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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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049 忍び寄る者


「・・・ん?」


 不意に感じた気配に、アリスを目を覚ます。


 そして、自分の感じた感覚のまま立てかけていた鉄棒を手に取り、部屋を出る。


 背の低いアリスとほぼ同じ長さで同じ重さの鉄の棒は、良く使い込まれており、手に良くなじんでいる。


 元々、住んでいる官舎を改築する際に出た廃材だったのだが、ちょうどいい大きいだったこの鉄棒をアリスが気に入り、屋内用の武器として手元に置いてある。


 屋敷の中に限らず、屋内の戦闘では剣や槍などの刃物のついた武器は振り回せない。


 振り回してもいいが、壁や天井、家具などに引っかかって、逆に自分の身を危険にさらす可能性が高くなる。


 しかし、逆に刃先のない棍棒などの武器なら引っかかる事もなく、たとえ邪魔な物があったとしても粉砕しながら相手を攻撃する事ができる。


 最も、大陸随一の怪力を誇るアリスが振るえば、たとえ剣や槍であったとしても、そのまま天井や壁を破壊しながら振るえるだろうが、それではせっかくのお気に入り館も破壊しかねない。


 そのためアリスは、屋内では好んでこの鉄の棒を使っている。


「アリス様」


「キエナ」


 白いワンピースという寝巻き姿で部屋を出てきたアリスの耳に、誰かが小声で声をかけてくる。


 振り返る事無く、気配だけで相手が誰か察したアリスは、背後から近寄って来るキエナを待つ。


「アルの、部屋?」


「はい。やはり、精霊王を従える者を狙って来ました」


「そう。読み、どおりね」


 ダークエルフ族出身のため黒い服に身を固めると、本当に闇の中に溶け込んだように見えるキエナの言葉に、アリスは母親であるサラディーナの言葉を思い出す。


 グラゾフ南部からバエンの王都リオンに帰って来たアリスは、その日の晩に久しぶりの親子水入らずの食事を取った。


 その際に、サラディーナから忠告を受けた。


 南のメラーノから刺客が放たれているかもしれない。


 その刺客は、私かお前を狙ってくるかもしれない。


 だが、それよりも、精霊王を従える者を狙う可能性が高い。


 用心しておきなさい。と言うのが、サラディーナの言葉だった。


 食事中の会話だったが、アリスの記憶には良く残った。


 確かに、一日で巨大な城を築きあげるような能力を持った者は周囲にとってはあまりに危険な存在と言える。


 多少の無理をしても、消しておきたい相手である事は間違いない。


 アリス達バエン王国としても、そんな相手がいれば、何とかして排除しようと動くだろう。


 膨大な魔力と引き換えとは言え、どこでも人手が要らずに城や砦が造れるとなれば、戦争のあり方が変わる。


 他の国が恐れたとしても不思議ではない。


 それ以外は、仕事の話は一切無しで親子の会話を楽しんだアリスは、館に帰還後、リーヴェとレヴェルの二人の相談した。

 

 メラーノの動きはどうかと。


 その言葉だけですべてを察する事ができたのか、二人供同じ答えを出して来た。


 狙いは、アルフレッドで間違いない、と。


 その上で、メラーノの動きを追っていたと言うレヴェルは、相手側の動きを把握していた。


 メラーノの軍勢が動いた後、何人かの旅人や、傭兵、商人などがメラーノ側から入り込んで来ている。


 当然、怪しい動きはなく、そのまま国境を越え、バエン国内に入っている。


 それ自体は、まったく問題がないのだが、入って来た何組かは、ここバエンで合流し、いまも見張りがこの館の様子をうかがっている。


「さすが、リーヴェリッタ様ですね」


「そう、ね。リーヴェの、おかげだわ」


 自分を追い抜き、前に出たキエナに先導され、アリスはアルフレッドの部屋へ向う。


 レヴェルの報告を聞いたリーヴェは、恐らく今夜にでも忍び込んで来ると予想した。


 意識は取り戻したものの、本調子ではないアルフレッドは館の自室に寝かされ、エマ達武官達は共に帰って来た兵士達との雑務に追われ、アリスの館にはアリスの他にはレヴェルやリーヴェ達しかいない。


 館の中がばたついており、気がそがれている今が一番暗殺するのに向いている。


 このタイミングであれば、館の護衛は少ないし、アルフレッドを狙う事が容易である。


 そう予測をつけたリーヴェの発案にしたがって、エマ達は兵士達を自宅に帰し、戦死した者や傷を負った者達への補償を任せ、わざと館を手薄にし、相手を呼び入れる事にした。


 なるほど。人がいるのは、便利だ。


 と、アリスは思う。

 

 自分で考えなくても、みなが考え、手足となって動いてくれる。


 軍を率いなくても、一人で一軍にも匹敵するアリスは、

あまり人を率いると言う事をしなかった。


 槍を振り回せば、周りにいた者達を薙ぎ倒し、素手でも野生の猛牛を殴り倒すアリスが、仲間の必要性を感じなかったとしても無理はない。


 しかし、姉達には、それではダメだと言われた。


 サラスには、王族に生まれた以上、人を導いて行く存在になれと懇々と言われ、


 クスハには、その性急で果敢な性格を直すため、ゆっくり考えて話しなさいと言われ、


 イクスラには、笑っていればいいと言う人との付き合い方を教えられ、 

 

 アリス自身も色々考えてみた。


 考えた末の行動の結果、その第一号が、タナケダ王国出身のリーヴェリッタだ。


 まさか、他国の者を口説き落としてくるとは思っていなかった姉達は驚いたが、アリスの行動が変わったのは、間違いなく姉達の薫陶があればこそだ。


「いるわね」


 アルフレッドの部屋の前まで来たところで、気配を殺している気配を感じ、アリスは笑みを浮かべる。


 自分ではまだまだだと思うが、行動の変化をほめられるのはアリスとしても悪くはない。


 その精進のおかげで、軍団を編成できるようになったのだから、悪いわけがない。


 そんな自分を支えてくれる部下達だからこそ、アリスも守らなくてはならない。


 アルフレッドの部屋に踏み込んだアリスは、ドアを蹴破られて驚いた暗殺者の一人に容赦のない一撃を繰り出す。


 グシャッと言うスイカが潰れるような音と共に、アリスの鉄棒が暗殺者の体を文字通り叩き潰す。


「私の館に踏み入るなんて、愚かな人達ね」


 ここはアルフレッドの部屋ではあるが、アルフレッドはいない。


 狙われるとわかっている者を、部屋に残しておくわけがない。


 アルフレッドは今、レヴェルの部屋に匿われている。


 だから、今この部屋にいるのは、暗殺者達しかいない。


「良くそんな腕で、私に挑めるわね」


 現れた事に驚いている暗殺者達を見て、アリスは楽しげで無邪気な笑みを浮かべる。


 普段は、クスハに言われたとおり、噛んで含むようなゆっくりとした話し方をするアリスだが、本来は早口で、自信が溢れる話し方をする。


 しかし、そうなると、元々の果敢な性格が表に出てしまい、テンションが高くなり、キエナが恐れる、周囲を威圧する猛獣と化してしまう。


 向って来た相手の腕を取って、床に叩き付ける。


 窓を突き破って逃げようとした相手の背中に鉄棒を投げつけ、骨を砕かせ絶命させる。


 何とか魔法を詠唱しようとした相手に近づき、下あごから殴りつけ、頭蓋骨を砕く。


 猛獣と化したアリスは、たとえ、一万人の兵士がいたとしても止められない。


 まさに一騎当千と言う言葉を、その身で体現していると言っても過言ではないアリスである。


「あら。これは、業者を、呼ばないと、いけないわ、ね」


 時間にして一分もかかっていない、電灯もついていないくらい部屋の中で暗殺者達の始末を終えたアリスは、キエナを振り返り、笑う。


「み、みなさんの、安否を確認してきます」


 どこか引きつったような表情で、震えた声をあげたキエナが、レヴェルの部屋で待っている文官達の元へ、駆け出していく。


「あら。もう、少し、自分を、抑えないと、だめね」


 震え上がってしまったキエナの姿を見て、アリスは困ったような笑みを浮かべた。 

 


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