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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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080 交友


「いやぁ。すいませんね。リョウカさん」


「かまんちや。アンフェルさんは足が悪いがやき、気にしなや」


 女性がうらやむような金髪を肩口で切りそろえ、顔の右ほほ以外の部分を白い仮面で覆った細身の男性に、赤い鎧の上から背負子にその男性を背負ったリョウカが事も無げに答える。


 一人より二人の方が心強く、また、追撃者の目を誤魔化す意味でも同行者がいた方がいいはず。


 と、考えていたサナーレだったが、道を引き返し、男性を背負子に背負って帰って来たリョウカに驚くしかなかった。


 一対多数と言う不利な戦闘を見かけたため、木の影に男性を置き去りにして戦闘に参加してきたらしい。


 話を聞いてみると、アンフェルはひどい火傷で顔や半身を焼き、足が不自由らしい。


 二人は特に知り合いと言うわけではなく、足を引きずるように歩いていたアンフェルを見かけたリョウカが声をかけ、目的地がタートルと同じ事から、背負って運ぶ事を提案したそうだ。


 リョウカの義侠心には感心するばかりだが、サナーレとしては好感が持てる。


 ただ、サナーレは襲撃者に追われている身である。


 アンフェルが襲撃者ではないにしろ、姿を偽って、近づいて来ている可能性がある。


 自分が追われている立場である事を包み隠さず話し、アンフェルに了承を得て、仮面をはずして見せてもらう。


 仮面を外してもらった後、サナーレはその下の姿を見て思わず息を呑む。


 陶磁のように滑らかで白い右ほほに比べれば、残された四分の三の部分は、煤を塗りつけたように黒く、肌は引き付けを起こしながら焼き焦げている。


 青い瞳を覆うはずのまぶたは焼けてむき出しになり、鼻の高さも無くなり、唇も失われ、白い歯も所々隠されていない。


 覚悟の無い者が見れば、驚きのあまり腰を抜かしてしまいそうな容姿になっているアンフェルに非礼を詫びたサナーレは、共にタートルの町を目指している。


 襲撃者に襲われている手前、自分がセラム王国の王家の末席にあり、敵対する叔父の軍に狙われている事を素直に告げたサナーレだったが、二人は特に気にした様子も無かった。


 リョウカは敵が多ければ腕が鳴ると無邪気に笑い、アンフェルには逆に真面目なのはいい事だが、正直に話しすぎるのではないかと注意される始末だった。


 武勇に自信を持っていたとしても、まだ十代で経験が少なく、神殿の中にこもりっきりだったサナーレは、自分の判断に迷う事もある。


 これからは多くの決断をしなければならない事を考えれば、他人との会話から学んでいく事は多い。


 そう言う意味では、年長であるアンフェルの忠告はサナーレにとってもありがたい。


 タートルの道すがら、サナーレが先頭に立ち、その後にアンフェルを背負ったリョウカが続く。


 その間に立っているリョウカが会話をリードし、サナーレとアンフェルがそれに答えたり、質問したりする。


 一人で黙々とこれからの事を考えながら、叔父であるモンスールをいかにして倒すかと言う暗い感情にとらわれていたサナーレからすると、底抜けに明るいリョウカの声と態度は心がほぐされるような気がする。


 ただ、ジーデビー諸島の訛りはサナーレには聞きなれない言葉で、時々意味がわからない事があるが、そこはアンフェルが通訳してくれる。


 軍学者であるアンフェルは、各地の戦史を研究し、それを編纂する事を仕事としており、セラム王国にもその研究のために来ている。


 ただ、来て早々にセラム王国の内戦に巻き込まれ、グラゾフ経由で母国に戻る途中だったらしい。


 内戦に巻き込まれた際に馬を失い、苦労しながら旅をしている最中にリョウカと出会い、担いで運んでもらう事になったそうだ。


 軍関係が専門とは言え、学者と名乗るだけあってアンフェルの知識は豊富であり、言葉の端々からその見識がうかがえる。


 その知識は、神殿でセラムの歴史をまとめようとしていたサナーレにとっても有用な話が多く、思わず聞き入ってしまう。


 セラムの騒乱にけりをつけられれば、しばらくアンフェルの元で知識を深めるのもありかもしれないと、サナーレは未来に向って意欲を高める。


 そのアンフェルを担いでいるリョウカは、ジーデビーの小さな島の出身で、師匠も含めて道場では相手になる者がいなくなったので、強い相手を求めて大陸めぐりの旅に出たのだそうだ。


 円月刀を片手に、細いとは言え、アンフェルを背中に担いだまま歩き続け、疲れた顔も見せずに、けろっとした表情のまま楽しげに会話をしている姿を見れば、リョウカが並みの相手でない事はわかる。


 サナーレも本気で戦えば、かなり厳しい相手だ。


 リョウカの今の目標は、大陸最強と名高いバエン王国の第四王女アリスと戦ってみる事で、その目標のために、わざわざジーデビーから海を渡り、セラムに来たらしい。


 そのまま北上しようとしたところで、メラーノ王国とセラム王国との戦争に巻き込まれ国境を封鎖されてしまい、西回りのグラゾフ王国ルートに変更を余儀なくされたそうだ。


 返す返すも身内の不始末から多くの人々に迷惑をかけている事を知ってサナーレは、身内に怒りを感じると同時に、二人を含め、自分のために犠牲になった者達に申し訳ない気持ちになる。


 必ず、叔父を討ち果たして、犠牲になった者達の無念を晴らし、犠牲者達の魂を慰める。


 そのためには、まず、助力を得なければならない。


 リョウカが捕まえてくれた襲撃者からは結局情報を得る事はできず、そのまま首をはね、アンフェルの魔法により地面を掘り、最初に倒した者達と一緒に埋め、女神ルシアに冥福を祈っておいた。


 自分に襲い掛かってきたとは言え、命令に従っただけの相手だ。


 わざわざ、その屍を穢す必要も無い。


 このまま行けば、犠牲者も増えるだろうが、自分も殺されるわけには行かないので、早めに助力を得て、叔父を倒す算段をつけなければならない。


 叔父が自分を危険視しているうちは、この地獄の追いかけっこは終わらないのだ。


 素直に助力を得られればいいが。


 これから会う先輩達の顔を思い浮かべながら、サナーレは一癖も二癖もあるクスハの姿を思い浮かべ、気を引き締めなおした。


 

 

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