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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
27/102

027 これから


「そうなると、目立ちすぎない事が、肝要か」


 ぶらぶらとバエン王国の首都リエンを歩いていたレヴェルは、自分の考えにそう結論付ける。


 バエン王国にレヴェルが来てから二週間になる。


 いまや、幽閉王の名で呼ばれているストラスに、仕官させられてから、早、二年にもなる。


 思えば、激動の二年だ。


 所属にしても、プレタダから始まり、タナケダ、バエンと次々に変わっている。


 特に考えて変節したわけではないが、流れに任せるままに行動していたらこうなった。としか言えない。


 まさに、女神ルシアの導きに従った。である。


 レヴェルは、人にはそれぞれに与えられた運命があると考えている。


 運命とは道であり、その道は人によって違う。


 人によっては高く険しい道であったり、平坦でたやすい道であるかもしれない。


 洪水や土砂崩れで塞がれた苦難の道であるかもしれないし、何の障害も無い春の温かい日差しに満ちた散歩道かもしれない。


 進む道は人によって違う。


 運命と言う道筋はみな同じではあるが、その行程は人によってあまりに違う。


 何の障害もなく終わる人生もあれば、障害だらけで進む道を歩くのを諦める者もいる。


 生まれながらに決まった道を与えられ、その道を自らの意思で選ぶ事はできないが、その道の終わりはみな等しく平等である。


 誰しも、死という運命のゴールからは逃れられない。


 思えば、運命とは勝手なものである。


 選ぶ事はできないのに、その道を進む事は必ず強要される。


 その道が険しかろうが、優しかろうが歩む者には決められない。


 まったくとんでもない事である。


 しかし、歩く道を決める事はできなくても、その道を少しでも変化させる事はできる。


 それは進む同行者を得る事。


 生まれてから死ぬまで、歩く道は決められているが、それを助けてもらう事は選べる。


 道が険しければ、他人と協力して障害を乗り越え、先に進みよいようにするのは否定されていない。


 その同行者が親であれ、兄弟であれ、恋人であれ、友達であれ、同士であれ、誰かの手を借り、生き易くする事が許されている。


 その同行者によって、さらに険しい道に入ってしまう者もいるが、大抵、運命と言う道筋を歩くにいたって一人で歩く者は少ない。


 人と言う者は、お互いに協力し合い、利用しあう事によって生きていくように定められた存在だからだ。


 だから、サウスマギアがアリスに従うに当たり、そのネーミングセンスはともかく、チーム・アリスを造ったのは悪い事ではない。


 苦難の道を歩むであろうサウスマギアが目的を達成するために、利用できるものなら何でも利用して目的を成し遂げようとするのは、間違いではない。


 ただ問題なのは、そのチーム・アリスに参加するサウスマギアが本当にアリスに心酔し、その部下になる事を望んでいる事だろう。


 何度となくアリスに殴り倒されているうちに頭の線の一本でもおかしくなったのか、本当にサウスマギアはアリスの部下になってしまった。


 本当のところは、レヴェルにも分かっている。


 窮屈で責任感を伴う王女様の生活より、二メートル近い大斧を振り回し、暴れまわる事の方がサウスマギアに向いている。


 アリスと戦っているうちに、サウスマギアは自分の本当の性質に気付いてしまったのだろう。


 サウスマギアの性質は獰猛な猟犬だ。


 どんな苦境を与えようとも耐え抜き、一度解き放たれれば執拗に相手を追い詰める。


 それが、自分よりも強い飼い主を見付かるにいたり、一気にその性質が解放されてしまったのだろう。


 レヴェルとしても、サウスマギアがアリスの味方になるのは問題は無い。


 しかし、完全に無いかといえば、ウソになる。


 アリスと共に訓練し、兵士達を調練している今のサウスマギアでは、プレタダの王位を継ぐ事は無いだろう。


 自由な空気を知ってしまった猟犬が、窮屈な小屋に押し込められる番犬に戻る事はできない。


 そうなると、レヴェルとしては計画を練り直さなければならなくなる。


 レヴェルがアリスにサウスマギアを引き合わせたのは、プレタダ王国をアリスが取りやすいようにするためだ。


 サウスマギアがいれば、プレタダの貴族達を引き入れ易くなる上、ガストル王国に対しては父親の仇、コストア王国に関しては国を奪った相手と争いを仕掛ける大義名分が立ち易かったのだ。


 だから、アリスの客将程度に味方になってもらうくらいなら問題なかったのだが、智のリーヴェと対になる武のマギアになり、アリス軍団の双璧となってしまうと、プレタダ王家に返り咲くと言う意思は希薄になるだろう。


 プレタダを再攻略しても、その王座につけるものがいなければ、バエン王国の確実で安全な支配国ではなくなってしまう。


 グラゾフ王国の支配は、親バエン派の王族で固められ、アリスの姉、クスハの指導の下、バエンの影響力を強めている。


 しかし、その支配は緩く、親バエン派の忖度に任されている。


 親バエン派が暴走しない限りは、クスハは元々のグラゾフ王国の王族に支配を任せ、緩い手綱を締めたり戻したりしながらバランスをとっている。


 レヴェルとしても、同じ事をプレタダ王国でも行おうと考えていた。


 アリスに信奉するサウスマギアをうまく操り、プレタダ周辺を治めさせる。


 サウスマギアのアリスへの懐きぶりを見るに、その計画は、どうやら見直させなければならない。 


 おそらくは、サウスマギアはアリスの元を離れ、王となること望まないだろう。 


 レヴェルとしては、計画の見直し自体は問題視していない。


 ただ、変更して行くのが面倒臭いと言うだけだ。


 レヴェルの頭の中では、現段階での大陸統一のビジョンが見えている。


 どこの国にも付け入る隙はあり、攻めるべきポイントがある。


 補給が続くのであれば、レヴェルはバエン王国を大陸の覇者に導く事ができる。


 頭の中では。


 どんな戦争でも補給が続かなければ、戦いは続けられないし、戦いには勝てない。


 バエン王国は他の国に比べれば小国であり、技術力と個人の能力による速攻が強みであり、持久戦になると弱い側面がある。 


 それに最大の強みである四姉妹の絆が、逆にバエン崩壊の序曲になりかねない可能性もある。


 姉妹それぞれが優秀なせいで、ともすれば誰もが旗頭になりかねない。


 長女であるサラスは後継者として認められているし、部下や民衆の支持も厚い。


 人を束ねる力を持ち、類まれな統率力を持つサラスの地位は磐石といっていい。


 そうなると、アリスはそこそこの活躍をさせるに留め、サラスの地位を脅かさない程度にしなければならない。


 あまり目立った活躍をすれば、サラス本人はともかく、その部下達に目をつけられる可能性もある。


 アリスが王座を望まない限りは、姉妹の間に波風の立たないように調整を取る必要がある。


 アリスに正式に雇われ、秘書兼司書官兼総事務として活躍を求める立場になった以上、うまく回していかなければならない。


 アリスは感覚で生きている。


 普通の者では、その行動を理解できずに、部下として勤まらないだろう。


 レヴェルは司書官として文章に囲まれた生活を送られれば、主は誰でも構わないし、大陸が統一してもしなくても変わりは無い。


 しかし、仕えるとなれば、やはり支えがいのある人物の方が面白いに決まっているし、望めばその力になる事はやぶさかでは無い。


 それに理解があり、締め付けがきつくないアリスの下でなら、色々と自由に行動できる。


 それを長く続けるためには、アリスにはストレスがたまらないように、その上、目立ちすぎないように活躍してもらう必要がある。


 今の自由な生活を満喫するためには、レヴェルはどんな苦労も買って出るつもりがある。


 そのためには、陰日なたにアリスを支える必要がある。


「うまく回していければ、いいが」


 歩道と車道が別けられた石畳の道を歩きながら、レヴェルはふつぶつ独り言を呟く。


 アリスの下で働くと言う道が、どこへ続くのか。


 それは、いまはまだ誰にも分からない。


「お。これはいい」


 通りがかりの露天で、ヒスイの耳飾を見つけると、レヴェルはそれをティアへの土産に買い、アリスの館に続く道に足を向けた。

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