第7話
「貴方なら不可思議な力の暴走についても、何か知識があるのではないかと思いまして」
「不可思議な力…? どういう事じゃ、話してみよ」
興味を示したのか、眉を吊り上げるとロゼルタに話の続きを促すセルネ。
ロゼルタがユトナの身に起こった異変をざっと説明すると、セルネは何か思う所でもあるのかふむふむ、と腕を組みながら思案を巡らせる。
「…何だよ、何か分かったのかよ?」
「否、まだ何とも言えぬな。兎も角、調べてみる必要があるじゃろうな。少し待っておれ」
ユトナの質問にセルネは端的にそれだけ答えると、さっさと部屋の奥へ引っ込んでしまった。
本当にセルネに任せて大丈夫なのだろうか…? と一抹の不安を覚えていると、暫くして2人の元へ戻ってきたセルネの手には透き通った水晶が抱えられていた。
それを徐にテーブルの上に置くと、チラリとユトナを一瞥する。
「お主、こちらへ来い」
「へ? オレか? そっち行けばいいんだな?」
ユトナはきょとんとして自分を指差しつつ、言われた通り水晶の眼前へと歩を進める。
それを確認すると、セルネは水晶を指差しながらこう説明した。
「この水晶は対象者の魔力の量や質、そして属性を見極める為の道具じゃ。今のお主の体内に流れておる魔力の流れを把握せん事には、お主の力の暴走の原因も探りようが無いのでのう」
「へぇ~、何かよく分かんねーけどまぁいっか」
「……、全く…これだけ詳しく説明しても分からぬのではお手上げじゃな。…まぁよい、兎も角そなた、水晶の前に手を翳して強く念じるが良い」
「ね、念じる? ンな事言われても、何を念じりゃいーんだよ」
「兎も角、精神を統一させるだけで良い。さっさとやらぬか」
セルネに促され、そっと水晶に手を翳すユトナ。ゆっくりと瞼を閉じて彼女に言われた通り──といってもイマイチピンと来ない為に自己流となってしまったが──精神を研ぎ澄ませる。
すると程無くして、身体の奥がチリッと燃え上がるような、一気に体内を巡る水分が熱せられて蒸発するような感覚に襲われた。
──熱い。
一瞬ユトナが体内を暴走する熱に支配され意識を手放しかけた時、それは起こった。
「──っ!?」
パン、と何かが破裂するような音と共に、水晶が木端微塵に砕け散り破片が辺りに飛び散ったのだ。
想定外の事態に一同は唖然とすると、飛び散る破片から身を守ろうと咄嗟に後ろに跳び下がる。
「……! これは一体如何いう事です…?」
「…ふむ、まさか水晶が破壊されるとは…妾が思っていたより事態は深刻なようじゃのう」
眉をしかめながら非難の眼差しを向けるロゼルタに、セルネも予想外だったのかその表情には困惑の色が浮かぶ。
そんな2人のやり取りを遠巻きに見遣るユトナの顔色は何処か冴えず、足元はふらつき小刻みに震えていた。
「……っ、深刻って…それ、ヤバいんじゃ……」
最後まで紡がれなかった言葉は途中で深淵に消えてしまい、代わりに喉元から何か熱いものが競り上がってくる。
堪え切れずに咳き込むと、思わず口元を押さえた手のひらが真紅に染まった。
「ユトナ、大丈夫ですか!?」
視界の隅に映り込んだ緋に動揺を覚えたのか、ユトナの傍に歩み寄り顔を覗き込むロゼルタの顔は不安と焦りと驚愕に支配されていて。
一方、ユトナ自身でさえ自分の身に何が起こっているのか皆目見当もつかず、その不安に押し潰されそうになっていた。
「げほっ、げほ…。オレだって知らねーよこんなん…」
──ヤバい、絶対ヤバい。一体どうなっちまったんだよオレの身体は。まさか…死んだりしねーよな…?
流石のユトナも不安と動揺を覚えたようで、咳き込む彼女の顔は苦痛とは違う感情の為に苦しげに歪む。
「安心せい、暫くすれば落ち着く筈じゃ。…それに、大体の原因も分かった。恐らく、まるで自分で魔力を制御出来ぬのじゃろうな」
「は…? オレに魔力なんかあんのかよ…?」
掠れた声で疑問をぶつけるユトナの表情には、意外そうな感情が映し出されていて。
セルネはその問いに頷く事で肯定してみせた。