赤ずきん登場
「おーい、キツネさーん」
「やい、キツネー!」
「キツネくん、キツネくん!」
「♪大丈夫ったら、大丈夫ぅ〜?」
「シュー、シュー」
森の動物たちは、それぞれに声をあげながら、キツネのそばに駆け寄りました。
キツネは、ケロッとした態度で、動物たちの方へ顔を向けます。
「おやおや。皆さんお揃いで、どうしたズラ?」
キツネが、呑気な口調で言いました。
「何もされたりしていない?そちらにいるのは何物なの?」
コマドリが、代表して、キツネに尋ねました。
「ああ、この人とはちょっと話をしていただけズラ。皆にも紹介するズラ」
キツネがそう言いかけた時、問題の人物が動物たちの方へ振り返りました。
キツネより一回りほど大きい人間です。人間としては小柄な方であり、つまり、この人間は子供だったのであります。女の子です。赤い頭巾を頭からかぶった、幼い少女なのでした。
「あたし、赤ずきんだよ」
女の子が、可愛い声で、自分から名乗りました。見たままの名前なのです。
「なあんだ。人間とは言っても、まだ子供だったんですか」
ホッとしたクマが、安心して言いました。
「なんで、子供なんかが一人で?」
アライグマが疑問を投げかけます。
「シューシュー。美味しいものでも探してたのかな?」
相変わらず、トボけた事を言っているのはヘビです。
「迷子かしら?」
と、コマドリ。
「それなら、親の元まで返してやらないと」
リスも、そう言いました。
どの動物も、根はとても親切みたいなのです。
「オラも、この子に話しかけられて、同じ事を考えていたところズラ」
キツネも、そう告げました。
「私たちさ、てっきり、おっかない猟師でも、この森にやって来ていて、キツネさんが襲われていたのかと思ったのよ」
コマドリが、ペラペラと自分たちの事情を説明しました。
その矢先です。
「あたし、猟師なんだけど」
赤ずきんと名乗った少女は、いきなり、赤いフードの中から猟銃を取り出して、皆に見せたのでした。
これには、動物たちもビックリです。どの動物も引っくり返りそうになりました。特に、臆病だったクマは、腰を抜かして、尻餅をついてしまったのでした。
「そんな、怖がらないで。あたしは、むやみに動物を殺したりはしないよ」
赤ずきんが、すぐに、皆へそう告げました。
動けないクマはほっといて、さっさと逃げかけていた動物もいたようなのですが、赤ずきんのこの一言を聞いて、皆、かろうじて踏みとどまったのでした。
ところが!
「あたしの獲物は狼さ」
続けざま、赤ずきんがこう言ったものだから、動物たちはまたしてもギョッとなったのでした。