第2話
2人がやってきたのは街から程近い広大な森。
街から比較的近い距離にあり、尚且つ凶悪な魔物もあまり出現しない事から街の人々もこの森には頻繁に足を踏み入れているらしい。
此処には野生の動物や豊かな自然も恵みも豊富に存在する為、食料確保の為に狩猟や植物を採取する者も多い。
…とは言え、森の最深には危険な場所も多く何が潜んでいるか分からない為、立ち入り禁止となっている。
そんな森にやってきたセオとレネード。
2人共食堂の女将から話を聞いて取ってきてほしいキノコの種類、そしてそれが生息している場所も大体教えて貰っている為、其処へ向けて一直線に歩を進めていた。
先頭を歩くセオはレネードがきちんとついてきてくれているか確認する為にちょこちょこ背後を振り返って様子を窺う。
「レネードさん、大丈夫かい? もうちょっと歩くと思うんだけど、疲れてないかい?」
「ん? あたしなら大丈夫よ。ありがとう、気を遣ってくれて。それに、セオ君と2人でデートしてるみたいだから全然疲れないしね」
「そっか、それなら良かっ……っていやいや、これは別に女将さんに頼まれただけで、デートとかそういうんじゃないし!」
「ふふ、冗談よ冗談。セオ君は相変わらずからかい甲斐が…じゃなくて真面目ね」
「うー…やっぱり遊ばれてる気がする…」
完全にレネードの手のひらで遊ばされていると不本意そうに眉尻を下げるセオを横目で見遣りつつ、悪戯が成功した子供のように満面の笑みを浮かべるレネード。
そうこうしているうちに2人は大分森の奥へと足を踏み入れているようであった。
「えーっと確かこの辺だったかな。それじゃあどうする? 2人で一緒に同じ場所を探索してもいいけど、それだとあんまり効率的じゃないかなーって思うんだけど…」
「確かにそれもそうね…。じゃあ二手に分かれましょうか?集合場所は此処、時間は…セオ君懐中時計持ってるよね? それなら3時間後に集合でいいかな?」
「うん、俺もそれで構わないよ。ただ、何か目印になるような物があった方がいいと思うから…」
顎に手を当てながら思案を巡らせ、一つの提案を持ちかけるレネードにセオはコクリと頷いて同意を示してみせれば、辺りを見渡して立ち並ぶ木々の中でも取り分け大きな木の幹に軽くナイフで十字傷をつけてみせる。
これが目印のつもりなのだろう。
「これで如何かな?」
「そうねぇ…でも、これだけじゃちょっと分かりにくいかもしれないから…」
レネードは少し考え込むように口を噤んでから、何か思い出したように荷物から赤いリボンを取り出すとそれを木の枝に括りつけた。
「この方がもっと分かりやすいでしょ?」
くるりとセオの方へ顧みれば、一仕事やり遂げたような清々しい顔つきでにっこりと微笑むレネード。
2人は早速別行動を取りお互いキノコ狩りに精を出す事になった。
「この辺には無いかな~…あ、あったあった」
セオはさらに森の奥へと足を踏み入れていき、終始地面と睨めっこしながら枯れ木の隙間から顔を覗かせるキノコにパッと顔を輝かせる。
目的のキノコを見つけてそれを摘み、持っている籠へ放り込んでゆく。
単純明快な作業が淡々と続くが、やはり何度も何度も同じ事の繰り返しはだんだん飽きてくるものだ。
「う~ん、結構採ったような気がするけど、まだまだ全然だなぁ…。コレ、地味に大変かも…」
これなら騎士団の任務の方がある意味精神的には楽かもしれない…そんな思いがふと脳裏を過ぎる。
そもそも、慣れない作業をするのはどうしても精神的に消耗しやすいものである。
しかも、1人で黙々と単純作業に精を出しているとだんだん思考も良からぬ方向へ向かうもの。
あれこれ考え事をしているうちに、ふと自分が異形の化け物に姿を変え、絶望の深淵へ堕ちてしまった時の事を思い出してしまった。
「……っ、何で今更あの時の事想い出しちゃったんだろ…。もうあの事件は終わったし、俺だってもうあんな事には…っ」
セオはぶんぶん首を横に振って何とか邪念を振り払おうとする。
軽く自分の頬を叩いて気を取り直すと、目の前のキノコ狩りだけに集中する事にした。
──それから、どれくらいの時間キノコとの睨めっこに費やしていた事だろう。
すっかり没頭していた事に気づいてハッと懐中時計に目をやれば、集合時間までおおよそあと1時間と言った所か。
「うわ、もうこんな時間かぁ…。う~ん、でもこれじゃあちょっと少ないし…もうちょっと沢山生えてる所探してこようかな」
地面に置いた籠にやると、一杯になるにはまだまだ程遠い。
もう少し効率よく採取する為にはもっと沢山キノコが自生している場所を探した方が良さそうか…そう結論付けたセオはすっくと立ち上がると場所を移動する事にした。




