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#黒カラス:取り立ててなんの理由もないですが鳥だっていろんな色があるのにどうして僕だけこんなに小汚ねぇ色をしているの?(6月10日)

一話投稿漏れがありますので追加しておきますねぇ

#黒カラス:取り立ててなんの理由もないですが鳥だっていろんな色があるのにどうして僕だけこんなに小汚ねぇ色をしているの?(6月10日)


「お、おはよう…」

 ビイトは半分身を隠すようにして教室のドアを開けた。

 教室にいるみんなはビイトを一瞥するだけですぐににいつもの、ようはビイトがいない生活に戻っていく。隣の女子とテレビの話をしたり、教室の隅に固まって近くのゲームセンターに新しく入ったゲームの話をしたり。

 結局、やっぱり無理なのかな…なんてすでにビイトの心は折れかけている。

 那烙にあの宣言をしてすでに1週間が過ぎようとしている。その間に結局なんどもこうやって入り口に立つだけで心折られ続けてきた。

 だけどいつまでもそんなわけにはいかない。だって那烙がそれができたら死なないとはっきりと口にしてくれたのだ。

 繋がり、絆、優しさが生み出す強さを証明すること。那烙はそうすれば自殺をやめてくれる。そのための第一歩としてまずはビイトは友達を作らないといけない。ビイトは周りを拒絶することで生まれた孤独主義者ではなく周りから拒まれ続けているのだ。昨日まではここで諦めてたけれど、それだけじゃダメなんだ。とにかく、もっと積極的に。

 ビイトは出席番号の都合で何かとペアを組むことが多くなる山崎のほうへ歩いていく。ちょっとポッチャリした、それでも話がうまくて女子にはともかく男子は彼を中心に輪を作ることが多い。それに面倒見もよくて他のおとなしいクラスメイトからもしばしば頼りにされていた。

 が、そんな山崎もビイトの顔を見ると露骨にいやそうな顔を浮かべてすぐにまたゲームの話へ。いつもならここでビイトの足はスグに力を失ってしまって逆戻りなのだけどビイトは精一杯の笑顔を一生懸命作る。

「あ、あのっ…」

「でさぁ、あと少しってところでこいつがミスしやがるの。おかげでぼっこぼっこ。持ったいねーよなぁ、初めて全クリ直前までいったっていうのに」

「アレだろ、樋口っていつもプレッシャー弱いもんなぁ。すぐにミスしやがる」

 山崎は全然ビイトの声なんて聞こえていないように友達と話していた。

「あ、山崎君…」

 口にしたはずの言葉はスグに力を失って飲み込まれていくけれど…

「あーもううぜぇな」

 山崎が手を上げたかと思うとそれはすぐさまビイトに向かってくる。

 どがらっ

「あ、いたっ」

「うわっ、サイアクッ」

「もーこっちこないでよねー」

「つ、机が…やだ、呪い付いてないよね…うわぁ…もう」

「っひっひく…な、なんでこっち来るのっ…や、やだぁ」

 ビイトは後ろの席で固まっていた女の子のグループに突っ込んでしまい、そのまま机を押し倒してしまう。周りで起きる声の一つ一つに打ちのめされていく。挙句の果てには泣いてしまう女の子までいて、ビイトは教室の床に手を付いたまま、もう顔を上げることなんてできなかった。もし顔をあげてその先にあるクラスメイトたちの表情を見てしまったら本当にぺちゃんこに押しつぶされてしまいそうだ。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」

 ビイトは床をはいずるようにしながらなんとか女の子のグループから抜け出すとやっとで立つことができた。

 すでにドアを開けたときのような緊張と高揚が混じった気持ちはもはや粉々跡形もなくとぼとぼと自分の席に向かう。

「…うっ…ひぐ…」

 ビイトはもう、そのときの自分の机を見ると、消えてしまいたかった。最近はひっそりと鳴りを潜めていたと思っていたものの結局また始まった。この1週間のビイトの行動がやはりみな気に入らなかったのだろう。ガリガリと縦横斜めそちらこちらに入った傷。なんかよくわからない、多分、食べ物かなにかと思うものがべちゃっと広げてあってマジックで死ねとか呪い付きとかうんこ野郎とかそんな言葉がいっぱい書いてあった。

 しゃがみこんで塞ぎこんだところでこの目の前の現実は消えるわけじゃなくて、多分今ビイトが痛いのは軽蔑とか差別の目で、そのなにもかもがビイトのこの真っ赤な髪と目に体内ヘドロ、そして両手に生えたイルフィンガーのせいなのだ。だから誰かを攻めるなんてことは出来やしない。 もし、自分が呪い付きじゃなくて、誰かが呪い付きだったらビイトだってやることはきっと一緒だし。それにみんなは呪い付き以外には善良な人たちだ。

 とにもかくにもビイトは僕自身がこうにも罪の塊なのが悲しくてもう、流れかけた涙を黒い手袋でぬぐう。


 放課後。

 メギドドアー内の那烙の私室にビイトはいた。

「ふん、わざわざここまで来て泣くか?それでどうだったんだ、なぁ?」

 那烙はぎしっとベッドのスプリングを鳴らしながらベッドに倒れこむ。それも制服のままだ。黒い髪がふわりとベッドの白いシーツに広がる。

 ビイトはスチール机の前に座ってめそめそ。

「訊かなくてもわかってるくせに…イジワルだよ…」

「何がイジワルだ。お前、自分で群れに混じって仲良く強く生きていけるって宣言したんだぞ。山羊が羊の群れに混じって狼になれるなんて宣言をしたんだ。

 だったらここでひとりでめそめそ泣くな。死ね」

 寝転がった那烙さんはつまらなさそうに両手を投げ出した。

「ひ、ひとりじゃないもん」

「あ、なにがだ?」

 那烙は寝返りをうってビイトのほうを見る

「ひとりで泣いてないもん」

「どう見たって一人で泣いてるじゃないか」

「…那烙さんが側にいてくれるもん」

「ハァ!?馬鹿か、お前、死ねっ死ねっ!!百編死ねっ!!生きるなっ!!

 勝手に人の家まで押しかけて泣いてるだけだろっ!!」

 がばっと那烙はベッドから立ち上がる。

「で、でも追い出さなかったよ…?」

「なんだ?追い出されたかったのか?そういうことはさっさと言え。

 本当にめんどくさいヤツだな。

 大体わたしのところに来なくてもお前にはみたまという影うつろいのユーレイがいるだろう」

 ぽりぽりと那烙は頭をかいた。

「みたまさんは、今日はいないよ。

 それに影うつろいのユーレイって…みたまさん死んでなんかいないし」

「無知が一番楽だよな。まぁ今のわたしには語るべき言葉はない。お前の孤独によりそう気もない。

 とにかくこれで心打ち砕かれたお前の指先がわたしの首を絞めることを妄想するだけだ」

「こ、殺さないからっ、何度も言わせないでよっ!!それに、那烙さんも友達ぐらい作ったほうがいいよ」

「何度もいうけれど、友達のいないお前に言われたくない。ったく、どの面ぶら下げてそんな言葉をつなげることが出来るんだ?」

「ぼ、僕はちょっとでも那烙さんに楽しく幸せになってもらおうかと…」

「だからわたしの幸せを望むなら殺せと、これも何度も言い過ぎてもう嫌になるな。

 それよりビイト、ビイトは約束守れなかったんだ。何をしてくれるんだ?」

「…え?約束?」

「おいおい、忘れるなよ、ビイト。本当にお前はネジ抜けっぱなしだな。お前が群れに混じれたらわたしは自殺をやめるといっただろう?だったら群れに混じれなかったお前は一体何をしてくれるんだ、と訊いてるんだ」

「そ、そんな、別にできなかったらなにかするとかも言ってないよ」

「だったらわたしだけリスクもってこの賭けをしてたって言うのか?それはあまりにも卑怯だろう?」

 那烙はつかつかとビイトに近寄ってくる。顎に右手を添えて顔を上げさせた。

 真っ黒な目はその向こうが全然見渡せないほどの広さで、そこに飲み込まれていきそう。

「た、たしかにそうだけど…でもだったら那烙さん、自分を殺せって言うから…」

「ふん、さすがにそれは言わないさ。そんなに物分りの悪いわたしじゃない。だけど、他のことならなにかしてくれるってことだな?」

 那烙は多分薄ら笑いを浮かべている。口元がネックウォーマーに隠れているからはっきりとはいえないけれど。

「まぁ、殺す以外なら…」

「よし、じゃぁビイト、ビイトは今から、たったこの時点からわたしを尊敬しろ」

「え、ええ、ええええぇ!?い、意味がわからないし、そんな、尊敬しろって言われたってスグに出来るわけが…」

「ええい、グダグダ抜かすな。だったら四六時中わたしに付きまとってどこか尊敬できるところを見つければいいだろ?」

 那烙はビイトの襟首を掴んで椅子から引きずりあげる。

「でも、尊敬なんて…なんで?那烙さんは一人でいいんなら、そんなものもいらないんじゃ」

「うるさいな、わたしもちょっとだけ、考えたぞ。どうやったらお前がわたしを殺したくなるかをだ。まったく他人のことなどに思考を割くなんて初めてだ。考えながら本をめくっているとな、こんな言葉に出会ったんだ。

『尊敬できるヤクザにあえば本物と堅気の違いがわかるはずだ。尊敬できる小説家にあえばおのずと文学がわかるはずだ』

 だったらこうとも言えるだろう?

『尊敬できる自殺志願者にあえば、おのずと引導を渡したくなるはずだ』

 お前にもわたしの抱えている不安と絶望が少しでも伝わればその手を振るうことにためらいをなくせるはずだ」

「か、かなり無茶のある理論だよ。それにもし、那烙さんの言うとおり理由がわかったとしても、尊敬してるならなおさら死んで欲しくないって思うはずだから」

「…」

 那烙はつつ、と目を逸らすと、それは思いつかなかった、というように額からちょっと汗を流す。

「お前、斬新な意見を出すな。たしかにそれも一理あったか…うーむ、ならこれも賭けなのか…

 畜生、死ねる保証が欲しいのに、死ぬるってことはこんなに難しいことなのか」

 と言って首を捻る那烙はぶつぶつと一生懸命考えているみたいだ。

「そうだよ、死ぬのは難しいんだよ。だから、ね、もうそういうのはやめようよ」

「うるさい、負け犬がっ、弱者がっ!!しかもなんだ、その思考も思想も哲学も固まっていないガキに言い聞かすような物言いは!!わたしはカチンと来た。絶対なにか罰ゲームやらさないと気がすまないぞっ!!

 ええい、なんかお前が嫌がるようなことを今考えているんだ、黙って待っていろ」

「え、えぇぇぇ!?ひ、ひどいよっ、ただでさえ落ち込んでるのに」

「自業自得だろうが、このピエロめ、黒カラスめ!それにそんな言葉いえるんだったらもうだいぶ気が落ち着いてきてるんだろう」

「う、うん…」

 たしかに那烙とこうやって言い合っていると、不思議と落ちた気持ちがかなり薄らいでいるのは感じていた。なんでだろう?那烙はちっとも言葉に出して励ましてくれるわけじゃないのに。

「まったく、あつかましいヤツだな。人の部屋で勝手に泣いて勝手に立ち直って。

 やっぱりそうだな、お前、四六時中わたしに付きまとってわたしを尊敬しろ。それが一番だ。

 そうすることでお前がわたしを殺さなくてもわたしは多分この先にある悲劇のことがわかるはずだ」

「悲劇なんてそれ自体が那烙さんの思い込みだから…」

「ふん、今はそれでいいさ。だけど時間の流れが証明する」

「なにを…?」

「お前が知らなくていいことだ」

 きっぱりと言い切った那烙はビイトを見下すとネックウォーマーを引きずりあげる。

「時が来れば、嫌でも思い知らされるさ」


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