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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
26/102

026 チーム・アリス


「あ、あの。い、いいんでしょうか?」


「いやぁ、まぁ。王女殿下がよろしいなら、よろしいのじゃない?」


 相変わらず異性と話す時だけはどもってしまうカロッサを相手にしながら、レヴェルはプレタダで起こった出来事を書き記そうとメモ帳に書き出す作業を続ける。


 アリスの生国であるバエン王国に来たレヴェル達は、そのままアリスの屋敷に滞在している。


 その広い屋敷の中庭であったであろう場所は、今は訓練場のようになっており、地面がならされ、学校のグラウンドのようになっている。


 そこでは、アリスとサウスマギアの模擬戦と言う名の、一方的なしごきが行われ、サウスマギアが何回目かわからないダウンを喫したところだった。


 レヴェルとカロッサは、並んでベンチに腰掛け、二人の闘いの様子を眺めている。


 野盗にまで身を落とした元貴族達に襲われた時、駆けつけて来たアリスの姿を見たサウスマギアは、その出会いに何か琴戦に触れるものがあったらしい。


 国境線を越えずに兵を率いて待機していたリーヴェと合流し、タナケダの街に無事に戻った後、サウスマギアはアリスに勝負を挑んだ。


 年が近く、同じ王女であり、武芸に自信がある。


 そこだけを抜き出せば、確かに同じ前提条件に立つ。


 元々、反骨心が強く、負けず嫌いのサウスマギアは、同じ前提条件を持つアリスをライバル視して、勝負を挑んだのだ。


 今のところ、勝率はゼロ。0勝156敗である。


 確かに、サウスマギアは強い。


 野盗に襲われた時も、直剣で馬に乗った相手に向かって行き、相手を斬り伏せるなどと言う事は、並みの者にはできることではない。


 しかし、アリスの強さは次元が違う。


 サウスマギアやエマが健闘したとは言え、野盗を一人も逃がす事無く全滅させたのは、アリスの戦闘センスと強さによるものだ。 


 レヴェルも一度、アリスの訓練に付き合った事がある。


 レヴェルの技量は人並み程度だが、徹底的に防ぐ事を前提に訓練してきたので、最初の一撃くらいは防ぎ、粘るぐらいはできる。


 しかし、アリスの一撃は防げたためしが無い。


 その一撃が速くて重いと言うのも、もちろん防げ無い理由ではあるが、レヴェルにはそもそもアリスの動きそのものが見えない。


 人の動き出しを読む方法としては、目の動きと、つま先の動きを見る方法がある。


 目の動きを見て相手がどこを狙っているか判断し、足の先が向いている方向で動き出しを知る。


 始めから守る事を考えて行動すれば、その二点だけ押さえておけば、相手の攻撃は凌げる。


 しかし、まっすぐ相手を見つめ、人の動体視力を超えた足捌きを見せるアリスの攻撃は、レヴェルには防げない。


 レヴェルが気付いた時には、もうすでにアリスの拳が目の前にある。


 レベルの違いはあるだろうが、おそらく、サウスマギアもアリスの攻撃を見る事ができずに負け続けているのだろう。


「でも、さすが、サウスマギア様。私には無理」


 倒れても倒れても、何度も立ち上がってアリスに挑むサウスマギアを見て、カロッサの隣に座るエマが感心したように頷く。

 

 叔母であるシャロンから直々に手ほどきを受けているエマだが、シャロンほど槍の扱いが長けているわけでは無いので、早々にアリスに挑むのを諦めた。


 実際、兵を鼓舞して、兵を手足のように扱う事が大事な指揮官の役目を任されるエマだから、個人の武力は並以上あればいい。


 アリスのように、一人ですべてを蹴散らしてしまうような超人じみた強さは、本来必要ないのだ。


「でも、いい加減止めた方がいいんじゃないか?仮にも王女様なんだぞ」


「いえ。サウスマギア様は、止めて止まるような方ではありませんので」


 レヴェルの隣に座るホルストの言葉に、エマは首を振って答える。


「王族って奴は、度し難いねぇ」


「ほ、ホルスト様も王族だったのでは?」


 何十回目で止める事を諦めたエマが首を振るのを見て、ホルストは呆れたようにため息をつき、自分の足の上に肘を付き、その上に自分のアゴを乗せる。


 そのホルストに、カロッサが不思議そうに尋ねる。


 カロッサ以外が言えば、皮肉に取られそうな言葉だが、本人の穏やかな気質と、おっとりした口調のせいか、言葉の内容にとげが無い。


「俺は王族って言っても、継承権は下位だし、おまけみたいなもんだしな」


 カロッサの方に、ギョロッと丸い目を向けるとホルストは肩をすくめて見せる。


 元はグラゾフ王国の王子であり、獣人族の部隊のまとめ役だったホルストは、アリスに敗れ、そのままアリスの部下として編入されている。


 獣人部隊を取りまとめているだけあって、ホルスト自身も虎の獣人である。


 ホルストは顔は虎で尻尾もあるが、手足は人型で、背が高く、筋肉質な姿をしている。


 トゥーエのように完全な二足歩行の獣の姿ではなく、人の血が混ざっている混血児である事を示す容姿だ。


 人種の多いグラゾフ王国の王族の中でホルストのような獣人が混ざっているのは、その父親である王のせいに他ならない。


 女好きで有名だった前グラゾフ国王の子であるホルストの兄弟は、分かっているだけでも百人近くに達する。


 女であれば誰でも良かったと思える前国王の節操のなさは有名で、種族の壁を感じないその愛の広さは、多種多様な種族の兄弟姉妹を生み出す事になった。

 

 その節操のなさが国を滅ぼす事に繋がったので、前国王はろくでもない王であったとしても知られている。


 実際、父親に従う勢力と、そんな節操の無い父親を嫌う勢力の戦いがバエン王国の介入を招いたので、国を滅ぼしたと言われても過言ではない。


 表には出ていない話にはあるが、レヴェルが掴んでいる情報では、前グラゾフ国王からバエン王国の女王サラディーナに、娘のクスハと婚姻を結びたいと打診があった。


 その話を聞いたサラディーナは、初め、王子の誰かとの婚姻だと考えていた。


 当然だろう。


 普通の思考を持つ者が、自分の娘のような年代の者を王が側室に求めようなど考えているなどと誰が思うのか。


 各国に忍ばせてある手の者から、前グラゾフ国王のたくらみを知ったサラディーナは、自分の娘を食い物にしようとしている相手に烈火の如く怒った。


 その怒りは、目の前にあった長テーブルを殴り飛ばし、飛ばされたテーブルが壁に当たって跳ね返って砕けるほどだった。


 そんなバエン王国が誇る影の者達からの情報に、相手国の増長と、目の見えぬ生娘を味わいたいと言う王の狂った性欲に怒りが収まらないサラディーナは、情報を知ったその日の内にグラゾフ王国に宣戦布告。


 元々、弱者も強者も無い世界の構築を目指していたサラディーナは、この大陸を一つの思考の元にまとめる必要があると常々考えていた。


 その口火を切る事になる理由としては思うところが無いわけではなかったが、娘達のためにも狂った相手を排除する必要性を感じたサラディーナは開戦に踏み切ったのだ。


 裏の情報はまったく娘達や部下には知らせる事無く、グラゾフ王国に宣戦布告したサラディーナだったが、まったく勝算がなく戦争を始めたわけではない。


 反国王派からは、ずっと援助の打診を受けいたため、それを利用すれば、国力的には倍以上のグラゾフ王国にも有利に戦えると考えていた。


 しかし、サラディーナが思っていた以上にグラゾフ王国の内部はぐらついていた。


 バエン王国の侵攻を逆に歓迎される有様で、自分でも親馬鹿であると思いつつも、優秀で自慢だった娘達が想像以上の活躍を見せ、国土としては四倍はあるグラゾフを短期の内に手に入れる事ができた。


 今、レヴェルの隣に座っているホルストも、反国王派であり、早々にバエン王国の軍門に降り、国王の捕縛に尽力した。


 本来なら、アリスと戦う必要はなかったのだが、部下の手前、簡単に降伏するわけにもいかず、一戦交え、完膚なきまでに叩き潰された。


 それ以来、ホルストはあってないような王位継承権を捨て去り、アリスに完全な忠誠を誓い、自由なアリスを軍人として支えている。


「負けたわッ!!」 


 いきなり聞こえて来た大声に、ベンチに並んで腰掛け、サウスマギアに諦めさせるのは無理。と結論付けていた四人は、目線を上げる。


 見れば、振るっていた大斧を目の前に置き、革の鎧姿であぐらをかいて座ったサウスマギアが、アリスに頭を下げている。


「プレタダ王国を再興させる為に、ここまで来たけど。負け続けて考えを改めたわ。

 私は一軍の将として、アリス様に仕えたい。

 いえ、仕えさせてください。

 私はあなたの強さに、感服いたしました」


 きれいに輝く金髪を泥だらけにし、白い肌も土埃にまみれたサウスマギアは、一度顔を上げて、そう口上を述べると、もう一度頭を下げる。


「あら。嬉しいわ。貴方が、そう決めてくれたのなら、私は、貴方の心を、尊重します」


 頭を下げるサウスマギアの肩に、自分の槍の刃先を当てるとアリスは、穏やかで優しい笑みを浮かべ、部下になる事を許す。


「ありがとうございます。アリス様。私達一同、ご期待に答え、チーム・アリスとして活躍して見せます」


「「え?」」


 満面の笑みで、アリスの言葉を拝承したサウスマギアの言葉に、エマとカロッサの二人が驚いた声を上げる。


 それは、サウスマギアが一軍人になってしまった事に驚いたのか、それとも、チーム・アリスと言う名称に対して驚いたのか。


 予想外の展開に驚いたレヴェルには、二人がどちらに驚いたのか分からなかった。

 

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