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伝わる感情

作者: 黒野 衣梨

私もこんなことを思っていた時期がありました。


ぶっちゃけ、今でも少し思っています。

夕焼けに照らされる公園。

男女の学生。

抱き合う二人。

「ん…」

触れていた唇をそっと離す。目を開けて彼を見つめてみると、普段より少し優しい目をしていた。

短いようで長かった口づけを終えて、密着していた体も離す。

「帰ろうか」

囁くように言った彼の言葉に小さく頷いて同意を示した。どちらからともなく手をつないで公園を出る。

いつものことである。一緒に帰る放課後、カップルなら別に不思議ではない寄り道。

私は彼に気付かれないように小さく息を吐いた。

別に彼の事が嫌いなわけではない。付き合っているのだからむしろ大好きである。

私が沈んでいるのは…と、考えながら繋がれている手に視線を向ける。

「ん?どした?やだ?」

視線の先をたどって伺いをたたてきてくれた。彼はいつも優しい。

私がさっきとは逆に否定を示すと、彼は満足そうに頷いて前を向いた。

彼は私が極度の恥ずかしがり屋とかそんな感じに思っているらしい。さっき、キスしたあととか今のように手をつないでいる時とか、私はあまり喋らないから。

けれど、実際私は恥ずかしがり屋とかではない。彼がそういう風に勘違いしてくれてるのは都合がいいから構わないけど。

ピタッと彼が足を止める。気づけば私の家の前まで来ていた。公園から案外近かったりする。

「じゃ、また明日ね」

彼が少し名残惜しそうに繋いでた手を離してそのまま私の頭をぽふぽふと叩く。最近彼はこのぽふぽふにハマっているらしく、これは純粋に少し恥ずかしかった。

「うん、また」

自分でも情けないくらいへにゃへにゃとした笑いを浮かべながら別れを告げて家へと向かう。中に入る前に彼の方を振り向くとまだ家の前に居た。

「気をつけてね」

と、言いながら手を振ると嬉しそうに振り返してくれたので少し上機嫌で家へと入る。

すぐにとんとんと音を立てながら階段を上り、自分の部屋に入って部屋着へと着替える。たぶん、もう夕飯は用意されているはずだから少し急ぎ目に。

リビングに行くと予想通り用意されていた夕飯をたいらげて、また自分の部屋へと舞い戻る。自分の部屋が大好きなお年頃なのである。

ぼふっとベッドに横になり、天井を見上げる。いつもと変わらないそれに安心して大きく息を吐いてから、先ほどまで彼と繋いだ手を顔の上まで持ってきてグーパーグーパーを繰り返す。

もう一度言うけれど、私は別に彼が嫌いなわけではない。大好きである。

なんでこんなに触れられるのを嫌がるのかって聞かれると少し答えるのに困ってしまう。

一言で言うとするなら、怖い。

触れるのが、というより触れた部分から自分の気持ちが相手へ漏れ出てるのではないのかという怖さ。

私は自分の事を完璧に出来た人間だとは思っていない。自分に嫌いなところがない人の方が少数派だと思う。この、私の嫌なところが、どろどろとした汚い部分が流れてしまっている気がしてならない。

気づいたらそう思っていた。例えそれが家族でも、親しい友人でも触れられることに抵抗があった。触れられたくないし、触れたくないと思っていた。

高校生になって、彼氏が出来て。そんなこと言っていられなくなって。触れられることに対する抵抗は消えないまま、付き合っている。

ふぅ、と今度は何も気にせず大きなため息をつく。

結局私は嫌われたくないんだろうな、とずいぶん前に自己分析した答えを思い返す。自分の醜いところを見られて幻滅されたくないだけ。

それだけなのに。

自分の奥を見られたら彼に嫌わちゃうとか信じていないみたいで嫌だ。そんな自分が嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

気がついたら頬に涙が伝っていた。自己嫌悪に浸って泣いて。何も変わっていないこの状況で何もしない自分はもっと嫌いで。

そろそろどうにかしないと。本気で。恥ずかしがりなんて言葉に甘えてられない。あんなに優しくしてくれてる彼に申し訳なさすぎる。

明日、なんとかしよう。どうにかしなきゃいけないことを私が何とかしよう。

そんな決意を胸にとりあえずお風呂に入って、寝た。


いつもの目覚まし時計の音を聞きながらのろのろと目を開ける。昨日あんなに悩んだくせに睡してしまっていたらしい。

ゆっくりと目覚ましを止めて起きあがり、軽く伸びをする。

1時間もすれば家の前まで彼が迎えに来るからあんまりのんびりしていられない。

昨日の夕食と同じように、朝ご飯を手早く済ませて制服に着替える。それから洗面所へ行って仕上げ。

この仕上げに途方もない時間がかかるのが女子高生というもので。メイクと髪をセットするのが大変。

とりあえず髪に手をかける。彼はそんなにメイクに興味ないというか、最悪すっぴんでも大丈夫な雰囲気だから後回し。すっぴんなんて滅多にないけど。

とりあえず寝癖だらけの髪の毛をドライヤーとアイロンを駆使してどうにか見れるぐらいまで整える。満足したらふわっとメイク。

うむ、と鏡の前で頷いて洗面所を離れたところで携帯が鳴る。リビングに戻って確認してみると、予想通り彼から到着を知らせるメールだった。

グッドタイミングだなぁなんて思いながら鞄を手にし、母がいる方へ出発の挨拶を投げかけながら家を出る。

「おはよ」

彼がいた。

だいぶ慣れてきたつもりだけど、抑えきれないにやけ顔と一緒に挨拶を返す。

とてとてと小走りで彼の側にいき、学校へとのんびり歩いて向かう。当然のように手をつなぐけれど、そうするとあまり喋らなくなる私の代わりに彼はたくさん色んな事を話してくれる。

これじゃダメなんだよね。これを日常にしちゃいけないんだ。

なんて思うけど、これもひょっとしたら彼に流れて行ってしまってるんじゃないかと気になって仕方がない。

「ねぇ」

彼を見上げながら会話の切れ目に一言挟み込む。彼は少し驚いたみたいだったけどとりあえず私の次のことばを待ってくれてるみたい。

「例えばさ、君が他の女の子と話してるの見るとするでしょ?本当はすごいヤダなぁって思ってるの。他にも、ぶっちゃけ帰りの寄り道とかもっと一緒に居たいとか思ってるし、君をすごいたくさんいっぱい独占したいとか思っちゃっるんだよ?」

話してるうちに下がってしまっていた視線を再び上げると、彼はいきなり始まった私のマシンガントークに面食らってるらしく、空いた口がふさがらないみたいだった。

とりあえず彼が正気に戻る前にと、続ける。

「君のことすっごい好きだし、私の中は君でいっぱいいっぱいだから、君の中も私でいっぱいっぱいになればいいのにとか思っちゃうし…君に気がある人なんて私以外居なくなっちゃえばいいのにとか思うし、私にだって嫌なこととか嫌いなことたくさんあるし、醜いとことかめちゃくちゃあるし、泣き顔とかブスだし、こうやって意味分かんないこと考えて君にぶちまけちゃってるしっ」

話の途中で彼が急に立ち止まった。腕を引っ張られる形になりながら自然と私も足を止める。

突然のことにクエスチョンマークをいっぱい浮かべながら彼を見ると、いつもより何倍も優しい顔で私を見て、

「いや、あのちょっと!」

抱きしめられた。仮にもここ道路だし。通学路だし。人がいないって訳じゃないんだし。

テンパる私はまともな言葉を紡げない。

「大丈夫だから。そんなことで、嫌いにならないし。そんなこと言ったら俺の中にもいっぱい汚いとこあるし」

彼が耳元で囁く。

「大好き」

耳を襲う刺激に包まれて動けない私に追い打ちがかけられる。

「ね?」

と、言いながら体を離して向き合う。私はコクコクと頷くことしかできなかった。

彼は私の頭をぽふぽふしてから手を繋ぎ直して再び歩き出す。

「そーかそーか、俺の事が大好き過ぎて俺でいっぱいいっぱいなんだ?」

「な!?」

歩きながらからかってくる彼に動揺を隠しきれない私。

「そんなこと言ってもなー」

彼は私を気にせず続ける。

「俺もお前でいっぱいいっぱいだからおあいこかも」

最後の彼の一言で私は全て救われた気がした。

「ならいっか」

私はへにゃっと笑いながら言って、前を向いて歩きだした。

繋いだ手をぶんぶん振りながら。

読んでいただきありがとうございました。


これを読んで少しでも皆様に勇気がもたらされますよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] すみません、すっかり見落としてました・・・ 活動報告か何かでも上げてくれれば気づけたかもしれないのに・・・ 確かに俺もこういう事よく考えてるし、それを否定せず真っ向から受け止めてくれる人と…
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