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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
8/50

08

翌日、春明は猛烈に後悔していた。

弟妹たちのドタバタと駆けまわる足音で、春明は目を覚ました。

なぜあんな約束をしたのか。

恋人を作って紹介するなどと。どうか夢であってくれ、と春明は願う。

台所で寝たので体のあちこちが痛む。

横を向けば叔父が大きないびきをかいて寝ている。

そうだ、昨夜は叔父と色恋について夜更けまで語り合ったんだった。

春明は頭をぽりぽりと掻いて大きく息を吐く。

夢では無かった。

今は何時だろうか、少し開けた窓から、陽気に溢れた光が春明を照らす。

光に慣れていない寝起きの目を細めて、時計を見るとすでに昼近くだった。

春明は慌てて起きる。今日は昼過ぎからバイトだった。

居間に向かうと、陽子と叔母はすでに起きていて、お茶を啜りながらだべっていた。

「あら、おはよう春明くん」と叔母がにこにこと笑いながら言った。

「春明さん、今日はバイトでしょ」

陽子が急かすように言った。

「わかってるって。まだ時間はあるよ」

支度を整えながら、春明の頭の中は昨日の約束のことで一杯だった。

陽子が食事を運んでくる。

「お昼ご飯、出来てるわよ。食べていくでしょ」

「あぁ、うん」

春明は適当に相槌を打つと、座り込んで考え始める。

どうしよう、今更断れる雰囲気でもないし、何より断りでもしたら、協力してくれる叔父さん叔母さんに合わせる顔がなくなる。やはり、どうにかして恋人をつくるしかないのか。

でも、どうやって?今まで女子はおろか男子にだって自分から声をかけたことだって少ない。

誰かに相談しようか。母に相談してみようか。いや、恥ずかしくてとてもできない。

学校で誰かに。いや、相談できるような人なんていない。

でも、なんとかしなくちゃ…。

春明は、頭を掻きながらぶつぶつと独り言ちている。

とりあえず今は考えないことにしよう。バイトに打ち込んで忘れよう。

春明は一通り身支度を整えると、朝食兼昼食を口にかっこんだ。

そんな春明の様子を、叔母はにやにやと、陽子は心配そうに見ていた。


家を出た春明は、すたすたと速足でバイト先に向かっている。頭の中は昨日の約束の件でいっぱいだった。

――下から三番目、下から三番目の俺がどうやって…。

諦めて叔父さんに謝るか。きっとそれでも大学へ行かせてくれるのではないだろうか。

 いや、そんなのじゃ駄目だ。

春明は頭を掻きむしる。そしてぶつぶつと心の中で呟きつづける。

きっと叔父さんの言うとおりだ。このまま大学に行っても、彼女は勿論、友達だってできそうにない。

環境が変わっても、生活は変わらない気がする。

僕自身が変わらなくちゃいけないんだろう。

春明は、少しづつ考えが纏まってくる手ごたえを感じた。

田んぼの地平線の上に、ショッピングモールが見える。

とりあえず考えるのはバイトが終わってからにしよう。

春明はそう自分に言い聞かせて、足を速めた。


バイトが終わった春明はまた、約束について考えながら、こんどゆっくりと帰り道を歩いていた。

陽は落ち、辺りは暗く、蝙蝠や虫が街灯に群がる。

シャツ一枚の春明に夜風は肌寒いくらいだった。

春明は腕を組みながら、ぶつぶつと考えを続ける。

――やっぱり誰かに相談するのがいいんだよな。

家族に相談するのはまずなしとして…。

バイト先にいる他校の女子、いや無理だ。いきなりハードルが高すぎる。そもそも話しかけるのが無理だ。

同じ高校の男子生徒、いや、色恋沙汰に通じているような男子集団になんて話しかる事なんてできないし、相手にもされないだろう。冷やかされるだけだ。

誰か相談できそうな人、誰か…。

ふと春明は、霜月沙織のことが頭に浮かんだ。

「汐織に相談しよう」と思わず声に出る。

そうだ汐織になら、声をかけるぐらいはできる。

学校で俺が話しかけられる相手といったら汐織くらいなんだ。

どうせ嫌われているんだ。これ以上悪くはならないだろう。

でも、なんて説明したらいいんだ?

恋人作りに協力してください。いやいや、どうだろう。

まず汐織に謝った方がいいんだろうか。そもそも俺のどこを嫌っているんだろうか。

駄目だ、汐織との仲をどうにかしないと。

そうだ、恥を忍んで越谷先生に汐織のことを相談しようか。

越谷先生に聞けば、霜月との不和の原因もわかるかもしれない。

明日、早速相談してみよう。

春明の表情が少し明るくなった。

ぶつぶつと呟く春明は、カナブンが体に当たっても動じないくらい集中していた。

春明は首を傾げあごに手を当てながら、夜道を歩き続けた。



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