3話
事件は翌朝に起きた。悲鳴だ。これをシュティも聞いたらしいので間違いないはずだ。
その悲鳴が聞こえた場所へ向かう。
[なんだよこんな朝っぱらから]
[方向的には妹様の所為ですかね]
えー、たしかクリスとかいったっけ。
「おい、どうした?」
あれ? どうしたの? って言おうといたのに変換されている。
[なんでこんな言葉に変わってるんだ?]
[以前のイザーク様の名残りかと]
なるほどな。せっかくだ、これは直さないでおこう。せめてもの措置だ。たしかにイザーク君が存在したことを残すために。
っと、あれ? 鍵が掛かっている。
「あれ? お兄ちゃん? 今開けるねー」
お、開けてくれるようだ。扉が開く。
「おお、ありがとぅ……あ?」
何かと機械だろうか? それに手を突っ込んでいるメイドがいた。首を捻ってこちらを見ている。水色の瞳に涙を浮かべるのは昨日のメイドだった。
「お兄ちゃん! こいつがね、非常識にもお兄ちゃんを抱いていたんだよね!? だからお仕置きしてあげてるの! 今一枚目の爪を剥がしたところだよ!」
はぁ、と、頭を手で押さえる。あぁ、頭が痛い。
「やめろ」
一言、そう一言だが無意識に言葉にしてしまっていた。
[なぁ、なんでこんな事になっているんだ?]
[貴族と平民の身分の差ですね。貴族からしたら平民は人間ではないのでしょう。このバイヤー伯爵家では粗相をした使用人をこうやって痛めつける事がしばしばあります]
身分制度……そう、だよな……地球でも昔はこんな事が起きていたんだろうな。これはダメだな。変える必要があるか。
「え、どうしたのお兄ちゃん?」
[言い忘れましたが、この家の中で一番乗り気でしたのがイザーク様です]
あぁ、頭が痛くなってきた。なるほど、クリスはイザーク君の事が大好きなブラコンだった。そんで、真似してこうしたと。
「これからこういう事は禁止だ」
クリスはなんで? という顔をしている。
「なんで? こいつらは私達の物なんだよ? どう扱おうが勝手でしょ?」
無邪気さゆえの残酷さってやつか。まだ子供でよかった、矯正の余地があるはずだ。
「とにかく、だ。
俺の言う事は聞け」
自分でもびっくりするような冷たい声だった。本当にびっくりした。こんな新底冷たく圧力のある言葉を発したのだ。
[ヒュー、やりますね。そんな事出来たんですね]
「おいメイド、名前はなんという?」
「っは!? せ、セフィールと申します」
セフィールか、後で父上に進言しておこう。
「うむ、もう行って良いぞ。指は治癒士に診てもらえ」
「あ、ありがとうございます!」
セフィールが部屋から出て行くのを確認すると大きな溜息をついた。身分の差か、これも何とかしないといけないかな。もちろん貴族制度を廃止するつもりはないが。だって俺が楽出来なくなるじゃないか。理不尽を無くすってだけだ。平等である必要はない。公平である必要もない。しかし、平等、公平であると思わせなければならない。
平民は守ってもらうために貴族に税を払い従う。貴族は税を貰う代わりに守ってやらなければならない。これが根本にあるはずだ。それなら無闇に悪く当たらず良好な関係を築いて、税で良い生活をする。これで良いじゃないか?
「クリス」
今度はなるべく優しく接する。
「な、なに?」
「悪かったな。今後はやめろよ?」
返事を待たずに外に出る。二度目しよう。なんだか疲れた。
寝る前にシュティが大事な事を言ってきた。
[一度領地の現状を確認した方が良いのでは? とんでもない事になっていると創造できますが。手頃なのは書庫にある、書類でしょうか」
え、全然寝れないじゃん。急いで書庫に向かおう。でも簡単には入れるかな?
[でもそれって入れるのか? 政治上の書類とかあるんじゃないのか?]
この疑問にもシュティは答えてくれる。
[文字通り書庫ですから、本が置いてあるわけです。その本が読みたいと言えば簡単には入れるかと。書庫は領主様しか入れません。奥様すら入れませんが、時期領主の貴方なら入れてくれるはずです]
なるほどなぁ。ではさっそく書庫にむかいましょうか!
○
「父さん、書庫に入る許可を貰いたいんだ」
俺は今6歳だ。12歳になると貴族の子供は学園に通わされる事がほとんどだ。そこではコネ作ったりする事がメインだ。
そして学園で良い立場を得るために前知識が欲しいと頼み込んだ。
「そうか、やはりイザークは賢いな!」
はぁ……
書庫には領地に関する書類なんかが保存されていたりする。この世では本は貴重だ、なので必然的に貴族の屋敷にある書庫は警備が厳しくなる。その限りではないが、そこに重要な書類を保存する事が多いのだ。
「はぁ〜出るわ出るわ、計算の合わない財務系の書類とか」
これは酷い……おそらく三割くらいはどっかで漏れてんぞ。さらに、そこから良い暮らしを維持、向上させるために金を使う。そして贈賄まで。
「うん、これ赤字じゃん」
歳入を歳出が超えている。借金に、税を上げるつもりだろうが……今でさえ重い税をこれ以上上げるとなると民が爆発だぁ。学園に入学する前に最低でも何か一つバイヤー領に産業を導入しなければ破綻だ。
「おや、これは……」
領地の酷さを確認した後は知識を付けるために本を読む。リミットは学園に入学するまでの二年。分からない所があれば質問する。そして見つけたのがーー
「魔法、やっぱりあるのか!」
手に取ったのは、馬鹿でも分かる魔法講座! だった。タイトル舐めてんだろ笑。
どうも!
私には経営の極意とかはまったく分からないので、最後のところが若干手抜きっぽくなってます笑




