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11話

 

 パーティー当日、腹が痛い。俺は完璧人間ではない。むしろ前世ではダメな方の人間であったため、大勢の前に出るということが苦痛に感じる。


[シュティ…….変わってくれよぉ〜]


 シュティに泣きつく! こうする事で多少の緊張はほぐれるだろう。現実に変化はないが。だが、現実は時として小説よりも奇なりともいう。


[ん? 良いですよ]


 え、本気と書いでマジと読むあれですか!?


[は!?]


 思わず聞き返してしまう。


[何を驚いているのですか? 私なら出来るに決まっているじゃありませんか]


 顔があれば絶対にドヤ顔してそうだ。俺も出来ない事はないんじゃないかと思っていたが、まさか本当に出来るとは……


[そっか、なら本番は頼むわ]


[ええ、任せといてください]


 この時、俺からしたらシュティはとても輝いて見えた。シュティは言わば超高性能自動自立式学習AIだ、時間が経てば経つにつれて人格のようなものが出来てくると推測している。身体を自由に動かせるから、喜んでいるのか? まぁ今度考えれば良いか。


[んで、どうやって代わるんだ?]


[私から入り込むので拒まなければ大丈夫です]


 便利だな。



 ○



「皆さん、本日は私の為にお集まりいただき感謝します。恥ずかしながら私はこの場が初の社交界となります。所謂社交界デビューというものです。ですので何かと粗相をしてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。

 それでは楽しんでいってください」


 子供を演じきる必要はない。中には良く思われない輩もいるが、今は何よりボー伯爵が本命、また使えそうな駒を探し出す。

 その為には第一印象からインパクトを与えなければならない。興味を持って貰わなければどうする事も出来ないからだ。この場はシュティに俺を演じて貰い、俺は使える奴と使えない奴の選別をする。


[シュティ、なんとしてもイザークという存在をここにいる奴らに知らしめるんだ]


[ィエッサー!]


 ……大丈夫か? まぁ俺の心配はいらないか。シュティが下手を踏むわけがない。これまでの時間を接し、それほどまでにシュティを信頼していた。


「あの歳で、なんと大人びた雰囲気だ」

「ははは、バイヤー伯爵が仕込んだのであろう」

「ふむ、バイヤー伯爵といえば手腕はあまり目立っていない方だったが」

「それか息子が親とは似つかずに有能であるのかもな」

「はは、かもしれないな」


 ヒソヒソと様々な所から内証話をしているのが分かる。まぁ、作戦1は成功と言えるか。

 すぐに俺にあいさつをする為に列が出来る。そう、これはこのような場での基本だ。この中に伯爵位より高位の侯爵の娘が1名いるが、格下相手でもあいさつに来る。それが慣習だ。もちろんあいさつに来たといっても下の者がへり下る。この王国では貴族はどの爵位でも対等とされている。あくまでされている、であって権力などは高位の爵位の方が強いのが普通だ。


「ご機嫌よう、この度はライン卿のご子息に祝いの言葉を持ってきました」


 紅い髪の女性が前に出てきた。こういうのは高位の者から順にあいさつに来るのが普通だ。つまり、この女が侯爵の娘だと? そういえばこの国には一人だけ女の貴族がいると聞いたことがあるな。それもめちゃんこ強い、軍の上層部の一人らしい。あっ、ちなみにラインというのは父上の名前だ。


「おお、これはこれはグレン卿! お越しいただき感謝する。私の愚息も喜んでいますよ。ほら、あいさつしなさい」


 ち、言われなくてするよ。あ、出来なかったわ。今はシュティと代わっているんだった。


「初めましてグレン様、この度は御足労ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


 イザークがニヤッと笑う。その顔を見て俺は背中にゾクッと寒気がした。

 あぁ、ちなみに俺は真っ白な空間にいる。リクライニングシートがあり、その前にモニターが何個か付いている。真ん中にイザークの一人称視点。それの周りにはどうなっているか検討も付かないが、イザークが映し出されていた。そして音声はモニターのすぐそばにあるスピーカーから出ている。


「ふむ? まぁ良い、貴殿には期待している。その歳にしてあの立ち振る舞い、将来が待ち遠しいな! くれぐれも私たちを失望させてくれるなよ?

 我々の派閥は近い未来王国を手に入れる」


 最後はイザークにだけ聞こえるように耳打ちをしてきた。王国を手に入れるだと? クーデターでも起こすつもりか? それとも、ただ単に派閥に権力を集めるということか? もしそうなら邪魔だなぁ。




[ふぅ〜、捌き切りましたね。えぇと、たしかグレンとかいう女がいましたね。あの人は気に食わなかったですが中々優秀なようです]


[お疲れ様シュティ、それは俺も思った。だがあれは危険だな]


[まったくです。あの人はドレスの裏側にナイフまで仕込んでいたようですし]


 何かに警戒しているのか? 王国を手に入れるとか言ってたから、国からの刺客に狙われているとか? いや、飛躍しすぎたか。


[よし、それでは行こうか。ボー伯爵の元に]


[ラジャー、合点承知]


 たまに思うんだが、シュティさん絶対ふざけてますよね。


「ん? おお、これはイザーク殿どうなさいました?」


「えぇ、少し商談でもしようかと」


 伯爵の目つきが変わる。二つの意味でだ。まず所属している派閥が違う事、次にこんな子供から商談を提案された事。普通は7歳児が商談など出来るはずもない。


「おっと失礼、して、商談とはどういう事かな?」


 まぁ無理です、っていきなり断る事もできるまい。少ししたらはぐらかす事は目に見えてる。


「えぇ、私は儲かる。そして銀と金の採掘量が豊富な領地を持つ伯爵も儲かる。どうでしょう? 今の私は派閥などとは無関係、私が跡を継いだら現在の派閥とは無関係になるかもしれませんし」


 ボー伯爵はそれを聞いて笑う、だが目だけははっきりとどれだけのメリットがあるかを問いていた。もうただの子供とは思っていないようだ。


「では、さっそく本題に入りましょう。金と銀、そして鉄が採れる採掘場の一部の権利を貸していただきたい」


「なるほど、結論から言えばふざけているとしか感じられないね。採掘場を貸せ? 我が領地の特産品をなぜ渡さなければならない」


 まぁそうなるよな。もしこれではいどうぞってなったらこっちから願い下げだ。でも、シュティさんや、もう少しなんとかならないもんかね。これは自分以外に自分を預けること事のデメリットだな。俺が100%の信頼を預けているシュティでさえこうだ。まぁ、全然許容範囲だ。


「私は将来ある事業がしたいのです。そのための準備に今から取り組んでますが、資金が必要になってきます。

 おっと、これは話が脱線しましたね。まずメリットですが、お金が今よりも入ります。デメリットは埋蔵量が少しばかり減るくらいでしょうか?」


「ふむ、何故増えるか説明してくれるかな?」


「私は魔法が得意です。この上なく、この王国でトップクラスの自信があります。そこで閃いたのです。

 金属細工だと。魔法は金属を加工出来ます。魔法が得意な人は金属細工などしません。そこで私は貴族が作る、貴族に向けてのアクセサリーを作ろうと思います。今までの着けていた品とは別格の出来。貴族なら欲しいと思うのが普通ではありませんか? 現に貴方が今着けているその首飾り、何段階も上があるとしたらどうなさいます?」


 伯爵は少し考えて、顔を上げる。


「分かった、ただし条件は違う。こちらがするのは金と銀、鉄を相場の3割でそちらに流す。貴殿がする事はアクセサリーで儲けた金額の2割をこちらに渡す。

 これでどうだ? 悪くない提案だろう?」


 この狸め。

 仕入れを3割で。こちらは儲けの2割を。

 これだけ見るとこちらが得をしているように見える。が、金属細工は原価より値段が跳ね上がる。つまり、あちらのボロ儲けになる。


「それはないんじゃないですかねぇ。こちらは1割です」


 伯爵は豪快に笑う。それはまるで駆け引きなど初めからしていなかったかのようだ。まさか、試されたか。


「良い、良いぞ。その条件を飲もう。貴殿はその歳ながら、優秀なようだ。それも私を上回り、国を回している者たちよりも。

 敵に回すのが怖くなってきたわい。何かする時は気軽に頼って良いぞ。バイヤーの野郎は気にくわねぇがお前さんは気に入ったぜ」


 やはりこいつは狸だ。俺が何かとんでもない事をすると読んでやがる。気をつけるべきはこの男か。


「ありがとうございます。それでは伯爵のご子息の所へ行って参ります」


「……なに? どういう事だ?」


「えぇ、ですから私は何分友人がいないもので。友達を作りにいくだけですが、なにか?」


「キールに手を出したらタダじゃおかねぇぞ?」


 おおぅ、怖い怖い。

 ちなみに、まるで俺が動いているようだが、実際の俺はリクライニングシートに座ってモニター眺めてるだけなんだよなぁ……


おらっあ3話目!

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