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#黒いカラスと影うつろいの求道者の異端審問(6月3日)

#黒いカラスと影うつろいの求道者の異端審問(6月3日)


「び、い、と、さ、ま~!!」

 教室に入ろうとするなりドアを開けて出迎えたのは湯気が出るんじゃないかな、と思うほど顔を真っ赤にして怒っているみたま。昨日のツインテールに懲りたのか今日は後ろで一纏めにした髪を大きなリボンで結んでいる。反対にビイトはうひゃぁ、と心臓がきゅっと冷たくなった。そして無理やり教室の隅っこに連行される。クラスメイトは遠巻きに様子をうかがうだけだ。ビイトはその視線でまた小さくなってしまったがみたまといえば一向に気づいてないのか気にしていないのか。

「昨日…放課後…なにしてたですか…?」

 ぶぅ、と唇を尖らせてみたまは重い声を出した。

「放課後?えっと…」

 放課後のどの行動がミスだったのか。すぐにその答えはみたまの口から飛び出す。

「昨日、メギドドアー、行ったですね?」

 口調こそ訊ねているものの断定と変わらない。

「い、いったけど…」

 そのことでみたまが怒っているのはさすがにわかったがなぜ怒るのかはさっぱりわからない。

「なにしにいったですか、ねぇねぇ。はっきりさせるのですよ!きっちりはっきり後腐れなくなのですぅ!

 これからの発言、せいぜい気をつけるのですよ。…こととしだいによっては、みたま、びいとさまを修正しますですぅ~!!真っ白な朝を迎えることになりますよ!」

 突きつけられた指に思わず後ずさるビイト。

「真っ白な朝っ!?え、えっと…それより、なんでそんなに怒っているのかがわかんないんだけど…」

「怒る、怒るですよぅっ!!それはもう、みたま、ぷんぷんですぅっ!!本当にメギドドアー行ってるなんてっ!!まさかあの死にぞこないの女に会いにいったわけじゃないですよね?もしそうだったら、もっとひどいですよぅ」

「たしかに…那烙さんには会ったけど…どうしてそこでそんなにみたまさんが怒るの?」

「そ、それは決まってるですぅっ!!だって、だってだって、あの、あの女はっあの女はっ!!」

 ギリギリとこぶしを握り締める。メギドドアーの話の際に見せた冷たい表情、あれの原因はどうやらメギドドアーに住む少女、那烙によるものだった。

「そんなこというの、みたまさんっぽくないよ。僕の知ってるみたまさんは人の悪口なんていわないよ」

「み、みたまだってあの女のこと、しょうがないって思うこともあるです。でもでも、これはびいとさまのために言ってるですぅっ!!あまりあの女に関わったって…」

「僕のため…?」

「そうですぅっ!!関わったってなに一つ良いことないですよっ!むしろつらくなるだけなのですっ!だってびいとさまはいずれあの女をこっ」

 はっとみたまは口を押さえた。なにを言おうとしたか、でも言いたくないことをわざわざ聞きだしたいとはビイトは思わない。みたまは取り繕うように左右の人差し指を絡ませる。

「えっと、その…あ、あぅ、うにゅる、そ、そのっあの女の影響受けて、びいとさまが自殺なんかしちゃったらみたま、もう生きていけないですぅ、だから、だからぁ」

 泣きそうな顔でみたまはビイトを上目遣いで見つめた。ビイトは別に那烙の影響なんて受けなくても一昨日死のうとしたばっかりで、もうすでに裏切っているようなものだ。反論なんてできるわけがない。

「ご、ごめんなさい」

「うにゅ、その、謝らなくてもいいですぅ。ただ、びいとさまにはなるべくあの女と関わらないでほしいです」

「でも…みたまさんが僕を死んで欲しくないって思ってくれるように、僕はこの世界の誰にも死んで欲しくないから。だから、那烙さんに死なないでって言葉、ずっと、死ぬことを諦めるまで言っていきたいんだ。…ダメかな?」

 みたまは女子としてはサイズ小さめなのだがビイトも男子としては規格外なので目線の高さは大体同じだった。本当にまっすぐとむけられたビイトの目を思わず逸らしてみたまはたじろぐ。

「…うぅぅちょっとタンマなのですよ。そんなこと言われたら、みたま、ダメっていいづらくなっちゃいます」

「じゃ、許してくれる?」

「う、うぅ、その目、目が…ずるいずるいずるいーっ!ほんとにずるいっ!そんな顔されたらみたまがもうまったく勝ち目なくなっちゃうじゃないですかぁ」

「ごめんなさい」

「もう、あやまらなくていいですよぅ…そのかわり、そのみたまを、ぎゅっと。だったら許してあげます。びいとさまぁ、だっこだっこ~」

 と、顔を赤くしてまでせがむようなことではないと思うのだが、ビイトにとっては寝耳に水とはまさにこのことでまったく予想していなかったのでうろたえることあわあわのごとしなのだ。そもそも女子男子の間柄に複雑な緊張感を感じてしまうというのにさらにイルフィンガーを持つビイトが自ら誰かに触れるなど考えたこともなかった。

「で、でもそんなことしてみんなにウワサとかされたら恥ずかしいし…みたまさんにも申し訳ないよ…」

「な、なんでそんな原始ギャルゲーのメインヒロインみたいな断り方するですかっ!?

 だいたいその言い方だとみたまと仲良くしてるのが恥ずかしいみたいなのですよぅ!

 おかしいのですよ!それを言うのはどっちかというとみたま!や、みたまに限って万が一億が一兆が一そんなことびいとさまにみたまがいうはずないですけどそれでもヒロインはみたま!みたまがいいっていってるからいいの!いいのです!いいのですよぅ!!絶対ヒロイン力によってすべてが認可されているのです!!!」

「いや、だって、ただでさえ僕に関わりすぎなのに、そんなことまでしちゃったら、みたまさんまでいじめられたりするかも…?」

「むぅー…びいとさまは優しいですね。しょうがないです、じゃぁ頭なでなでで許してあげるますです。これだったらいいですよね?ね?」

「え、じゃ、なでるだけなら?」

「うにゅ、はやくはやくぅっ」

 みたまは頭を下げてビイトに向ける。ビイトは顔をそっぽに向けて、そっとその頭に手の平を乗せた。手袋ごしだったので、みたまの髪の感触も何もわからずじまいだ。

 みたまは顔を上げるとどことなく顔を上気させている。

「こ、こんなことさせるの、びいとさまだけなんだからねっ!!他の子にはこんなことさせないんだからっ!!はしたない子だなんて、思わないでよねっ」

「え、えぇっと…?」

 突然の変わりようにまたもやビイトは言葉を失ってしまった。だけどみたまは何かをやり遂げたようにかいてもいない額の汗をぬぐうととても満足そうなのだ。

「ツンデレPt2ですぅ~!!どうです?萌え萌えしました?」

「正直、ぎょっとした」

「な、ほ、ほんとですかぁっ!!ああ、もう、この冥府魔道より厳しい萌えキャラ道のゴールは一体どこにあるですぅ?ドアを開けたらまた次のドア、水に浮かんだ月のように、指と指の間をすり抜けるっ!!それが萌えの境地っていうんですかっ!!神様、そんなの残酷ですぅ…でも、みたま、負けないですぅっ!!ファイト、ファイトファイトみたまっ!!」

 と、まぁ、今日もみたまはいつものように握り拳でどこかに向かって何かを誓っているのだけどやっぱりビイトにはその、萌えキャラがなんなのかわからないのだ。最近はもう、申し訳なくって。

「あの…頑張ってね…」

「はい、頑張るですぅ~!!頑張るですー!!大事だから二回いいましたですよっ!じゃ、そろそろ授業始まるから、またあとで、待っててくださいねっ」

 そういって駆け出したみたまだけど。ドンガラガッシャーン!!机の足に思いっきり引っ掛けて、机ごとひっくり返った。しかもひっくり返った机がちょうどみたまの華奢で小さな身体に思いっきりおおいかぶさっている。

「ふ、ふにゅぅ~、いたぁい」

「だ、大丈夫、みたまさんっ!?」

 ビイトは慌てて駆け寄ると、みたまは床に這いつくばったままビイトのほうへ振り返った。涙目になってるのはやっぱり痛かったからに違いない。

「こ、これが萌えの王道のひとつ、ドジッこ萌えですぅ。どうです?びいとさま、萌えました?」

 えっと、わざとなのか?かなり本気で転んだように見えたのだけど。けれど本人がそう言いはるのだからそういう事にしておこう。

「危ないから、次からはやめたほうがいいと思うよ…」

「う…まさにその通りですぅ。次はもっと別の技で萌え萌えさせるですぅ…か、覚悟しておくことっ!!」

 みたまは真っ赤にした顔をすばやく手で隠すと走り去ってしまった。

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