第15話
「…兎も角、今後色々と詳しく調べる必要がありそうですね。後始末は私がやりましょう」
ロゼルタはそう締め括ると早速事切れた怪物の肢体を調べようとしたのだが。
それより先にずっと俯いたままのネクトがつかつかとキーゼの眼前へと歩み寄ると、そのままいきなりキーゼの胸倉を掴んだのだ。
普段冷静なネクトにしては珍しいその行動に、一瞬のうちに辺りに張りつめた空気が支配する。
しかし、当の本人のキーゼだけは相変わらずへらりとした顔つき。
「……最初から、素知らぬ顔をして自分達に協力してくれていたのか」
「ま、そーいう感じ? 大体あんたらさー効率悪すぎだろJK。こういう時こそ大人の権力を使ってだなー…」
「正直…貴殿の事は幼い頃から家柄のお陰で苦労一つした事無いような…“貴族”の1人だと思っていた。だが…少し見直した」
「何だよ見直したってー、つまり今まで見損なってたのかよ?」
「……どちらにしろ、貴殿の事は大嫌いだ」
「は、何いきなりこの大嫌い発言とか酷くね? …ま、あんたに大好きとか言われたらホモ疑うけどな」
「誰がホモだ」
だんだん不毛な言い争いになってきているような気がしなくもないが、ネクトに漸く穏やかな眼差しが戻ってきたので良い傾向なのだろう。
しかし、まだ真相は闇の中。再びネクトは険しい表情を浮かべると、
「だが、一体何者がどういう目的でマリーの母親をあんな異形の姿へ変貌させたというのだ…? マリーの母親も、何故こんな状況を甘んじて受け入れたのか…」
「その辺りも含めて、国の方で調べてみましょう。それに、その被害者も甘んじて受け入れたとは限らないですからね。恐らく…他の神隠しに遭った人々と関連性はあるでしょう」
ネクトの呟きが聞こえていたのか、ロゼルタもまた神妙な顔つきを浮かべる。
「兎も角、調べてみない事には…」
「ロゼルタ王子! これは一体どういう騒ぎですかな?」
不意に辺りの空気を切り裂くように放たれた、一つの声。
弾かれるように声の主へと一斉に視線をずらせば、そこには貴族や大臣などそうそうたる顔ぶれが揃っていた。
「おや、貴方達もいらしたのですか。どういう騒ぎかはこれから調べるところで…」
「…そこの死体、以前にも似たようなものが暴れ回ったという話を聞きましたが…関連性は?」
「詳しい事は現状では分かり兼ねますね」
汚物でも見るような眼差しで崩れ落ちる亡骸を見遣る貴族。
…と、突如貴族達の傍に控えていた騎士達が一斉に駆け出していき、あっという間にセオを取り囲んでしまった。
何が何だか分からず、鳩が豆鉄砲食らったような表情を浮かべるばかりのセオ。
「え、え? 俺?」
「…確か貴公は以前、同じような化け物に姿を変えて街を破壊したとか。今回の重要参考人として話を伺いたいのですが宜しいかな?」
「いや、俺は何も知らないよ!」
「…まぁ、最初はそう言うでしょうな。貴方が白だという事がはっきりするまで此方で身柄を預からせて頂きたいのだが?」
明らかな疑いの眼差しがセオの胸に深く突き刺さる。
人を人とも思わぬ眼差しがこんなにも冷たく鋭いものである事を、セオはまざまざと痛感させられた。
「ちょっと何それ! セオ君を疑ってるの!? セオ君は無関係に決まってるでしょ!」
「其方は…夢魔か。怪物を守る夢魔とは、随分と面白い話だ」
「……っ!」
侮蔑の視線を向けられ、レネードは体中が怒りで沸騰しそうになるのを感じる。
じりじりと距離を詰めていく騎士達に逃げる事もままならずその場に立ち尽くすセオ。
しかし、セオと騎士の間を一つの影が立ち塞がった。
「彼を拘束なさるつもりですか?」
「え、王子…? どうして…?」
セオの瞠目した眼差しの先には、毅然とした表情で騎士──ひいては貴族達を見据えるロゼルタの姿があった。
「彼は今回の事件とは関係ありません。そもそも、以前の事ですら彼は積極的に関わった訳ではないのですから。それでも彼を連れて行くおつもりですか?」
「では、何故そいつが関係ないと言い切れるのですかな? 証拠は?」
「彼は無理矢理あの姿にさせられただけで、誰かを同じように異形に変える能力など持ち合わせていないからですよ。それでも彼を連れていくと仰るのでしたら、こちらにも考えがありますが?」
何と言われようとも頑として譲らず、口元に微かな微笑みを浮かべつつも瞳の奥に鋭い光が輝く。




