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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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045 山城ブルームストーン城


「アルの、具合は、どうかしら?」


「は。命に別状はありません。魔力の使いすぎでしょう」


 完成した城の執務室に腰を落ち着けたアリスの言葉に、苦笑交じりのリーヴェが答える。


 土の城をティーエラに委任をして造らせたアルフレッドは、そのまま意識を失って、いまだ気絶したままになっている。


 グラゾフから派遣された治療師の判断では、単に魔力切れを起こしているだけだろうと言う事だった。


「こんな城を造れば、魔力切れを起こしてもしかたないかと」


「たしかに、ね」


 リーヴェの言葉に、アリスも頷く。


 窓の外には、ティアン川の風景が広がっている。


 その光景は、川幅の広いティアン川だからこそ見える景色で、窓そのものが青々とした川を描いた風景画のように見える。


 そう見えるのも、アリス達がいる城が、川よりも大きく高い場所にあるせいだ。


 ティーエラに任せて造られた物は、グラゾフ側の川の真横に大きな山を築き、その山の上に巨大で精緻な技巧が施されている城が乗る構成になっている。


 周りの堀は川の水を引きこみ水路となり、水路の入り口は幾重にも土が盛られたり、波消しブロックなどが造られて、強く荒い勢いのあるティアン川の流れに土が削られない工夫がされている。


 三万人以上の兵士が詰められる城は、巨大で辺りを威圧する威風を放ち、堂々としている。


 その城をわずか一日で造ったティーエラに、術者として魔力を供給したアルフレッドは、魔力を使いきり、三日間意識を失ったままである。


 川の反対側にあるセラム王国の城マティソンを見下ろせるほど巨大で、堅固な城を造り上げた事は、商業路の中継点の確保だけではなく、セラム王国側にプレッシャーをかけるものとなっている。


 城の前にある広場になっている場所からは、相手側の動きが見え、投石器などを用いれば、容易に敵の城壁を飛び越え、街を破壊することができる。


「しかし、精霊達の王ともなると、すばらしい力ですね」


「そう、ね。アルの、おかげね」


「アルフレッドを紹介してくれたレヴェルにも、感謝しなければなりません」


「そう、ね。どこで、見つけた、のかしらね」


 このまま行けば、難攻不落といわれたマティソン城を攻略できるのではないかと、やや興奮気味なリーヴェに、アリスはそれほど乗り気でもなさそうな態度で答える。


「このままマティソンを攻略する事もできますが?」


「姉様達との、約束があるから、無理ね」


「そうですね。イクスラ様に城を明け渡さなければなりませんでした」


 アリスが不機嫌な原因はわかっている。


 それはせっかく建てた、まだ名前も付いていないこの城を、後から来るイクスラの部隊に明け渡さなければならないからだ。


 このままセラム王国を滅ぼすなら、アリスが城代のままでも構わないが、商業路として活用するなら、経済に明るく、人を扱う事に長けているイクスラの方が城代に向いている。


 そのため、せっかく造った城を手放し、アリス達は本国に引き上げる事になっている。


「ですが、悪くないかもしれませんよ」


「悪く、ない?」


 何層にも巻いた焼き菓子を切る事もせずにそのままかじっているアリスに、リーヴェは手紙を見せる。


「はい。レヴェルからの手紙が先ほど届いたのですが、アリス様に軍団を編成して、サラス様の下へ向かえと言う指示が出るそうです。

 おめでとうございます。アリス様。

 これで念願の軍団長ですね」


「おお。み、見せて。手紙を」


 レヴェルからの手紙の内容を聞き、一瞬、耳を疑ったような顔をしたアリスだったが、リーヴェの言葉の意味を理解し、手紙を慌てた様子で受け取る。


「ふふ。次は、アニアト、ね」


 焼き菓子を脇の皿の上に置き、手紙をむさぼるように読んだアリスは、不機嫌さもどこかに吹き飛び、普段の笑みを見せる。


 アリスの考えでは、セラム王国に攻め込むための一番手は自分であるべきだと考えていた。


 しかし、バエンとグラゾフの経済振興を主眼に置いているクスハの元では、すぐには戦闘にならない。


 戦闘にならずとも、時期が来ればセラム王国に攻め込む足がかりとなるこの城をメインに、自分の出番があるはずだと思っていた。 


 だからこそ、アルフレッドに城を築かせたのだ。


 それを、姉であるイクスラに譲らなければならない。


 戦場から外される事は、戦闘好きのアリスからすれば、気分を害する行為であるのは間違いない。


 だが、自分の軍団を持て、姉であるサラス直々に先陣の指名を賜るとなれば話は別である。


 未来の戦場より、すぐ目の前の戦場。


 戦場にいる事を何よりの喜びとするアリスからすれば、姉のイクスラの到着を待たずに、バエン本国に飛んで帰りたい気分にもなる。


「はやく、姉様が来ないかしらね」


 先ほどまでとは違い、不機嫌さの欠片もなく、アリスはイクスラの到着を待ちわびる。


 母であるサラディーナやクスハからの指示書で、イクスラに城を明け渡して本国に帰る事を伝えられた時とは、そのテンションに雲泥の差がある。 


「城を明け渡す準備は進んでいます。後は、イクスラ様の到着と、アルフレッドが目を覚ませば、いつでも行動できます」


「そうね。アルは、目が覚めなければ、ベッドごと運べばいいわ。

 それぐらいの事は、アルの手柄を考えれば、許されるわ」


 機嫌が良くなった証拠に、普段より幾分早口になったアリスを見て、リーヴェは心の中で安堵のため息をつく。


 もし、このまま不機嫌なままだと、暴れかねない。


 まさか抜け駆けしてマティソンに攻めかかるという事はないだろうが、もし、そんな事になれば大変な事になる。


 戦略を無視して勝手に戦線を広げれば、さすがのアリスも叱責だけでは済まされないだろう。


 すぐ目の前の難攻不落と称されたマティソン城を落とせるかもしれない誘惑は、その歴史を知るだけにリーヴェにとってもかなり魅力的なものがある。


 アリスをけしかけるような事を口にするとは、普段の自分からは考えられない。


 自身も相当浮かれているのだろうと、リーヴェは自分を戒める。


 アリス様の気を引くような情報をすぐさま知らせてくれたレヴェルには感謝だな。と、心の中で考えながらリーヴェは、アリスに断り、出発の準備に戻った。


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