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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
29/102

029 アリスの武官達


「いや、やってますな」


 アリスを探して練兵上へと足を運んだレヴェルは、そこで行われていた光景を目を細めて見る。


 練兵上にいる人数は、五人。


 訓練するには数が少なく、模擬戦をするにしても中途半端な人数。


 しかし、輪の中心にいるのがアリスなら、話は変わってくる。


 アリスを取り囲むように構える四人。


 大斧を構えたサウスマギア。槍を構えたエマ。長剣を構えたホルスト。そして、その怪力ゆえに大きな棍棒を持たされたカロッサ。


 その四人が、長い槍を右手に、短い槍を左手に持ったアリスを囲んでいる。


 アリス対複数。


 それがアリスにとっては、普通の訓練風景になる。


「おりゃぁッ!!」


 元王女と思えない掛け声と共に、サウスマギアが楽しげに大斧をアリスに向って振るう。


 その風を切ってうなりを上げる大斧の一撃を、アリスはその場にとどまったまま、右手に持った槍で軽々押さえ込む。


「ふっ」


 アリスの背面に位置したエマが、動きの止まった相手に向かって素早い足さばきで槍を突き込む。


「なろっ」


 エマが放った槍を、正面を向いたまま半歩左足を引いて体を捻ったアリスが、左手に持った槍で跳ね上げ、エマの槍の先を右側から斬りかかって来たホルストに向ける。


「え、えぇいッ」


 槍の刃先を向けられ、慌てて足を止めたホルストの反対側からカロッサが棍棒を振り下ろす。


 その弱弱しい掛け声とは違い、その巨躯から怪力を持って振り下ろされた棍棒はうなりを上げるが、サウスマギアの大斧を跳ね除けたアリスが体をさらに半回転させ、右手の槍でその一撃を打ち返す。


「どりゃッ!!」


 大斧を打ち返されたサウスマギアはその勢いのまま体を回転させると、横薙ぎにアリスの胴を狙う。


 サウスマギアの大斧の一撃を越える位置に、右手の槍を地面に突き刺したアリスは、そこを支点に小柄な体を宙に浮かせる。


「うおっ」


 かわされた大斧の刃先は、その勢いのままに横にいたホルストに向うが、地面に伏せる事によって事なきを得る。


「てやぁっ」


 宙に浮いたアリスが着地する瞬間を狙って、エマが槍を突き入れる。


「あら?」


 出された鋭い槍先を、アリスがカロッサに向って蹴る。


「わっ」


 槍の先が顔の目の前を通過したカロッサは、驚いて身を引き、持っていた棍棒から手を離す。


 カロッサの手から放たれた重く巨大な棍棒は、回転しながらサウスマギアを襲い、大斧によって何とか弾き飛ばされる。


「さすがは、アリス様。見事な動きです」


 再度隙を狙ったエマが、アリスに軽く叩き伏せられるのを見て、リーヴェが声をかける。


「あら。お二人とも、ご一緒?」


「仕事の関係で。アリス様。お話をよろしいですか?」


 リーヴェと一緒に来たせいか、にんまりと笑みを浮かべるアリスに、レヴェルは手に持っていた書類を見せる。


「これは?」


「私が見たことが無い購入が計上されているのですが、アリス様にお心当たりがあるのでは無いかと思いまして」


 両手の槍を地面に突き刺し、武具一式、五百組の購入が記された書類を受け取ったアリスは、首をかしげてそれに目を通す。


「ええ。そうね。私が、買ったのよ」


 購入に心当たりがあったのか、アリスはレヴェルに笑みを向ける。


「五百組もどうされるのですか?王国の兵には必要ありませんが」


「ええ。そうね。お母様の兵は、国の負担だわ」


「では、これは?」


「私も兵が欲しいわ。この間、マギアとホルと話し合ったの。

 やっぱり、戦うなら、自前の兵力が要るって」


 地面に転がって息も絶え絶えになっている元王族の二人を愛称で呼ぶアリスの言葉に、レヴェルとリーヴェの二人は、思わず、顔を見合わせる。


「アリス様。陛下の御許可は戴いているのですか?」


「あら。兵を集めるのに、お母様の、許可が要るの?」


「ええ。もちろんです。勝手に兵を集めては、謀反を疑われます。

 それに、バエン王国は、軍隊の募集人数は国民十人あたりに付き一人と決まっています。

 それを勝手に崩しては、農地の開拓や開墾、産業の発展に支障が出てきます。

 どこでも人は必要です。

 国の負担が増えないように、軍人の数は調整されているのです。

 陛下の御理解が得られているのならまだしも、勝手な事をしては国を揺るがす大事となります。

 ご再考を」


 恐る恐ると言う風に尋ねたリーヴェの質問に対して、笑みを浮かべたまま可愛らしく首をかしげたアリスに、後を継いだレヴェルがとうとうと説明する。


「あら。困ったわ。レヴェル。もう、商店には、鎧の作成を、依頼しているの。どうにかならないかしら?」


「・・・ならぬ事もありませんが」


 口元に指をあて、考えた後、アリスはレヴェルに朗らかに笑って見せる。


 明らかに反省していない様子のアリスとしばらく見つめあった後、レヴェルは深いため息をつきながら答える。


 恐らくではなく、確実に確信犯なのであろうアリスの態度に思わない事が無いレヴェルだが、いまさら発注を無にして、頼んだ商家に不利益を与えるわけには行かない。


 まして、バエンの武具は、女王自ら開発した他国にない特殊な技術に基づいて造られている。


 普通の商売なら転売などをして、キャンセルの穴埋めなどができるのであろうが、国に納める事を前提としている物なら、キャンセルされた商品を横流しするわけには行かない。


 そんな事をすれば、それこそ反逆罪を疑われる。


 注文した商品をキャンセルするのは簡単だが、店に泣き寝入りさせるのは、国の威信に関わるし、アリスの評価を落とす事にも繋がる。


 アリスに仕えている以上、それは好ましくない。


 となれば、レヴェルにはこの問題を解決するしかない。


「・・・かつて、王国では兵の補充のために、罪人や山賊盗賊の類を兵士に仕立てたとか。

 幸いな事に、敗戦を迎えたグラゾフでは、職を失った兵士や難民も多く出ています。

 その中から、兵士になれる者を調達すれば、五百名ほどの兵はすぐに集まるでしょう。

 その兵を鍛えると称して国に納め、改めて配属してもらえるようにすればよろしいかと」


「あら。素敵な提案ね。リーヴェ。そのようにできる?」


「陛下の御裁決を戴く必要がありますが、人員確保は問題なく解決できると思います」


「お母様への連絡は、キエナに任せるとして、予算はどうなるの?レヴェル?」


「アリス様の御遊興費などから削らせて頂ければ」


「あら。それぐらいで、すむなら、簡単な事ね。自分の部隊がもてるなんて、幸せね」


 予算の調達など、外部資産から集める事ができるので簡単だ。


 ただ、やられっぱなしと言うのもアリスのためにならない。

 

 反省を促すために、遊興費を削ることを告げたレヴェルだったが、アリスには効果はなさそうだ。


 元々、軍務にしか興味が無い様子のアリスは、普段からあまり社交界などにも出ずに、槍を振り回している。


 バエン王国の王女である以上、それなりの付き合いもあるはずだが、アリスが自分の用事以外で出かけることは少ない。


 移動費以外に金を使わないアリスからすれば、遊興費を削られる事など大した問題など無いのだろう。

 

「うふふ。さすがね。楽しみだわ」


 楽しそうに笑うアリスを見て、レヴェルは頭の中で経費や人員の確保などを考えるが、目下最大の問題に頭を悩ませる。


「陛下が許可を出すと思うか?」


「・・・難しいでしょうなぁ」


 アリスが単独で出陣する事を、よしとしていないサラディーナが兵を集める事を許可するかどうか?


 同じ問題に気付いているであろうリーヴェと視線を交わすとレヴェルは、ため息をつく相手に苦笑を浮かべて返した。     



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