虹の彼方へ
「ああっ!ここにいたのね!」
と、突然出現した動物を見て、赤ずきんが大げさに反応したのでした。
それを見て、森の動物たちは、それぞれ、ドキッとしました。てっきり、狼が現われたのかと思ったからです。
しかし、赤ずきんは、臨戦態勢に入るのでもなく、手放しに、その謎の動物のそばに走り寄っていったのでした。そして、その謎の動物の事を、優しく抱きしめたのです。その謎の動物の方も、赤ずきんには大変なついていたようなのでした。
「赤ずきんくん。その動物は?」
キョトンとしながら、リスが代表して、赤ずきんに尋ねました。
「紹介するよ。あたしの相棒のユニコーンだ」
赤ずきんは、謎の動物を撫でながら、そう告げたのでした。
しかし、森の動物たちの方は、よけい呆気にとられてしまったのであります。
と言うのも、森の動物たちも一角獣の存在はうっすらと知っていましたが、目の前にいた動物は、だいぶイメージが異なっていたからです。
確かに、この動物も、体が白くて、頭に角を生やしています。だけど、どう見ても、優雅な白馬と言う感じはしなかったのです。何よりも、幼女の赤ずきんと釣り合う、小さな背たけなのでした。
「あたしとユニコーンは、一緒に狼を追っていたんだ。でも、この森に入る直前にはぐれちゃったんだよ。こうして、また会えて良かったよ。これで、あの虹も渡る事ができる」
赤ずきんはそう説明しましたが、森の動物たちは、まだポカンとしていたのでした。
動物たちには構わず、赤ずきんはピョンとユニコーンの背中にまたがりました。このユニコーンは、赤ずきんを乗せる事のできる、ほどよい大きさだったのです。
そして、マイペースの赤ずきんとユニコーンは、逆さ虹の方に向けて、歩き始めました。
動物たちも、慌てて、そのあとを追いかけたのでした。
やがて、一行は、逆さ虹の前にと、たどり着きました。
地面に接地している虹の底辺のそばに近寄るなり、赤ずきんが乗ったユニコーンは、その虹の上にバッと飛び乗ったのでした。
赤ずきんは、心配そうに見守ってくれている動物たちの方に顔を向けました。
「皆。短い間だったけど、ありがと。助かったよ」
赤ずきんは、爽やかに、動物たちに礼を言ったのです。
でも、動物たちの方は、まだ名残惜しそうでした。
「ねえ、赤ずきん。本当に行っちゃうのかい。向こうの世界なんて、絶対につまらないぜ」
と、アライグマ。
「そうですよ。この森に残って、一緒に暮らしませんか。歓迎しますよ」
クマも、そう言いました。
「♪私たちは、いつだって、あなたの友達よ〜」
と、コマドリも歌います。
「皆、本当にありがと。でも、これがあたしの生きる道なんだ。どんな場所であろうと、悪い狼を退治しに行かなくちゃいけないのさ」
赤ずきんはうそぶきました。
「だども、そのユニコーンで大丈夫ズラか?虹の途中でバテたりしないズラか?」
キツネが、のんびりと尋ねました。
「心配ないよ。ユニコーンは、飛ぶように走れるんだから。さあ、行くよ!」
ついに、赤ずきんは出発を決心したようです。
彼女は、ユニコーンに乗ったまま、キッと前方を見つめました。その方角には、一直線に虹が伸びているのです。
そして、ユニコーンは力強く走り出したのでした。赤ずきんが言った通り、ものすごい馬力なのです。しかも、とっても速いのです。
虹の道は、緩やかなカーブから、次第に急な坂へと変わっていったのですが、それでも、ユニコーンの走るスピードは落ちませんでした。ユニコーンは、ぐんぐん、虹の道を登っていったのです。
その様子を、虹の手前の地上から、動物たちは見送っていました。この虹を登ってみせた存在は、初めてなのです。だから、皆、不思議な気持ちで、眺めていたのでした。
間もなく、虹の道を駆けのぼる赤ずきんとユニコーンの姿は、天高くまで去ってしまい、完全に見えなくなってしまったのであります。
それでも、動物たちは、まだ呆然と、赤ずきんたちが消えていった方向を拝み続けていました。信じられない出来事に、なおも心を掴まれ続けていたのです。
そのはずだったのに、ここで、さらに不思議なことが起こりました。
動物たちの耳には、何やら、あらためて、動物の駆ける足音が聞こえてきたのです。どうやら、今しがた、耳にしたユニコーンの足音なのであります。
しかし、赤ずきんが去った方角から、赤ずきんたちが戻ってきたかのような気配はありませんでした。
動物たちが怪訝に思っていると、どうも、新たな足音は、虹のもう一方の道から聞こえているのです。
逆さ虹は、中央の部分を森の地面にくっつけて、両はしが左右の二方向へと伸びていました。赤ずきんは、この虹の道の左の方を登っていったのですが、今は、右の道から、足音が聞こえてきたのでした。
動物たちが、ハッとして、その右の道の方へと目を向けると、奥の方から何かが、こちらへ向かって、降りてきています。どんどん、虹の中央へと近づいてきているのです。
それは、赤ずきんを乗せたユニコーンでした。去っていったはずの赤ずきんが、逆の道から戻ってきたのです。
動物たちは、ますます、ポカンとさせられてしまったのでした。
かくて、赤ずきんとユニコーンは、反対の道から、森の動物たちのいる地点まで、早くも帰ってきたのであります。