# その先の向こう(7月2日~)
# その先の向こう(7月2日~)
ビイトの決断。その結果が今広がっている。言葉を尽くして語るにはあまりに寂莫とした視界。斜塔は中ほどで折れて地面に突き刺さりこの町のどこからでも見える。それは死骸のようで巨大な背骨を思わせる。今のこの世界そのものを表している。紫に染められた空は燃えるように広がり噴煙のように立ち上がる入道雲も灰色に濁りその中でいくつもの稲光が見える。強い夕立が迫っているのだろう。湿気ったアスファルトの匂いはねばねばと肌にまとわりついた。学校の校舎、小さな事務所が入っていた商店街のビル、すべての人工物には縦横無尽に走る大きな亀裂、細かな亀裂。鱗のように剥げて散らばった破片。ループし続けていた時間の代償を一度に刻まれどの建物も廃屋というのもはばかられる有様だ。
町を取り囲んでいた壁も完全に崩れ去りところどころにその残骸が醜態をさらすだけになっていた。白かったはずのそれも堕落の雨に晒された結果かかつてビイトの身体に流れたヘドロのようにどす黒く変色してしまっている。
壁の向こうは赤くひび割れた大地がどこまでも広がっている。草木、生物の存在を許さない不毛の大地。死の風がびゅうびゅうに吹き荒れている。
壁を境に死の世界と、終わってしまった世界が広がっている。ひび割れた校舎はつたに覆われかつては並木を作っていた木々は今や思い思いにその枝葉を伸ばしている。
人の気配が完全に消え去った世界でもどこまでもセミの鳴き声だけは響き続けている。
斜塔がそびえていたそこに今は向日葵が咲き乱れている。折れた斜塔を飲み込むような向日葵の隙間隙間からわずかにかつて斜塔の一部がのぞいていた。
どんよりとした色調に埋め尽くされた世界でもその黄色は、緑は、原色は鮮やかさを少しも損なうことはない。むしろもっと強さを増して見える。
ビイトは美術室から引っ張り出したぼろぼろのイーゼルの前に座り込むとキャンバスに鉛筆を走らせていた。
もうその手に手袋はない。イルフィンガーは失われねじくれた枯れ枝ではなくしっかりと肉のついた小さな両手がそこにあった。
「結局絵を描くんだな」
「…うん。なにができるのかって思ったらこれしか思いつかなくて」
「しかしまぁ随分と面白みのない絵を描くようになったものだ。健全で真っ当、そしてありふれた題材。小学生のスケッチの宿題か?お前があれだけ求めていた人の内面グロテスクを外見に落とし込んで多角的にその人そのものを陥れるあの手法はどうしたっていうんだ?」
「あれは僕じゃなくて…って昨日からずっとそればっかりだ。いいの、僕が描きたいのはそういうのじゃないんだ。何かを傷つけるために描く絵なんてイルフィンガーから何も変わらないよ。イルフィンガーと一緒でもうあの絵は僕には必要じゃない」
「ま、そうだな、同じことを繰り返すのならビイトである必要がない。お前は博音じゃなくてビイト、そしてわたしも天世じゃなくて那烙」
「あーずるいですよぅ!!抜け駆けは無し!これはリアルな話!韻踏むスタイルで時代に迎合した萌えキャラを目指します!
ところでそれ、ステキな絵ですね。みたまはメギドドアーに飾られていたあんなクリーチャーの博覧会よりそっちのほうがずっと好きですよ?」
ビイトの絵はけして上手いモノじゃない。デッサンもパースも理解できていないし精緻に見たものを映し出せる器用さもない。
「そういってもらえるとうれしいな」
「ははーん、みたま、そうやってその絵をディスったわたしを落とすわけだ。なにが萌えキャラだ。ただの腹黒女め」
「那烙さんガールこそ萌えキャラに関しての見識が浅いのですよ?腹黒もあざといも萌えキャラのジャンルとして十分に需要ありますし!そのためには策略の一つや二つなんにも気になんないのですぅ!」
「見ろビイト、策略だって認めたぞ。つまりはみたまもリップサービスだとさ」
「ああ、びいとさま、肩を落としてはダメなのですぅ!今のは流れというか勢いというかついというか約束されたレスポンスというか」
「まぁわたしもその絵は嫌いではないからそう泣くなよ」
「みたまもステキだって思ったのにウソはないんですぅ!」
「しかしまぁいつまで描き続けるんだお前」
並べられたイーゼルにはいくつもいくつも絵が並んでいる。色が塗られたものもあれば線画で止まっているものもあるけれどそのモチーフはすべて同じ、向日葵、花。
目の前の向日葵畑がキャンバスの中でも咲き続けることができるようにビイトは動かす手を止めない。
「僕はこの世界が好きだから、ふたりがいるこの世界に僕の好きなものをもっと増やしたいんだ。今はまるで終わりみたいに見える世界でも花はまだ咲いているし、だから僕の描いた絵がちょっとでもこの世界のキレイをステキを増やすことができたらっておもう。それでいつかこの絵のように花でいっぱいになってそしたらまた青空もきっと戻ってきて」
「お花でいっぱいなのはビイトの頭の中なんだよなぁ、あの壁の向こうの惨状を見てよくそんな戯言飽きずに繰り返すことができるものだ。ま、無責任に世界を肯定するのいつものことか、変わらなくて安心した」
「那烙さんガールはホント口が悪いのですよぅ。それにびいとさまはそれだけ、じゃないですよね。この世界にステキなものを増やす、それだけじゃなくて」
「ここが博音の頭の中で、この殺伐とした世界を花で埋め尽くすことができたらそしたらひょっとしたら博音だって花がきれいだって、そう思える余裕が出てくるかもしれない。今はつらいとかきついとか苦しいとか、むかつくとかそういうものに囚われてそばにあるものなんて何にも見えてないと思うから。踏み出す足を止めたときに花に限らず多分いろんなものが足元にも周りにもあると思うし。そしてそんなときに病室の天世さんに花を、お見舞いに花を持っていけるような、そんな風になってもらえたらいいなって思う」
ビイトは新たなキャンバスを用意すると再び絵を描き続ける。
病室の開いた窓から差した風がカーテンを揺らす。差し込む日差し。そこには花瓶に添えられた名前もわからないような小さな白い花が咲いている。ベッドの中から身を起こした少女はそれに気づいて手のひらを伸ばす。
そんな光景を想像してみる。自分勝手で都合のよすぎる想像だけれどもそんなことがこの先、壁の向こうで起きたらいいなってずっと思っている。今から作り直すステキな世界が博音のちょっとした支えに、きっかけになればいいなって思っている。
終わりっ☆
最後駆け足でしたねぇ。。。ただやるぞー!!って思った部分はちゃんと書けたので満足しています。
クールガールズモノデッドをご覧の身内以外の皆様、もし完走されたとしたらこんなネットの海に転がる塵芥の一つが振り絞ったものを読んでいただき最大の感謝であります。
つたないとはいえあとがきでここはこうやったんやで!!こんなこと考えてたんだぞ!!っていうのは小説内で出しきれなかった自己弁護でみっともないし美徳に反するので元ネタを書いていくので興味が沸いたらネットで探してみてくださいね!
タイトルは NUMBERGIRL【バンド】のNEW GIRL(monodead)【曲名】からとってますけどこの曲スキーっていうよりもこのタイトルスゲーかっこいいー!!って感じで大して意味がないのでタイトルは変えるかもしれません。。。
お話描くぞーって思った最大の理由はゲームとか漫画のラスボスが幸せな夢の中で一生生きるがよい!!攻撃を出したときに主人公たちが人は現実の中でこそ本当に幸せになれるんだ!そんなまやかしからみんな目を覚ますんだ!! みたいなやり取り、だれもが見たことあると思うんですけど僕は劣等感の塊なのでそういうものを見るたびにイヤー僕だったらなんでも想像通り上手いこと行く夢の中で天寿全うしたいっすね…っていうのがありましてそういう気持ちを発揮するために書きました。これは僕の中で割と大きなテーマらしくってほぼ同じ設定で手を変え品を変え、これで6度目にして今までで一番納得いくお話になった気がした
。
お話の大元は僕が高校生であろう時に読んで衝撃を受けまくった(作中でも出てますが)村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」そして20過ぎてからなんだこれは!!ってなった舞城王太郎の「ドリルホールインマイブレイン」を下敷きにループっていいよねって作りました。
ドリルホールインマイブレインは頭の中と外の世界が入れ替わったり同一であるはずの僕と俺が別々存在したりと世界の終わりとハードボイルドワンダーランドをさらにカオスにしてて好きですねぇ…
後は単語をちょいちょい元ネタ書いていきます
イルフィンガー= もともとはDJ NAPEYって方の凄腕DJテクニックをほめてのイルフィンガーっていう意味でそして同DJの1stアルバムのタイトルも「ILL FINGER」単語がかっこよかったのでパクりました。
黒カラス=奇才の天才ラッパー志人の1stアルバム Heaven's恋文に所収された「私小説家と黒カラス」の曲名から 真っ赤な髪とかカラフルとかそういうのもここからパクッてます
影うつろいのユーレイ=タイトルもパクったNUMBERGIRLのメジャーセカンドアルバムSAPPUKEI所収の「U-Rei」から。放課後の情景描写とタイトルがユーレイと憂いのダブルミーニングに俺の文学的感性が叩きのめされた傑作曲です
斜塔、メギドドアー=メギドドアーは元ネタ無くてなんかかっこいいなって思って付けた単語ですが前述したドリルホールインマイブレインは作品内を象徴する建物として調布タワーが出てきます。それに影響受けてなんかかっこいい建物出すぞい!ってなったときに思い付いたのが斜塔でした。
このころは自分の住んでる世界とは全く違うアウトローでアングラな世界を描写したラップをするMSCというグループに傾倒しておりまして特に「宿の斜塔」という曲においては刑務所内でラップを録音するというスタイルに度肝を抜かれていたのもあって斜塔ってかっこいいよねっていうのが刻まれているんだなぁ
那烙の本棚=大体青空文庫で探せます
芥川龍之介の引用=僕は国語の教科書の副読本で芥川龍之介の侏儒の言葉内の「人生は地獄よりも地獄的である」というフレーズの紹介、それと厨二を患っていたので最後自殺してしまったという生涯、末期の精神薄弱など魅力的といってしまっては不謹慎ですがそういうのにひかれて一時期フォロワーとなっておりました。作中で引用したのは「侏儒の言葉(遺稿)」「西方の人」です。青空文庫にありまぁす!
イルフィンガーを見くびるな=作中で使われるこのセリフももちろんパクリで上述したDJのアルバムの中にこのフレーズはあります。元ネタはイルフィンガーを見くびんな
チキンがイキるんじゃない=パクリです。。。韻踏合組合の「揃い踏み」って曲内のパンチライン、「チキンがイキんじゃない」
尊敬できる自殺志願者に合えば~=Seedaさんの傑作アルバム「花と雨」内の「TOKYO」という曲内に「尊敬できるやくざにあえば本物と堅気の違いわかるはずだ。尊敬できるラッパーにあえばおのずとヒップホップがわかるはずだ」っていうのがあります。優れたパンチラインは汎用性に優れている…
僕の名前は四ツ石博音なんかじゃない~=銀杏BOYZの「人間」という曲に「そう僕は天使なんかじゃない、君の名前は神様なんかじゃない」っていう名フレーズがあるんですよ…
次は登場人物の名前の由来ですねぇ
四ツ琵師彌異徒=ブギーポップの外伝に「ビートのディシプリン」ってお話があるんですがこのタイトルに天才的なごろの良さを感じたので主人公の名前はビイトにするぞ!ビイトって音楽っぽいよね!でもエイトビートだとロックだし、ロックはそんなに詳しくないからなぁ。。。当時ジャズに傾倒してたしジャズのリズムはフォービートだからこれをもじって名字にしよう!四つ打ち→よつびし あとは変換で難しい漢字を当てて行ったので漢字に意味はそんなにないです
雛奇施那烙=那烙さんはあんまり元ネタらしいものないんですが那烙さんは死にたがる、自殺なんて地獄に落ちる行いなんだよなぁっていうのはお話の落ちを決める前から決まっていて地獄→奈落→那烙(かっこいい誤変換にするぞ!)ってことでこうなりました。雛奇施はよくわからない…
玉串三珠=那烙さんの当て馬として考えたんですけど描いた当初全然かわいくないなってなっていつもやる気をなくして書き直しをさせられたのが記憶に残る。。。桃井はるこ嬢の曲「がんばれたまちゃん」から名前を取って 玉串 とか 御霊 ってワードを使うと巫女サンっぽくて正しい道に導くぞって感じが出るなぁ、でも御霊って恐れ多いから違う漢字を当てよう、でこの名前になりました。
あとがきまで読んだ奇特な方、おられましたら本当にありがとうございます 次回作まではこのなろうという遊び場、頑張ろうと思いますのでその際もお付き合いしていただければ幸いです。
気が向いたときに通しで読んで改稿をするかもしれません