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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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053 遅滞作戦


「え。もうぅ!?」


 領都の前から撤退後、サニトナとの打ち合わせ通り、兵士を弓から護るように特注した大盾を再利用していたジニは、斥候からの報告に驚きの声を上げる。


「は、はい。物陰から討って出たアローシャ様は、サウスマギア様の一撃を受けて即死。

 率いられていた兵は、蹴散らされ、八方に逃げ散っています」


 火をかけられた領都に向って急いでいるバエン軍に、伏せていた街道の脇から奇襲をかける。


 それはサニトアの計略に従ったものであり、本来は一当たりして下がる。


 その予定だったのだが、一当たりして逃げる間もなくホーバンク家が蹴散らされてしまった。


 ホーバンク家は曲がりなりにも武家の家柄で、武闘派で鳴らしてるゴッフルフ侯爵の派閥の中でも抜きん出た力を持っている。


 ジニと同じ年のアローシャは、そんなホーバンク家の家柄を体現したような体躯が良く、筋骨隆々の大男だ。


 暑苦しい性格で常に武芸の修練に余念がなく、アニアト王家の中で行われる武術大会でも若いながら常に上位に入る実力者でもある。


 そんなアローシャが一撃の下にやられてしまうとは、ジニにとっては予想外の出来事だった。


「お嬢、いえ、代行様。急ぎませんと」


「そ、そうね」


 相手の不意を突いての攻撃だったのにもかかわず、一撃の元に壊滅させられたホーバンク家と、バエン軍の実力の差に驚愕して動きを止めたジニに、ジュライドが声をかけてくる。


 年の功なのか、比較的冷静なジュライドの言葉に我を取り戻したジニは、作業を急がせるように指示を出す。


「あいつ等は馬鹿だな。だが、助かる。って奴だよ」


 自分の心に焦るな、焦るなと声をかけながらジニは、サニトナの言葉を思い出す。


 ホーバンク家が先陣に加わると言う話を聞いた時に、サニトナがジニに言った言葉がそれだった。


 どういう意味かと聞いたジニに、サニトナはすぐ分かると答えたが、それはこのホーバンク家の壊滅の事を指していたのだろう。


 まだ接敵前で、噂話程度にしかバエン軍の実力を知らなかったジニ達とは違い、サニトナは出発前のあの地点でバエン軍の実力を正しく認識していた事になる。


 ジニは、もしかしたらアローシャなら少しはバエン軍に食い下がれるのではないかと考えていた。


 率いているアリスはともかく、率いられているバエン軍は同じ人である。


 いくら実戦経験があり、鍛えられているとは言え、同じ人と人の戦いにそこまでの差ができるとは思わなかったのだ。


 自分の認識が甘かった事を、ジニは自覚させられた。


 それと同時に、本来ならこれを自分の領内の兵士達だけでやらなければならなかった事を思い出して、背筋に冷たいものを感じる。


 兵を分ける算段をしている時、相手にぶつかる事を引き受けたのはアローシャ達だった。


 自分の武力に自信があったのだろう、アローシャ率いるホーバンク家の面々は、城壁にわらを並べて火をつける地味な仕事より、バエン軍に当たる方を選んだのだ。


 それだけ武力には自信があったのだろう。


 ジニ達ヘンドリクス領と同じぐらいの経済力にもかかわらず、それより多い五百人もの兵を率いて来た事からもそれはわかる。


 しかし、その慢心が支払った代償は、ホーバンク家にとって相当なものになるだろう。


 その上、跡継ぎであるアローシャを失ったのである。


 一応、弟達もいるが、一太刀も相手に浴びせる事もなく斬り捨てられた話が広まれば、武家の家柄などと言う矜持は吹き飛ぶ。


 たとえアニアト王国が残ったとしても、もはや、ホーバンク家の評価は地に落ちる事になる。


 元々、この作戦は、ヘンドリクス領の兵達だけで行う予定だった。


 おとりの兵を百、火をつける兵を百、穴を掘る兵を百。


 その時には、サニトナがおとりの兵を引き受ける役目を負うはずだった。


 だから、サニトナとしては、助かると言う発言になり、バエン軍の恐ろしさを理解せずに自信を持っていたアローシャの姿を見て馬鹿呼ばわりしたのだろう。


 サニトナならどんな行動をしたのか、ジニとしては気になるところだが、今はそばにいないので聞くわけにはいかない。


 そばにいないサニトナは、現在アニアト王都で裏工作をしている。


 詩や音楽に通じているサニトナは、貴族のお抱え楽士達と仲が良く、楽曲を提供したり、一緒に演奏会を開くなど多芸多才である。


 そのサニトナは、なじみの楽士達を通じて、降伏派の貴族達を動かし、アニアト王家そのものを降伏させる工作している。


 前皇国時代にはその首都があり、古い文化や歴史を重んじる傾向にあり、ほとんどの貴族が文化人を抱え、音楽家や芸術家を保護している。


 そのため、お気に入りの文化人の発言は重要視される傾向があり、そちら側からサニトナは貴族達に働きかけているのだ。


 サニトナの最初の計画では、ヘンドリクス領兵でバエン兵達を足止めし、動きを制限しながら時間を稼ぎ、サラス率いるバエン軍本体が王都に達するまで逃げ回る算段をつけていた。


 そのため、ジニ達は動きを制限する金属鎧は着ずに、動きやすい革鎧だけで行動している。


 元々、正面から戦わずに逃げ回るだけのつもりだったジニ達は、そのために重い装備や必要以外の荷物を持たずに来ているのだ。


 逃げ回っているうちに、サラスがアニアト王国に達すればジニ達は降伏すればいい。


 逃げ回っていたにせよ、足止め程度に戦っていれば、アニアト王国に忠誠を尽くした事になるし、アリス率いる部隊を足止めしたという実績は、降伏した後でもヘンドリクス領に一目置かれる事になる。


 それで面倒事を背負い込む事になるかもしれないが、迷っている内に後ろから味方に攻められたり、他人の領内で戦う事で自分の領内を犠牲にせずにすむ。


 カタルナ領の領主には悪いが、自分の領内を護るためにはそんな事は言ってられない。


 戦後賠償を求められるかもしれないが、その時はサニトナが手を考えていると言っていたので、それを信じるしかない。


 どこまで先を見通して物事を考えているのか、幼馴染で一時期は許婚でもあったサニトナだが、その思考はジニにはまったくわからない。


 優秀であるにもかかわらず、自堕落な性格を気取って仕事をせず、参謀部を首になり、家を追い出される。


 その上、家が他の貴族の策謀によって潰された時にも、特に気にした様子もなく、わざわざ王宮で得意のヴァイオリンを弾いて葬送曲を披露する始末だ。


 侯爵家を追い出され、本人から許婚を解消された話を聞いた時などは、思わず、サニトナの顔面に拳を繰り出してしまったジニではあるが、長い付き合いながらいまだにサニトナの奇想天外な思考は読めない。


 しかし、それでもジニが困っている時には、必ず力になってくれ、頼りになるので、いまだに付き合いは続いている。


「いまは目の前の事を片付けるしかないか」


 サニトナの事を考えていると、胸の内が苦しくなるが、今は会う事はできない。


 とりえず、ジニにできる事は、サニトナの策を信じてその通りに行動することだけだ。


 そう自分の心に言い聞かせ、ジニはサニトナに言われたとおりに、街道を掘り、ただでさえ大きい大盾をさらに大きくした特注の大盾を埋め込む作業を再開した。  


サイコロストーリーは、その名の通り、サイコロを振ってストーリー、登場人物を決めています。

そのため、作戦が成功するもしないもすべてサイコロという名の運命によります。

ですので、筆者にも展開がどうなるかわかりません。

なにしろ、すべてはサイコロ次第ですので。

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