第7話
「そんな馬鹿な…!? そもそも、セオの場合きちんと封印したのではなかったのか!?」
「そりゃ、オレだってそう思いたくねーけどさ…でもすげー似てんじゃん! つーかセオは? アイツまだ来ねーのかよ?」
ユトナとて、脳裏を過る嫌な予感もそうであって欲しくない仮説も頭から追い出してしまいたいのだろう。
しかし、否定する明白な根拠が無い限り、完全に振り払う事は出来ない。
2人は咄嗟に辺りを見渡すが、2人が探している人物の姿は一向に現れず。
一緒にマリーの母親を探してくれるとは言ったが、レネードにも協力を要請すると言って別行動をして以来、彼の姿を一度も目にはしていない。
否定したい仮説が、どんどん現実味を帯びてくる。
そんな邪念を振り払うように、ユトナはぶんぶん首を左右に振って見せた。
「とにかく、セオさえ来てくれりゃいいんだけど…」
「──っ! シノア危ないッ!」
いち早く危険を察知したネクトの悲鳴にも似た警鐘が辺りに響き渡る。
目の前の化け物が突如節くれ立った腕をユトナ目掛けて振り下ろしてきたのだ。
ネクトの警告のお陰で直撃は免れたものの、ユトナの頭のすぐ脇を擦り抜けていく化け物の鋭い爪が彼女の頭を掻き切った。
どうやら皮膚を切り裂かれたらしく頭から伝う赤い滴がユトナの顔を真紅に染めていく。
「うっわ、血出てきやがった」
「シノア、大丈夫か?」
「おう、オレならへーきへーき。ちょっと派手に頭切っちまっただけだし。…けど、向こうがその気ならオレだって黙ってらんねーな!」
傷は大した事は無さそうだが、向こうの明らかな敵対心を察知してユトナの闘志に火が付いたようだ。
鞘から抜いた双剣を構えて化け物に斬りかかろうとするも、駆け出そうとした寸前でネクトに制止された。
「待て、もしその異形の怪物がセオだったとしたらどうする!? 確証を得られるまで軽率な行動は避けるべきだ」
「~~っ、じゃあどうすんだよコレっ!?」
ネクトの言い分も尤もだと思ったのか、痺れを切らしたような声を上げつつも反撃を踏み留めるユトナ。
しかし、向こうはのんびりと待ってなどくれない。
今度は子供達2人を獲物にしたのか、一瞬そちらに血走る眼差しを向けてから一気に地面を蹴り上げ2人に距離を縮めていく。
そのまま子供達に狂気の刃を向ける怪物であったが、それより早く子供達と怪物の間に割って入ったネクトが抜剣した大振りの剣を盾代わりにして化け物の腕を受け止める。
暫く鍔迫り合いを繰り返していたが、不意にネクトの咆哮にも似た叫びが辺りにこだまする。
「くっ……これ以上子供達を傷つけさせる訳には行かん!」
気合で押し切るような形で、そのまま剣を振り下ろし化け物を後方まで吹き飛ばす。
すると、慌てた様子でユトナもネクトの元へ駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫かよ? ってか、あのバケモンに攻撃すんなっつったのオマエじゃねーか! なのにがっつり反撃してんじゃん!」
「う…、今のは不可抗力だ。それより…エリクもマリーも無事か?」
「う…うん、にーちゃんが守ってくれたからおれもマリーも大丈夫だよ」
化け物の攻撃に肝を冷やしながらも、何とかこくこく頷いて見せるエリク。
マリーも相変わらず気絶したままだが、容体が悪くなった訳では無さそうだ。
「オイコラバケモン、もしセオだったらさっさと目覚ましやがれ!」
まるで化け物に呼びかけるように声を張り上げるユトナであったが、不意に彼女の背後から一つの音が飛来した。




