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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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061 状況


「・・・これは、やはり狙われているのかな?」


「そうよ。人気者はつらいわね」


「いや、人気者って言うか」


 バエン軍の制服に身を包んだ男、レヴェルの言葉に側に立つティアは楽しそうに笑う。


 アリスが軍団編成を許されるようになった事で、正式に軍政府が開けるようになった。


 軍政府とは、アリスの名前の下に兵士の確保や軍費の徴集、人員の新規確保、軍紀を定め施行するなどが出来る軍事に特化した行政府である。


 バエン国内に限らず、支配地域のすべてから人員を徴集したり、金銭を回収できる権限を与えられる。


 最終的にはバエンの王であるサラディーナの裁可が必要になって来るが、おおむね軍団長の意志が優先される。


 アリスが望む戦力を整え、望む戦闘が行えるように支援するのがアリス率いる軍団の軍政府である。


 今はアリスが部隊を率いてアニアトに駐留中のため、バエンの王都の南端に新たに建てられた三階建ての行政館にはレヴェル一人が留守番している状態である。


 赤いレンガ造りの建物の中は、一度も使用される事が無くアリス達が出撃していったため閑散としている。


 その廊下を、執務室に向って歩きながらレヴェルは、ティアの笑みに苦笑いを浮かべて返す。


 狙われていると言うのは、寝泊りしているアリスの館からこの行政館までの間、誰かに見張られていると言うものだ。


 相手は誰かはわかっている。


 狙って来ている相手は、メラーノ王国の情報部隊だ。


 風の精霊達の総まとめであるシルフィールの情報によれば、情報が筒抜けになるのを嫌った相手が、風の精霊達から情報を集めるレヴェルを亡き者にしようとしている。と言うのがその理由らしい。


 情報を集める上で精霊達を使うのは便利である反面、低級な精霊達は人の感情の機微にうといため、精査が必要になって来る。


 それでもより多くの情報を遠方からでも大量に集められるため、同じく情報を集める部署からすれば厄介な相手と見られているのだろう。


「大丈夫よ。マスターはしっかり護るから」


「ああ。その点はまったく心配してないよ。ティアを信頼しているからね」


 自分達以外に誰も存在していないため、ふよふよと隣を霞のように漂うティアに、レヴェルは笑って答える。


「しかし、俺が命を狙われるようになるとはね」


「何言ってるの。何回も死にそうになってるじゃない」


「自分から死地に踏み込むのと、自分の意志が介在しない状況なのとは違うものだよ。まったくね」


 相手の気配は、複数人あり、かなり警戒されているのが分かる。


 どこで襲われてもいいようにティアは姿を隠して付き添い、レヴェルはあえて隙があるように見せているが、相手は慎重なのか、動きを見せない。


 レヴェルとしてはさっさと片付けて、業務に集中したいところだが、何を狙っているのか、相手は動かない。


「アニアトの方は、どうなってるの?」


「そっちも動きはないね。こっちと一緒だ」


 バエン軍はアニアト王家を降伏させて手中に収めたが、コストア軍は手隙の領を支配化に置きながら、王都の内紛を支援しながら油を注ぎ込み続け、争いを炎上させ続けている。

   

 アリス達もアニアトの南側でコストア軍の傘下に入った貴族達と睨み合い、いまだにサラス達本体と合流できていない。


 このまま膠着状態が続くのも問題があるので、手を打つように努めているが、うまくいっていない。


 あまり時間がかかりすぎると補給が大変になるので、レヴェルとしても攻略できないなら、一時的に退く事も進言しなければならない。と考えている。


 バエン軍は部隊を展開させて進軍しているが、コストア軍は部隊の数は少なく、自軍の武官を支配化に置いた貴族達の元に派遣し、尻を叩いて戦わせている。


 自国や周囲の領地から補給物資を集めて進軍するバエン軍と、逆らった領地からは物資を根こそぎ奪い、従う事を選んだ領主達には戦費を自分で賄わせているコストア軍とでは、戦闘の継続能力に差が出来てくる。


 レヴェルが王都で一人留守番しているのも、アリスに送る補給物資をやりくりしているためだ。


 タナケダの経験を生かし、自分でも給料のほとんどをつぎ込み建てた商家を中心に、広く浅く商家から余った物資を調達したり、スポンサーとなって戦費を徴収したりと駆けずり回っている。


 今のところはバエン王国の次女クスハが起こしたグラゾフ=バエンルートの新規の経済圏が活発なため賄えているが、あまり長くなると調達するのも厳しくなってくる。


 レヴェルがサラスの幕僚の一人なら、アニアトの完全支配にこだわらず、コストアとアニアトを西と東で分け合って後日、陣容を改め勝負を決すると進言するが、伝え聞く話では参謀部は何とか王都まではと考えているようだ。


 南に展開するアリス達も、ヘンドリクス子爵領を傘下に治めてからはコストア軍に足止めされ、動きが停滞している。


 レヴェルとしてはこれ以上得る物がないので撤退してもらいたいが、サラスとの連携を考えれば勝手に引き上げるわけには行かない。


 それに今アリスの部隊が撤退すれば、バエン軍に降伏した領主達が、ドミノ倒しのように一気にコストア軍にその旗印を変えてしまうかもしれない。


 それを避けるためには、やはり調停が結ばれるまで踏ん張ってもらうしかない。


 重傷を負ったサウスマギアは、療養のために一足先に王都に帰って来るが、アリス達はまだまだストレスが続く事になるだろう。


 粘り強さに定評があると伝え聞いていたコストアの将軍アイネの力は評判どおりだったと言う事になる。

  

「何とかしてもらいたいね。ほんとに」


「人一人の力じゃ、何にもできないわよ」


「まったくだね。自分の無力さに涙が出るよ」


 戦闘以外に興味が無いアリスはともかく、途切れる事無く補給が行われるレヴェルの手腕は、リーヴェ達からは感謝されている。


「とりあえず、俺以外にも人員を増やさないと」


「そうね。さすがに経理業務しながら、情報収集するのは無理があるわね」


 部隊運営ぐらいの規模なら一人でも何とか回るが、軍団規模となると一人では難しい。


 情報収集はともかく、経理など事務作業は他の者にも任せられる。


 本当なら資料作業、作成などは一人でやりたいレヴェルだが、さすがに一人でこなせる量には限界がある。


「まぁ、人を雇うにしろ、メラーノの刺客をどうにかしないとな」


 雇ったはいいが、巻き込まれて事務員などが殺されたらたまらない。


 とりあえず、目の前の問題を解決する必要があると考えたレヴェルは、執務室の中に入りながら、ティアと相談する事にした。  


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