全ての真相
「あれれ?赤ずきんさん、もう狼を倒して、この森に戻ってきたのですか?」
不思議そうに、クマが赤ずきんに尋ねました。
「そんな訳ないよ!あれええ?なぜ、ここに着いちゃったんだろ?」
赤ずきんも、困惑して、ボヤいたのでした。
つまり、赤ずきんは、虹の道を渡って、別世界へ行ったつもりが、出発点に帰ってきてしまったようなのです。
「ああ、そうか!確か、聞いた事があるぞ!虹って言うのは、実際には、半円ではなくて、円形をしているらしいんだ。この逆さ虹も、両はしは別の世界へ繋がってたんじゃなくて、丸かったんだよ!」
はたと気が付いたリスが、説明しました。
「じゃあ、この虹が、あちらの世界への架け橋になっていると言う話も、全くの噂話で、ただの想像だったと言う事なのぉ?」
赤ずきんが、呆れながら、口にします。
「あんたが、まっすぐ戻ってきたって事は、そう言う話になるズラ」
キツネが、気遣いなく、はっきり言ってしまいました。
さっきは、赤ずきんも、大いに盛り上がって、この虹を駆け去っていっただけに、これは、とてもバツが悪いのであります。
「もう!いかにも、大掛かりに存在していたくせに、ただの虹だったなんて、どこまで思わせぶりなのよ!別世界への駆け橋だとばかり思っていたのに!じゃあ、狼はどこに消えたと言うのよ?この森には、他にも、別世界への駆け橋でもあるとでも言うの!・・・うん、架け橋?・・・橋・・・ああ、そうか!そう言う事か!」
ブツブツと一人でわめき続けていた赤ずきんが、突然、閃いたのでした。
赤ずきんは、ユニコーンを虹の上から降ろすと、バッと走らせ始めました。
森の動物たちも、慌てて、赤ずきんのあとを追いかけたのです。
次に、赤ずきんが訪れたのは、オンボロ橋のそばでした。川のふちに立って、眼下の荒れた濁流を睨んでいるのです。
「どうしたのよ、赤ずきんさん。こんなところに来たりして」
赤ずきんに真っ先に追いついたコマドリが聞きました。
「ようやく、分かったんだよ。この森の本当の出口がね」
赤ずきんが、鋭く答えました。
その時には、他の動物たちも、やっと、赤ずきんの元にたどり着いていたのです。
「それは、この川だあ!」
赤ずきんが、大きな声で怒鳴ります。
この推理に、もちろん、動物たちは驚かされたのでした。
「だめズラ!こんなところに潜ったら、死んじゃうズラ」
「♪そうよ、バカな事は言わないで〜」
「赤ずきんさん。おっかない事はやめましょうよ」
動物たちは、いっせいに赤ずきんを制止しようとしましたが、もう、赤ずきんの方は聞いてはいませんでした。
彼女は、再び、バッとユニコーンの上に飛び乗ります。
「さあ、行くわよ!」
赤ずきんが声をかけた途端、ユニコーンはさあーっと宙に舞ったのでした。その体は、一直線に川の方へと飛び込んでいきました。
ジャバアアアーン。
こうして、森の動物たちが見ている前で、赤ずきんとユニコーンの姿は、川の濁流の中に消えていったのでした。
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目覚めた時、赤ずきんは、岩だらけの荒野のど真ん中にいた。そこでは、びゅうびゅうと冷たい風が吹きすさんでいるのだ。
彼女のそばでは、ユニコーンもまた、うずくまって、眠っていたのだった。
さらに、赤ずきんたちから少し離れた場所では、七色の毛並みを持った年老いた狼が、無防備に、地面に体を横たえて、やはり眠っていたのである。
「やっぱり、思った通りだったわね!今まで、あたしたちは、この狼の見ている夢の中に居たのよ!」
赤ずきんは、力強く言い放った。
喋りつつ、彼女は、ユニコーンの体も揺すって、起こそうとしたのだった。
「この100年狼の通り名が、眠り狼だった事を思い出したよ!つまり、こう言う事だったんだ。獲物を眠らせて、自分の夢の中に取り込んで、その間に、本体の方を食べちゃうのが、こいつの手口だったんだね!」
赤ずきんが、激しく揺らしたものだから、ようやくユニコーンも目を覚ましたのだった。彼女たちは、一緒に、狼の方に身構えたのである。
しかし、その時、眠れる狼の体にも異変が起きた。狼の口から、白い煙のようなものが吹き出したのである。それは、エクトプラズムだった。熟睡中の肉体のピンチを察して、狼の魂が外界へと抜け出したのだ。その魂の固まりは宙に浮かび上がると、寝ている狼の姿そっくりに変形したのだった。七色のうえ、ピカピカと光っているものだから、とても眩しいのだ。
「さすが、赤ずきんだ!よく、わしの秘術を見抜いたな!」
その狼の魂が、赤ずきんの方を睨みつけながら、ごつい声で怒鳴った。
「逆さまの虹とか、嘘を見抜く根っことか、ファンタジーなものの中に、一つだけ、オンボロ橋なんて、現実的なものが混ざっていたから、おかしいと思ったのさ!危ない場所だと誇張して信じ込ませる事によって、この夢からの脱出口に、皆が近づかないように細工してたんだろ!」
赤ずきんが、得意げに謎解きしてみせた。
「その通りだ。絶対に見破れないと思ったんだがな。お前だって、ずっと、あの森に居続けた方が、きっと、幸せだったであろうに」
「ふん!あたしの生きがいは狼退治だけさ!あんたの首も取らせてもらうよ!」
赤ずきんがうそぶいたが、狼の生き霊は余裕の態度を見せていた。
「ちょっと待った。お前に、ほんとに、それができるのかな?」
「え!どう言う事よ?」
「わしが死ねば、あの逆さ虹の森も消滅してしまうのだよ。そんな非情な事がお前にできるのかな?あの逆さ虹の森の気のいい動物たちも、わしの道連れにして、お前には消してしまえるのかね?」
「奢れるな、100年狼よ!」
赤ずきんは、声を張り上げて、言い返した。そして、さらに言葉を続けたのである。
「果たして、お前の方が、本当に実体だったのかな?もしかしたら、夢の方が真実なのかもしれないよ!」
「な、なにい!」
狼の生き霊は、怯んで、顔をしかめた。
「さあ、行くぞ!」
赤ずきんは、バッとユニコーンの背中に飛び乗った。そして、彼女は、空に浮かぶ狼の生き霊めがけて、勇ましく、向かっていったのである。