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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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079 出会い


 襲撃者達の炎で焼かれた町ルーテンからタートルの町へ向う街道を、サナーレは一人進む。


 セラム王国の王都から北西に位置していたルーテンは、人口五百人ほどの小さな町だった。


 サナーレの怒りの猛攻を受けた襲撃者達は統率者を失って部隊も半壊し、撤退に追い込む事はできたが町の被害は大きく、被害者も多かった。


 サナーレも残った神官達と共に懸命な治療にあたり、多くの者を助ける事ができたが、この襲撃が自分のために引き起こされたものだと知っているサナーレからすれば、その心は晴れなかった。


 焼け出されたままでは、生活ができない。


 そのため、サナーレ達は生き残った人々を支援するために神殿の蔵を開き、惜しみない援助を与え、共に町の再建に尽力した。


 そして、ある程度再建に目処が立ったところで、サナーレは後の事をクラレ達に任せ、逃走の旅に出た。


 襲撃の原因である自分がいれば、再び襲われる事になりかねない。


 そう考えたサナーレは、有事の際には他の神殿を頼れるように手配した後、住み慣れた神殿を後にした。


 このままセラムにいたのでは、いつかは自分がモンスールに押し負ける。


 犠牲になった人々のために祈りを捧げ、力を貸し、治療に勤めている間は、セラムの王都に乗り込み、叔父であるモンスールの首を討ち取ろうと考えていた。


 しかし、クラレや町の住人達に止められたサナーレは、考えを改め、国境を越えて助力を求める事にした。


 サナーレにとって協力を得られそうな相手と言えば、何と言っても留学時代にお世話になったクスハとシルヴィアの二人になる。


 二人に助力が得られるかどうかは分からないが、頼れる相手が国内にいない以上、国外に助力を求めるしかない。


 シルヴィアなら情に訴えかければ力を貸してくれるだろうが、クスハの方はある程度、彼女が納得する利益を持ち掛けなければ動かせないだろう。


 しかし、ある程度の兵力の救与を得られれば、モンスールとも戦える。


 そう考えたサナーレは、グラゾフへ向う船があるサゴンの港町に向って足を向けたのだ。


 タートルを越えた先にあるサゴンは、グラゾフと船で繋がっており、そこから西の海岸沿いを船で移動するか、海岸沿いに歩いて移動する方法が取れる。


 道順としては、そのまま北に向ってグラゾフ・バエン連合軍の国境に近づいてもいいのだが、セラムとグラゾフの間には、大きな川であるティアン川が横たわっている。


 魔物や魔獣が多いティアン川は、魔よけが無ければ船で渡ることが出来ない。


 国境沿いの領主に助力を得られれば渡る事も可能だろうが、自分に力を貸してくれるかわからない。


 まして、モンスールに与されているのなら、領主のいる町に近づけば捕らえられるかもしれない。

 

 それなら、商人達の町であるサゴンに行き、海岸沿いを移動した方が問題が少ない。


 そのため、サナーレは一人でタートル経由でサゴンを目指しているのだ。


 いつもの青いローブでなく、革鎧を着た流れ者の傭兵の格好をし、普段は下ろしている髪を動きやすいように結い上げ、普段の装いとは大きく変えている。


 そのおかげか、ここまで襲撃を受ける事は無かった。


「うっ!?」


 しかし、もう少しでタートルの町が見えると言うところで、サナーレは襲撃を受けた。


 突如として飛んで来た短剣を、持っていたハルバードで叩き落したサナーレは、注意深く辺りを見回す。


 まばらに木々があるだけで、それほど視界をさえぎるものは無い。


 平坦にならされた街道は馬車がすれ違えるぐらいには広さがあり、視界は通る。


 こんな視界が通る場所で襲われるとは、まったく考えていなかった。


 兵は詭道なり。は先輩であったクスハの常道なセリフだったが、なるほど。敵の意表をつくのは大事なのだとサナーレは改めて理解する。


「フッ!!」


 しかし、いきなり地面の中から現れた相手であっても、ハルバードが届くところに来れば、サナーレは怯まない。


 あらかじめ地面を掘っていたのか、地面の中から飛び出して来た薄い革鎧を着た男の体をハルバードの一閃で両断する。


「間合いに入っても油断しない事ね」


 両手持ちの長い武器は相手に距離をつめられると振り回せなくなり、相手に隙を見せることになる。


 だが、その長い武器の特性を理解しているサナーレは、持つ場所を変え、斧の部分をメインに切り替え、剣を突き入れてこようとした相手の手を払い、後ろから向って来た相手の腹を今まで持ち手であった部分で叩く。


「ハッ!!」


 自分の腰を支点に、自分の背丈より長い武器であるハルバードを横に振り回して、自らもその場で一回転すると、距離をつめようとした相手を一気に振り払う。


「何、ほたえゆぅがな。天下の街道で騒ぎなや」


 一気にしとめるつもりだったのか。


 一気呵成の不意打ちをサナーレにかわされたせいで、間合いを取る事に切り替えた襲撃者達は、作戦を変え、幾重の囲みを作り上げようとする。


 しかし、囲みを作ろうとした襲撃者達の外側から、若い女の大声が響く。


「一人に大勢がかかるち、汚いちや。このウチ、リョウカさんが手を貸しちゃるき、安心しぃや」


 振り返ったサナーレが見ると、どうやら円月刀を担いだ龍人の少女が叫んでいるらしい。


 龍の血を引くという龍人らしく額に二本の角を持ち、金の髪に金の瞳を持つ少女、リョウカは少女らしい可愛らしい大きな目をぐりぐり動かしながら、円月刀を風車のように振り回す。


「あ、おい。逃げるがかや。ウチに斬られん内に幕退きしなやッ!!」


 同時に相手するのは無理だと判断したのか、リョウカが振り回す円月刀が自分達に向けられる前に、襲撃者達は脱兎のごとく四方に散らばって逃げ出す。


 しかし、鱗のような赤い鎧を身に着けた少女は、逃げ出そうとした男の一人に苦もなく追いすがると、円月刀を振り下ろし、男の行動を奪う。


「姐さん。どうゆう流れかわからんき、とりあえず捕まえてみたけんど、どうしたらええろ?」


「あ、ああ。御助力、感謝する」


「ええちやええちや。感謝はかまんき。ウチが好きでやった事やき」


 大陸の南にあるジーデビー諸島のなまりがある少女の勢いに押され、さすがのサナーレもあっけに取られる。


 天真爛漫と言うか、明るく陽気な性格と言うのが体の奥底から始まって全身から周囲に放たれているような雰囲気を持つ相手にサナーレは会った事が無く、そのテンションの高さに圧倒されてしまうのだ。


「それより、姐さん。何か困った事があるがやったら、ウチが手貸しちゃってもかまんで?」


 サナーレに倒された男達が回りに散らばっているのを見ながら、リョウカは何か面倒事があると思ったのかそう申し出てくる。


「・・・そうね。貸して貰えるならありがたいわ」


 興味深そうに大きな瞳をぐりぐり動かしてくるリョウカとしばらく見詰め合っていたサナーレだが、相手に他意がなさそうだと気付くと、おもむろに頷く。


 普段なら他人と壁を作り、相手と距離を取るサナーレからすれば、リョウカの言葉に素直に頷くと言う事はあまり考えられない事だ。


 襲撃された事で心が弱っていたのか、それとも、こちらを安心させる何かがあるのか、リョウカの言葉や態度にはサナーレを安心させる何かがあるのは間違いない。


 納得してもらったのが嬉しかったのか、うんうんと頷くとリョウカは、サナーレに手を差し出してくる。


 友好を求めるかのようなその手を握り返すと、サナーレはその力強い手に、不思議な安堵を覚える。 


 この出会いがサナーレにとっては大きく、後に幾多の戦いを共にする盟友リョウカとの初めての回合となったのである。


  

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