狼は誰だ?
とうとう、赤ずきんと森の動物ご一行は、根っこ広場へとやって来ました。
そこには、大きなガジュマルの木が生えており、その周りの地面には、このガジュマルの根がたくさん伸びて、複雑に絡み合っていたのです。
「よおし!狼あばきを始めるよ!」
赤ずきんが声を張り上げました。
その呼び掛けに従って、動物たちがゾロゾロと根っこの隙間へと身を潜らせていきます。この状態で嘘をつくと、真偽をつかさどる根っこに絡みつかれてしまうと言う仕組みなのです。
根っこの中に入る事を、事前に拒んだり、逃げ出そうとする動物は居ませんでした。
「では、皆、一人ずつ『あたしは狼じゃありません』と言うんだよ」
赤ずきんが命令します。
すると、動物たちは、順番に、それを実行に移したのでした。
「僕は狼ではありません」
真っ先に宣言したのはリスです。根っこが絡まってくる様子はありませんでした。
「俺も狼じゃねえぞ!」
次に、アライグマが声明します。
「おいらも狼ではないです」
「♪私も狼とは違います〜」
「シューシュー。狼なんかじゃないぞー」
「オラも狼とは違うズラ」
このように、動物たちは、次々に、自分が狼ではない事を宣誓していったのでした。
そして、誰一人として、根っこに絡まれるような動物は現われなかったのであります。
赤ずきんは、この結果を見て、首をひねりました。
「おかしいなあ。この中に、必ず狼は混ざっているのに」
その時です!
ついに、根っこは動き始めたのでした。根っこは、なんと、赤ずきん目がけて、襲いかかっていったのです。
「うわあ!何よ、このクソ根っこぉ!」
赤ずきんが、ビックリして、悲鳴をあげます。
「あああ!赤ずきんどんが狼だったんだズラ!」
キツネが、思わず、叫びました。でも、キツネだけではなく、他の動物たちも、一瞬、同じ事を疑ってしまっていたようです。
「なに、バカ言ってるのよ!あたしが狼のわけ、ないじゃないの!あたし、ハンターよ!狼の天敵なのよ!いいから、皆、早く、この根っこから助けてよぉ!」
赤ずきんが、根っこに絡まれつつも、怒鳴りました。
動物たちは、その剣幕に押されて、言われた通りに、急いで、赤ずきんを根っこの群れから引き離したのでした。
かくて、根っこ広場を使った狼探しは、見事に、失敗に終わってしまったのであります。
赤ずきんは、切り株の上に座って、一人で考え事をしています。
そこから少し離れた場所に、森の動物たちはコソコソと寄り集まっていたのでした。
「要するに、僕たちの誰かが狼だと言うのが間違いだったんだ。それで、赤ずきんくんの言葉がウソ扱いになり、根っこに絡まれてしまったんだね」
リスが、先ほどの出来事を、このように皆に説明していました。
つまり、ここにいるメンバーは誰も狼ではない事だけは、はっきりしたようなのであります。
「ねえ、みんなぁ」
と、クマが小さな声で喋り始めました。
他の動物たちも、そっとクマの方に耳をそばだてます。
「もしかしたら、この森に狼が潜んでいると言う話自体が、赤ずきんさんの勘違いか空想なんじゃないのかな?」
クマは、小声で言い切りました。
他の動物たちも、神妙な顔つきをしています。実は、彼らも、クマと同じ事を考え始めていたのです。
その時、赤ずきんが、勢いよく、切り株から立ち上がりました。
「そうだ!きっと、そうだよ!」
赤ずきんが大声で叫びます。
その声に、動物たちはギクッとしたのでした。特に、臆病者のクマが驚いていたようです。
「どうしたんですか、赤ずきんさん」
そのクマが、赤ずきんに、恐る恐る尋ねました。
「狼の奴は、もう、この森にはいないんだよ。まんまと逃げ出しやがったんだ」
赤ずきんが言います。
「でも、どっから逃げたと言うの?誰も森から出て行く姿を見てないわよ」
コマドリが返しました。
「見つからない出口ならあるよ。あの逆さ虹だ」
赤ずきんが豪語したので、動物たちは、さらにおののきました。
「向こうの世界へ行ったと言うのかい?ありえないよ」
と、リスが否定します。
「そうだ、そうだ。向こうの世界は、ロクなところじゃないんだぜ」
アライグマも訴えました。
「でも、それ以外、この森から出て行く方法は考えられないよ」
赤ずきんも、頑固に言い張るのでした。
「第一、あの虹の道は、坂が急すぎて、まともには登れないズラ」
キツネが言うと、コマドリも付け足しました。
「私だって、あの虹の向こう側までは飛び上がれないのよ」
このように、動物たちは、口々に、赤ずきんの意見に異を唱えたのですが、当の赤ずきんは、まだ納得していないようなのでした。
その矢先、いきなり、彼ら全員の前に、ヌーッと、新たな動物が姿を現わしたのであります。