ぶっているのですか、ライ。聞き分けの良いよいこのふりなど、虫唾が走るので今すぐやめてください。あなたのせいで机が壊れました。」
「俺のせいにするなよ。」
「では、イリコのせいです。」
「ウチのせいにもしないで欲しいな。もちろんリアのせいにもね?」
「リアのせいではありません。そうですね、2人のせいです。」
「「うわー」」
副会長の暴論に顔をしかめる2人だったが、どこか嬉しそうな表情をしている。
「とにかく、せっかく新しい生徒会になったのですし、何となく集まるのはもうやめにしましょう。私は、能力を自由に使える世界になって欲しいですし、能力で差別されることを失くしたい!その第一歩が、便利屋であるなら全力を尽くします。ですが、マリスイヤーのような、差別される苦しみを知っていて差別する者に対して我慢することはできません!」
「・・・私も、正直副会長と同じ気持ちだよ。」
「リア・・・」
「ねぇ、ライ・・・なんで私たちは集まっているんだろう?たぶんいろいろな理由があると思うけど、きっと誰もが傷ついて、裏生徒会に救いを求めているんじゃないのかな。」
「そうだな・・・俺も、ただ普通に・・・」
ぐっと何かを耐えて、ライは目を瞑って俯く。
イリクと同じように心が読める彼。どれだけ傷ついてきただろう、どれだけこれから傷つけられていくのだろう。
能力は、個性として認められない。時には、人間としての尊厳を踏みにじられることがある。
イリクもそれでひどい目に合ってきた。たとえば、テストで満点を取ったイリクを、能力でカンニングしたという生徒が現れて、教師が対策としてイリクは一人でテストを受けるようにと言われたことがあった・・・
今思い出しても腹が立つ話だ。
信用されていないんだってわかった時のイリクのあんな表情、2度とさせたくない表情だった。
「リア・・・それに副会長。」
「なんですか?」
「どうしたの?」
「ありがとう。ウチたちが笑うことを忘れなかったのは、2人みたいな友達がいたからだよ。ね、ライ。」
「あぁ・・・礼を言う。」
「礼を言うのはこちらの方です!私は脳が足りないので、ライにはいつも助けてもらっていますから。」
ばんっと背中を副会長に叩かれてせき込むライ。でも、そのまま背中に置かれたままの手を見て、ほっとしたように笑う。
私も自然と笑って、イリクの手を握った。
これからもよろしくね。
「もちろん。」
強く握り返してきた手とは違って、イリクの瞳はどこかはかなげに揺れている。
ごめんね、イリク。その能力がどれだけイリクを苦しめてきたって知っていても、私は神様に感謝するよ。
だって、今もイリクと一緒にいられるのは、あなたの能力があるからだと思うから。




