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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
55/102

054 読み


「聞いていた通り、なかなか面白いわね」


 カタリナ領主と面談の後、逃げたヘンドリクス領兵を追いかけて来たサウスマギアは、思わずそう洩らす。


 城壁が焼けただけの城には用はない。


 後詰として追いかけて来たホルストに後の事を任せてサウスマギアは、そのまま五千騎の騎馬兵だけを率いて大盾を担いで逃げた領兵を追いかけた。


 かなり大きい重い盾を背負った部隊ゆえにすぐ追いつくかと思ったが、追いついてみれば、街道を塞ぐように大盾が埋め込んでいる。


「あれを掘り起こすとなると、大変ですね」


「そうね。がっちり埋め込まれてる。準備万端だったのね」


 グラゾフ出撃から引き続き、副官を務めてくれる事になったナイジェルの言葉に頷きながら、サウスマギアは苦笑いを浮かべる。


 アニアトの王都に続く大きな街道の道筋は、すべて大盾が幾重にも埋め込まれ、掘り起こすとなると一筋縄では行きそうにない。


 前もって聞いていた通り、あらかじめ盾を埋める準備をして用意していたらしい。


「聞いていた通りだとすると、これ以上近づくのは危険ね」


 街道を埋め尽くしている大盾から、かなりの距離を開けて様子を見ていたサウスマギアの言葉に、副官のナイジェルが無言で頷き、片手を上げて部下達に指示を出す。


 それだけの動きで、厳しい訓練に従事して来た騎馬兵達は馬首を返し、整然とカタリナ領都へ向って引き上げ始める。


 前もってサウスマギアは、レヴェルから手紙を受け取っていた。 


 その手紙は、リーヴェ宛に出された中に付属して入っており、リーヴェからほかの者の目に触れないように極秘に渡された。


 個人宛の手紙に首をかしげたサウスマギアは、自分の天幕に帰って開けて見て、その意味を知る。


 手紙の中にあったのは、手に平大の大きさのプレタダの旗を模した物とバエンの旗を模した物が二枚入っていた。


 それはつまり、サウスマギアにプレタダとバエンのどちらかを選べと言う事なのだろうと理解できる。


 そう思えたのは、サウスマギアが実際に悩んでいたからに他ならない。


 プレタダの王になりたいという考えが、まだ残っているわけではない。


 アリスに忠誠を心から誓っているのは本当の事だし、そこに迷いはまったくない。


 しかし、王家に所属していたと言うプライドのようなものがいまだ心の中に燻り、いまひとつアリスの配下の中でなじめていなかった。


 同じ王家出身と言っても、ホルストは実質的に王位継承権はかなり低く、それを意識するような立場になかった。


 サウスマギアの場合は、ホルスト違い、今でも望めばプレタダの王になれる立場であるし、望郷の念がないわけでもない。


 帰属意識のないレヴェルやホルストのように故国がどうなってもいいというわけでもないし、今でも夢にプレタダの生活が出て来る事もある。


 エマやカロッサと話している時には、つい昔話のような愚痴の言葉も出てしまう。


 バエンの軍を任されているのにもかかわらず、どこかその立場に違和感を感じている自分もいる。


 頭では割り切ろうと考えているのだが、心の片隅ではどこか納得しきれない自分がある。


 その事を誰にも告げずに振舞ってきていたつもりだったサウスマギアだが、見る人にはそれがわかるものだったらしい。


 レヴェルの選択は、そのサウスマギアの自分でも理解しづらい持て余した感情を的確についてくるものだった。


 このまま東に向ってバエンが軍を進めれば、いつかはプレタダで戦う事になる。


 そうなる前に決断を求めて来たのは、レヴェルの優しさなのか、それとも厳しさなのか。


 自分の愚かな父親に殺されそうになっていたレヴェルを助命したのは、サウスマギアにとってはもはや遠い昔のように感じるが、相手はそれを義理堅く覚えてくれているらしい。


 そうでなければ、迷っている自分に対してこんな選択肢を迫ってこないだろう。


 迷いの果てに自分が打ち果てたとしても、レヴェルには関係のない話だ。


 同じアリスの配下である気遣いかもしれないが、それだけではないとサウスマギアは感じている。


 やはり、義理堅いレヴェルだからこその気遣いなのだろう。


 その気持ちに答え、迷う事無くバエンの旗を選んだサウスマギアは、目に見える形でバエンを選んだ事で心のわだかまりが解けたような気がする。


 自分では覚悟を決めていたつもりでいたが、やはり目に見えないものより、目に見えて選んだと言う決断は、心のあり方に変化をもたらせてくれたように感じる。


 色々と気を使ってくれるレヴェルには、感謝しかない。


 覚悟を決められたおかげでアリスから先鋒を承り、敵将を討ち取る活躍ができた。

 

 このままアリスの、ひいてはバエンの一将として活躍してバエンを統一国家にする。


 かつての皇国以来の大陸統一を果たし、バエンを活躍させれれば、おのずとサウスマギアの名を小さいながらも歴史書に記せるだろう。


 そうしてバエンの一将として働ければ、レヴェルの義理堅さに答える事も出来る事になる。


「将軍」


「ええ。分かっているわ」


 兵を引き上げさせながら、殿を務めるようにアニアト軍を緊張した面持ちで監視していたサウスマギアは、ナイジェルの言葉に馬首を返す。


 相手の備えがなければ攻め、相手が備えていればいったん兵を引き、相手の行動を見る。


 それがレヴェルの情報から行動を決めたリーヴェの指示だったので、サウスマギアは無駄な動きをせずに兵をカタリナ領都へ戻すようにする。


 リーヴェの読みどおりなら、アニアト側はこちらが何をしなければ攻撃してこない。


 レヴェルからの情報を元にすれば、こちらをけん制するのが相手側の目的であると思われるので、下手にこちらからつつかなければ無理な戦いにならない。


 その読みだった。


 しかし、サウスマギアが馬首を返し、相手に背中を向けた瞬間、大盾の向こうから轟音が鳴り響く。


 その轟音を聞いたサウスマギアはとっさに風の精霊に指示を出し、兵を護るように風の護りを展開したが、爆風に吹き飛ばされ、意識を失った。

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