第7話
「とりあえずセオ君はそこに座ってゆっくりしててね。後は明かりと暖を取れればいいんだけど……あ! セオ君見て見て! ほらこれ、暖炉よね?」
セオをソファに座らせたレネードは室内をあちこちうろついて何かないか調べていると、埃まみれになっている暖炉を見つけた。
暖炉を覗き込んでみればまだ未使用の薪も幾つかあり、これなら火を熾す事が出来そうだ。
火起こし用の道具を使って火種を熾し、それを上手く薪にも点けて漸く暖炉に火を点ける事が出来たようだ。
ゆらゆらと揺らめく炎の温かな光は室内に優しい光をもたらし、2人の心にも安心の光が宿ったようだ。
「やっぱり明かりがあると違うよな。さっきまでずっと真っ暗だったから何か不安だったし」
「そうよね~、でもこうして暖も取れたし休憩も出来て良かったわよね。…あ、そういや川探すのすっかり忘れてた」
揺らめく炎をただただ見つめてぼんやりしていた2人であったが、ハッとなって本来の目的を思い出したらしいレネードはポン、と手を叩く。
それを聞いてセオも立ち上がろうとするが、すぐさまレネードに制止される羽目となった。
「セオ君はいいの、駄目! あたし1人で行ってくるから、セオ君はそこで待ってて」
「え、でもそれじゃあレネードさんばっかりに負担が…」
尚も食い下がるセオに何か思う所でもあったのか、レネードは一瞬悪戯っぽい笑みを口元に浮かべてからおもむろのセオの傍に歩み寄る。
そして彼の眼前に佇み肩に腕を回してセオの顔を覗き込むと、
「もうセオ君たら、そんなにあたしと一緒に居たいの? それとも、夜に1人で居るのは怖いのかな~? セオ君って意外と寂しがり屋なんだね。お姉さんが一緒に居てあげようか?」
「なっ、ちょっ…!? そそそそんなんじゃなくて…っ、ただ、俺は…っ!」
レネードのからかうような言葉と、そして肩に腕を回された事で互いの息遣いが聞こえそうな程顔が近づきレネードの顔が視界一杯を埋め尽くす事でセオの動揺が頂点に達したらしく、顔を真っ赤に染めてパクパクと金魚のように口を開くばかり。
すると、してやったり、と唇の両端を吊り上げるレネード。
「それじゃあ、此処で待っててくれるよね?」
此処で漸くレネードの策略に嵌まった事に気づくものの、時すでに遅し。
「う…わ、分かったよ。でも、くれぐれも無理しないでくれよ? もし嫌な予感がしたら深追いしないですぐに引き上げてくれ」
「大丈夫大丈夫、本当心配性なんだから。それを言うなら、セオ君も気を付けてね? 今のセオ君無防備なんだから」
「べ、別に俺は無防備じゃないよ」
「ふふ、セオ君は本当にからかい甲斐があるよね。じゃあ、行ってくるね」
何となく気恥ずかしくなって、未だ赤く染まる顔をさらに赤くしてプイッとそっぽを向くセオ。
レネードはそんなセオにひらひらと手を振ってから、部屋を後にした。
その場に残されたのはセオ只1人。
レネードがいなくなってしまっただけで、急に火が消えたように雰囲気が暗くなった…ように感じた。
「…う、何か一瞬寒気がしたような…? いや、気のせいだよね」
急に背筋を冷たいものが通り抜けるような感覚を覚え、思わず身震いするセオ。
1人になったから些細な事も気になってしまうのだろう…そう考えたセオは何とか自分を奮い立たせようと、邪念を振り払うように首を左右にぶんぶん振ってみせた。
しかし、セオはこの時気づくべきであったのかもしれない。
暖炉の炎に照らされたソファの影が、ほんの僅かに蠢いた事に。




