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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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044 接近


「へぇ。アリスの奴。おもろしれぇもん造るじゃねぇか」


 机の上に肘を突いて座り、その手の上にアゴを乗せた姿勢で報告書を読んでいたイクスラは、敵の城の目の前に城を造った妹の戦果を見て、楽しげに膝を叩く。


「こりゃぁ、合流する時は楽しみだな」


 自分の居城であるマスマスターから離れて、三ヶ月。


 セラム王国側と戦端を開いて、三ヶ月。


 連戦連勝で相手側を引き入れて来たイクスラも、そろそろ陣幕以外の生活が恋しくなって来ている。


 クスハの指示で、ティアン川に沿って軍を進めてきたイクスラは、一度も負ける事無く、アリスの軍と合流できるところまで来ている。


 それはそうだ。


 イクスラ率いる軍が精強である事はもちろんであるが、クスハが仕掛けた罠もあり、アリス側が敵の注意を引きつけていた。


 いわば相手の隙をついた行動で、イクスラ自身は大した事ではないと考えている。


 もちろん、それは他の姉妹の活躍もあるが、イクスラ自身が前もって準備し、その準備の成果を回収したに過ぎないからだ。


 乱暴な口調と態度のせいで、気付かれにくいが、イクスラは意外にまめな性格で気配りができるタイプだ。


 普段はその性格を表に出さないので、親族以外には気付く者も少ないが、表立って騒ぎを起こしながら、それを一歩退いた冷静な目で見て行動する事ができる稀有な性格をしている。


 周りの領地で災害などが起これば、真っ先に行動を起こして救助の指揮を取り、祝い事があれば自分の部下を送り祝いの品を届ける。


 逆に葬儀などがあれば、自らが出向き、弔辞を述べる。


 それは周りの領主達だけではなく、部下達にも及び、部下やその妻、子供の誕生日などに贈り物を贈る気の細やかさと記憶力を持っている。


 だから、部下達からの信望も厚く、絶大な忠誠心を持って迎えられている。


 始めは、あの乱暴者のイクスラがと恐れられても、そんな風に気を使われれば段々と打ち解け、イクスラを恐れる者は少なくなる。


 評価の低スタートと言うものだ。


 素行のいい者がいい事をするのと、素行の悪い者がいい事をするのでは、他者が見たときの評価の受け取り方が違う。


 普段からいい行いをする者が、いい行いをしてもそれは当たり前の事である。と、とらえられる。


 しかし、素行の悪い者がいい事をすれば、その受け取り方は大きく変わる。 


 あの人が、あの乱暴者が、驚きをもって迎えられる結果と言うものは、人の心の中に残る。


 もちろんそれだけではないが、そういった手腕を使い、イクスラは部下や領民達の心を掴み、今に至る。


 統率では、姉のサラス。智謀では、クスハ。武力では、妹のアリスに敵わないが、イクスラは他人の評価をコントロールしたり、相手の心を掴むのがうまい。


 相手の心を支配する事によって、自分の思い通りに相手を動かす。


 そのイクスラの能力が、サラスよりは一段も二段も落ちる軍団を率いても負けない強さを生み出している。


 それは味方だけではなく、周囲にいる敵国にも影響している。


 南のメラーノ王国にも、セラム王国にもイクスラの影響が浸透していて、特にセラム王国では交戦する事がわかっていたため熱心に働きかけていた。


 ティアン川を他国との壁に使い、防御網を構築しているセラム王国だが、領地の中では、その川を背にしている領主も当然いる。


 ティアン川のような川幅の広い大河があれば、防御力や移動の面においては申し分ないが、その川の外側に領地を持つ領主にとっては、逆に障害になりえる場合もある。


 まして、王国内で内輪もめなどが起きていれば、王国の外周にいる領主などまでに目配りができなくなる。

 

 河の氾濫などがあっても本国に助けてもらえず、立て直す事ができずに困窮する領主も多い。


 そんな本国であるセラム王国から半ば見捨てられている領主達を、助けたのがイクスラだった。


 ルシア教の教会を通して援助を申し出て、困窮する領主達を助け、家を流された領民達に住宅や食料の調達をさせた。

  

 一応、ルシア教の教会を通していたが、ほとんどの領主達は、その行為がイクスラの手によるものだとわかっていた。


 それは噂として流されたもので、イクスラが自分で風潮したわけではない。


 したわけではないが、ルシア教の中のシンパや、部下達がそれとなく情報を流した。


 その流された情報と、部下や領民から慕われるイクスラの普段からの行いを聞く領主達は、それがイクスラの行為だと信じる事ができた。


 他国ながら素早い援助をしてくれたイクスラに、領主達は感謝の意を示し、今回のバエン進行においても、戦いもそこそこにすぐに恭順の意を示して降伏して見せた。


 そのおかげで、イクスラはグラゾフとセラム、バエンとの国境線まで電撃的に支配地にする事ができた。


 後は、ただ一人、セラムに対する忠誠を曲げなかった領主を降伏させれば、アリスが建築している城砦にたどり着く。


 目の前の敵と言っても、領主が降伏をするまで囲ませているだけだ。


 降伏すれば、家族や領民は助けると約束しているので、形ばかりの領主の意地を晴らさせてやっているだけでしかない。


 援軍のない状態が一月続けば、領主は降伏する事が許されている。


 これが、セラム王国の支配が目的なら時間はかけられないところだが、今回の目的は商業路の確保だ。


 妹が、敵の要衝にわざわざ面と向かい合う城砦を建てているのなら、急いで落とす必要もない。


 もうイクスラの中では、今回の戦略目的は達成されていると言っても過言ではない。


「ああ。早く柔らかいベッドの上で横になりたいぜ」


 読んでいた手紙を机の上に置くと、硬い簡易ベッドの上に横になり、あくびをした。


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