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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
34/102

034 成果


「これをどう思う?ウツバ?」


 自分の護衛兼参謀であるウツバ・ヒバに、自分の元に送られて来た手紙をサラディーナは手渡して見せる。


「クスハ様の手紙ですか。なるほど」


 トロール族特有の灰色の肌をした巨躯の男、ウツバ・ヒバは手渡された手紙に目を通す。


 バエン王国の第二王女であるクスハは、現在、隣国のグラゾフ王国で戦後処理を任されている。


 そのクスハが、報告書以外で半年振りに送って来た手紙には、妹である第四王女のアリスを貸し出して欲しい旨をしたためられている。


 そろそろ新しい支配に対する不満分子が集まりだしたので、ここで一気に片をつける。


 そのためにアリスの武力に頼りたいと言うのが、クスハの申し出だ。


「先日までのアリス様の動きを見ておりますれば、いささかできすぎな気がしますな」


「やはり。ウツバもそう思うか」


 執務室の重厚な机を挟んで立つウツバの返事を聞きながら、サラディーナは形のいいアゴに拳を当てながら、クッションの効いたイスの背もたれに体を預ける。


 少し前に、末の娘のアリスからは、側仕えであるキエナを通じて、自分の軍団が持って暴れたい。と提案書が出されたばかりだ。


 そして、その案が通らなければ、いまだ流入が続いているグラゾフからの難民から兵士を徴集し、自らが鍛えるので、バエン王国の新規の部隊を編成すればどうか、と言う提案が上げられている。


 それに付属して、難民に対する方策も上げられているので、軍団の話はともかく、新規の部隊編成の話は返事を保留している。


 暴れたがっているアリスに合わせるように、クスハから手紙が届けば、裏で何か取引があったのではないかと勘繰ってしまうのは仕方がない事だろう。


「おそらくは、アリス様側からクスハ様側に何か連絡があったのでは?」


「そんな報告は受けていないが」


 手紙を、大柄な手には不釣合いな器用さで丁寧に折りたたんで戻すウツバの言葉に、サラディーナは竜眼の瞳を閉じて思考をめぐらせる。


 娘達の側に限らず、国中のいたるところにサラディーナの“目”が広がっている。


 その“目”を介して話を聞いても、クスハ、アリス両方からお互いに使者が行き合った形跡もなければ、手紙のやり取りもない。


 報告漏れか、もしくはサラディーナの知らない方法で連絡を取り合っているのか。


 どちらにしろ、サラディーナの知る範囲で、姉妹が共謀した動きは無い。


「私が知る限り、クスハに連絡をした様子は無い。

 アリスは純真だ。

 物事を難しく考える事はしない。

 勝手に飛び出して行くことはあっても、わざわざクスハに許可を取る事はしないだろう。

 そう考えれば、アリスが戦いたいがために、クスハにお願いしたとは考えにくい。

 、が」


 自らが開発した特殊な魔法繊維を織り込んだ軍服を着込んだサラディーナは、肉付きは良くも、細く長い足を組み替えながら言葉を続ける。


「アリスの周りには、人が増えた。

 その中には、余計な知恵をつける者がいたとしても不思議ではない」


「なるほど。報告書にあった者ですな」


 紫の長い髪を編み込み、後頭部でまとめているサラディーナの子供の頃から変わらない思考の姿を見ながら、ウツバは最近増えた第四王女の取り巻き達の情報を思い浮かべる。


 ウツバは、サラディーナの祖父の代から仕え、部下の中では最古参であり、一番の年長者でもある。


 長寿な種族ゆえ、ありえない事ではないが、それでも三代に渡って宰相として仕えられるのは、その忠誠心もさることながら、愚直なまでの公明正大な性格でえこひいきをしない事が、国中に知られているからだ。


 家族を持てば、それが足かせになり、さらに余計なしがらみが付きまとうとして、結婚すらしていない事からもウツバの王国への忠誠心が見て取れる。


「プレタダでは、王に諫言して棒打ちにされたとか。なかなか気骨のある者ですな」


 アリスの周りにいる他国の者達を頭の中に浮かべても表情を変えずにいるのは、自国の者も他国の者も区別しないウツバだからこそだろう。


「あのサーキーンに意見するとなれば、よほど根性があるのか、何も考えてない馬鹿だろう」


「アリス様が用いられているのでしょうから、それ相当の者だろうと思われますが」


 部下に殺されて果てた先のプレタダ王を思い浮かべて笑うサラディーナの言葉に、ウツバも答える。


 キエナからの報告で、アリスが拾って来た冴えない風貌の男が、役に立つと言う事は聞いている。


 そして、サラディーナは今回の事も、その男が関わっているのだろうと考えている。


「それはそうなのだろうな。

 私はともかく、娘達は人を見る目がある。

 娘達が信じるに足りると考えるなら、その事に私が何か言う事は無いさ。

 何もなければな」


「それがよろしかろうと思われます」


 本人は厳しいつもりでいるサラディーナだが、娘達に対する評価はかなり甘い。


 本当ならアリスのやりたいようにさせてやりたい気持ちが強いのだが、あまり自由に行動させていれば部下に対する示しも付かない。


 それに、無造作に戦場に飛び込み、暴れ回る娘を心配する気持ちも強い。


 他の事には果断に判断を下すサラディーナだが、こと娘の事になると、その判断も鈍りがちになる。


 そんな娘達に対する行動が甘くならないようにサラディーナを見張ると言うのが、ウツバの重要な役目でもある。


「それで、アリス様に兵を預けて、クスハ様の下に向わせますか?」


「クスハが求めているのなら、アリスの助勢が必要なのだろう。

 二部隊ほど共に向わせればいい。

 クスハが面倒を見てくれるのなむら、アリスの事も少しは心配せずにすむ」


「アリス様がご提案された事案はどうされますか?」


「それはこちらでやろう。元々難民対策の計画はできていたんだ。

 それにアリス側から出された計画から、使えるところを抜き出させてもらって利用すればいい」


「わかりました。では、そのように」


「うむ」


 胸に手をあて頭を下げたウツバに、鷹揚にうなづいて見せるとサラディーナは、執務作業を再開した。

   

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