100年狼
「あたし赤ずきんは、狼専門のハンターなんだ」
赤ずきんは、森の動物たちへと、クールに、そう告げました。
でも、動物たちの方は、合点のいかぬ表情をしていたのでした。と言うのも、この逆さ虹の森には狼は一匹も住んでいなかったからです。
「ねえ、赤ずきんくん。この森には、狼なんて居ないんだけど」
代表して、リスが、その事を赤ずきんへと伝えました。
「この森の狼を退治しに来たんじゃないよ。この森に逃げてきた狼を追ってきたんだ」
赤ずきんが、そんな事をサラッと口にしたものだから、またもや、森の動物たちはざわついてしまいました。
「狼さんって、たいへん凶暴だと聞きましたよ」
不安で、曇った顔つきになったクマが言いました。
「てやんでい。狼なんて、怖くねえや!」
相変わらず、アライグマは、強気の態度でイキがります。
「ねえねえ、赤ずきんくん。どんな狼なんだい?僕たちは、君が来る前に、怪しい奴は見かけてないんだけど」
と、リスが赤ずきんに聞いてみました。
「普通の狼じゃない。100年以上生きた魔性の狼なんだ。不思議な魔力だって持っているから、皆に気付かれないように、この森に入る事だって、ちっとも訳ないよ」
赤ずきんの言葉に、さらに、動物たちは慌ててしまったのでした。
「例えば、どんな魔力が使えるの?」
と、コマドリが赤ずきんに尋ねます。
「たいていの100年狼は、普段は、別のものに変身して、姿を潜めているよ」
「えええ!じゃあ、狼に似てるキツネくんとかには化けやすいんじゃないのかい?」
いきなり、リスが無責任な事を大声で訴えました。
「おいおい、リスどん。オラを巻き込まないでほしいズラ!」
と、キツネが、急いで言い返します。
「いえ。あたしも、さっきは、狼かと思って、このキツネに話しかけちゃったんだ」
赤ずきんが、そう言ったものだから、キツネは血の気が引いてしまったのでした。
「待って、待って!オラは狼じゃないズラ!他に狼を見分ける手立ては無いのかズラ?」
キツネが叫びます。
「あとは、100年狼は、自由に大きさを変えられるよ」
「と言うと?」
「山のように大きくなったり、豆のように小さくもなれるんだ」
赤ずきんの説明を聞いて、次に顔が青くなったのはヘビです。
「どうした、ヘビ!体が震えてるぞ?」
ヘビの様子に気付いて、すかさず、アライグマが声をかけました。
「何でもない、何でもないよ。シューシュー!」
と、ヘビがしどろもどろに返します。
「ヘビさん、おかしいわ。なにか、心当たりでもあるんじゃないの?」
コマドリが言いました。
「食い意地の張ったヘビくんの事だ。さては、少し前に、見慣れぬ豆でも食べちゃったんじゃないのかい?」
頭の切れるリスが、いきなり、核心を突きました。
「た、食べてない、食べてないったら!シューシュー!」
ヘビが大慌てで否定します。
「もし、狼を食べたとしたら大変な話だよ。お腹の中から、逆に食われてしまうんだから!」
赤ずきんが、そんな事を言ったものだから、ヘビは気が動転して、バタバタと暴れ始めたのでした。どうやら、見かけぬ何かを食べちゃったのは事実だったようなのです。
「ヘビさん。早く狼を吐き出すんですよ!」
クマが心配そうに言いました。
「よおし!俺に任せろお!」
そう怒鳴るなり、ガサツなアライグマは、ヘビの尻尾をグイッと掴んだのでした。そして、小柄なヘビの事を、めちゃくちゃに振り回したのです。一見、乱暴には見えますが、これはこれで、アライグマなりの仲間思いの行動なのであります。
アライグマに尻尾を掴まれて、激しく振り回されて、地面にも何度も体を叩きつけられたものだから、とうとう、ヘビは口から小さな木の実をポトンと吐き出したのでした。
その木の実を素早く持ち上げて、赤ずきんがチェックします。
「どうやら、ただの木の実だね」
素っ気なく、赤ずきんが答えを出しました。
「もう、皆、ひどいよ、ひどいよぉ。シューシュー」
ヘビは、泣きながら、うなだれたのでした。
「まあまあ。狼を食べてなかったと言うだけでも、良かったと思うべきズラ」
キツネが、ヘビを慰めました。
「ねえ、赤ずきんくん。他に、狼だと分かる特徴はないのかい?」
あらためて、リスが赤ずきんに尋ねます。
「歌声狼という奴がいて、こいつは、キレイな歌を歌って、エサをおびき寄せて、食べちゃうよ」
赤ずきんが、そんな事を言ったものだから、今度は皆の目がコマドリの方へと集中したのでした。
コマドリは、ギョッとして、震え上がります。
「さては、お前が狼だな!コマドリの姉さんを食べて、入れ替わりやがっただろ!」
気の短いアライグマが、いきなり、コマドリに飛びかかります。
「♪違うわ、違うわ、私はほんものよ〜」
否定しながらも、うろたえるコマドリは、いつもの癖が出て、つい歌ってしまうのでした。
「でも、歌声狼は、あたしが、もう退治しちゃったよ」
赤ずきんが、すぐ、そう告げたものだから、皆はずっこけたのでした。コマドリも、あっさり、アライグマに放してもらえました。
「♪もう、みんな!落ち着いてったら、落ち着いてえ〜」
プンプン怒りながらも、興奮しているコマドリはまだ歌っているのでした。