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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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001 レヴェルと言う男


「おっほー。来た来た来た。待望の雨が」


 それまで川べりに横たわり、ぼ~っと川の流れを眺めていた男は、穏やかに流れる川幅が広く川底の浅い水面に水滴が落ち始めたのを見て、慌てて自分の陣に戻る。


「出撃するぞ。準備をよろしく」


 自分の陣地に飛び込むようにして戻った若い男、レヴェルは仮の部下達に出陣の準備をするように指示を出す。


「もうほとんど準備は出来上がっているわ」


 銀髪の髪をきれいに切りそろえ、いかにも真面目です。と言った雰囲気を持つエルフの女は、戻って来た仮の指揮官に自信に満ちた笑みを浮かべて返す。


「ははっ。さすが王子様の部隊だ。訓練が行き届いている」


 仮の副官でもあり、目付けでもあるエルフの女、シャロンに陽気に笑って返すと、レヴェルは自分の馬に鎧も着ずに飛び乗る。


「ようし。みんな聞いてくれッ!!」


 シャロンを筆頭に整列している第一王子ストラスの精鋭部隊に向って、レヴェルは声を張り上げる。


「いいか。俺達はこれから、待ちに待った救出劇を開始する」


 自分を見つめる千人近い視線に物怖じせず、レヴェルは川の反対側の砦に篭り、援軍を待っている味方の方を指差す。


「味方を取り囲んでいる敵の数は我々の数倍はいる。普通に戦ったら犬死だ。

 だからこそ、我々は天運を待った」


 レヴェルの部隊は援軍の先遣隊であり、本来は陽動やかく乱がその任務になる。


 しかし、後続の味方は思うように集まらず、それどころか敵の内応に呼応して裏切った貴族に手を焼き、軍が分断されている。


 そんな中、レヴェルはストラスに与えられた軍権を行使して、この三日間、砦にこもった味方の援軍に向う事もなく、分断された味方に合流する事も無く、この森の中にひっそりと潜んでいた。


「この地方のこの季節は、雨が降り始めると豪雨になり、しばらくは降り止まない。

 俺はこの雨を待っていた」


 軍を動かそうという部下達をなだめ、のらりくらりと言い訳しながら雨を待っていたレヴェルは、シャロンを説得し、そのシャロンに部下達を説得してもらい、自らも話し合う事で、三日の内に本来自分の部下ではない連中をまとめていった。


 この地方の雨が降り止まないのを、レヴェルはこのレクト地方を扱った地方官の報告書を読んで記憶している。


 その上、地元の猟師に金を渡し、この季節のいつ頃から雨が降り始めるか確認を取っている。


 猟師達の言葉によれば、少し遅れてはいるが、必ず雨は降り出し、さらにそれが長く続くと言っていた。


 そして、さらに常人では難しいレヴェルにしかできない裏の取り方で、すべての確認を終えている。


「普通に戦えば、俺達は全滅だ。しかし、この雨にまぎれて攻め込めば、相手は味方が裏切ったと勘違いして同士討ちを始めるだろう」


 敵がこちらに気付いていないのは、念入りの調査で確認している。


 砦を囲んでいる隣国の兵達は砦を落とすのに躍起になり、注意が散漫になっている。


 こちらが攻め込めば、相手が混乱するのは間違いない。


 そうなれば、相手が五千の兵を率いていたとしても恐るるに足りない。


「臆する者がいれば、ここに残れ。俺に従う者は、一緒に来い。

 勝利の暁には、美酒を酌み交わし、共に英雄と呼ばれようぜッ!!」


 腰に吊り下げていた剣を引き抜くと、レヴェルは部下の返事も待たずに馬を返し、走り出す。


 そのレヴェルに付き従い、まずはシャロンが、それに続いて各部隊の隊長が馬を走らせる。


 後ろを振り返り、落伍者がいないのを確認すると、レヴェルはにやりと口角を持ち上げ、川の反対側を見つめる。


 今はもう激しい雨が降り始め、ほとんど前方が見えない。


 しかし、つぶさに調査したレヴェルの頭の中には、川の反対側の土手の向こうに広がる敵陣の様子が頭の中に入っている。


 混乱に乗じて、敵の大将を討ち取れば、砦は解放される。


 しっかり調査したおかげで、敵の本陣の位置はわかっている。


「これで、司書官の座はいただきだぜっ!!」


 土手を越えた先の敵陣が、激しい稲光によって映し出された時、レヴェルはこの戦いの勝利を確信した。

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