高橋係長の災難
普段通り総務部のデスクで仕事をしていた。
私の名前は高橋、肩書きは係長、社内でも高い評価を得ている。
3時になり、一服でもしようと思い立ち上がろうとした時、内線
電話が鳴った。電話をとった女性社員が戸惑った顔で「高橋係長
、社長が、お呼びです」と私に言った。
社長が私に何の用があるのだろう?と考えたが、思い当たる節
がない。
私は、あれこれ考えても仕方がないと思い、社長室に行く事にし
た。私は社長室の前で深呼吸をして、ドアをノックした。
トントントン。「入りたまえ」と社長室の中から声が聞こえた。
私は「失礼いたします」と言いドアを開け、入った。
私は「社長?」と言い。「何の御用でございましょうか?」と
問い掛けた。
社長室に入り、私の不安は一気に膨らんでいたのだ。いったい、
私に何を聞い掛けてくるのだろうと?
社長は「近くに来なさい。」と私に言い。「君は、信濃屋と
竹屋の牛丼並の販売価格は、いくらか知ってるかね?」と私に問
い掛けてきた。
「牛丼の販売価格ですか?存じ上げませんが?」と私は答えた。
社長は、ため息をつき「君、高橋君だよね?優秀だと聞いていた
んだけど、僕の聞き間違いだったのかなー?」
私は誰から聞いたのだろうと思い「誰から聞いたのでしょうか?
」と聞いてみた。社長は「上野君だよ?君の上司だよね?彼とは
昼食の時によく会うんだよね。上野君が、うちにいる高橋って社
員が、非常に優秀なんです。と言っていたよ。」
普段厳しい、上野部長が、私を高く評価してくれてる事が私は、
非常に、嬉しかった。
「その優秀な君に、聞いたんだけどなー」と社長が言った。
私は戸惑いながら「私は総務部ですし、他社の販売価格までは
・・・。」と答えた。
社長は「君ねぇ、自分の担当じゃないと、そんな事も分からない
の?職務怠慢だよ。まぁいい教えてあげる、信濃屋380円で、
竹屋が350円だよ。」
私は内心、それが何なんだろうと考えていた。他社は他社、我
社は我社では、ないのか?確かに信濃屋にしろ、竹屋にしろ、そ
の経営努力は認める。だが販売価格を下げれば、それて良いのだ
ろうか?消費者は喜ぶ。しかし我々、企業にとってダンピングを
する事が本当に良い事だろうか?高級志向であっても良いではな
いのか?良い商品には、それだけの価値がある。消費者も理解し
てくれるはずだ。私は販売競争をしている信濃屋と竹屋について
考えを巡らしていた。
どうやら、私は考え込んでしまってたようだ。
社長の方を見ると私を睨みつけている・・・。
はぁーと社長は、ため息をつき「じゃあさー、自分の会社の商
品の販売価格は、当然知ってるよね?」と私に言ってきた。
私は困惑してしまった。私は総務部だ、自社とは言え、販売価格
を把握している訳ではない。それに、この社長に、いい加減な事
を言う訳にもいかない。どう答えればいいのだろう。
私は仕方なく「私は総務部ですので、販売価格までは把握してお
りません。」と答えた。
社長は、ドンッとデスクを大きく叩き「君!なにかと言うと
総務部、総務部って言うけど!自分の働いている会社の商品の販
売価格くらい分かるでしょ?」
私は、どう答えれば良いのか、分からなかった。
社長は「君、それでも優秀なの?もしかして給料泥棒ってやつ?
それともバカなだけ?ねぇ、バカなだけ?」
私は、なんだ?なんだ?と混乱してきた。販売価格を答えられ
ないのが、そんなに悪いことか?いや、仮にそれが悪いことだと
してもだ、給料泥棒だの、バカだなどと言われる筋合いはない。
言ってはなんだが、確かこの社長は高卒ではないか?それもバカ
高校をなんとか卒業したって話ではないか、私は仮にも大卒だぞ。
いや、私は学歴差別を、しているのではない。
社会に出れば中卒で優秀なのもいるし、大卒で無能なのもいる。
だが、この社長は何だ?確かに経営者だ。
それがどうした?私は聞いた事があるぞ。
この社長の父親が社長だという理由だけで、いきなり役員待遇で
入社したらしいではないか。
しかし父親が亡くなった後、この社長が舵取りしだしたとたんに
、その無能さに呆れて、役員連中が逃げ出したそうではないか?
私は、サラリーマンで、雇われてる身だが、それでも、断じて、
給料泥棒だのバカだなどと言われる筋合いはない!
また私は考え込んでしまっていたようだ。
私は社長に「しかしですねー・・・。」と話し掛けた。
社長は「なになに?また総務、総務って言うの?」
私は「いえ、そうではなく・・・。」
なんだこれは、私に話をさせないつもりか?
社長は「なに言い訳でもするの?バカでも言い訳できるんだ?」
私がいつ言い訳をした?「あのですね・・・。」
社長「言い訳なんて男らしくないな?もしかしてオカマなの?」
うん、なんだ?男らしくない?オカマ?どうして、そうなるんだ。
だが、この社長に理解してもらおうと私は話し掛けた。
「聞いてください。」
社長は「言い訳は、いいんだよ!」
私は「しかし、説明すれば・・・。」
社長は段々、声を大きくしていき「だから、言い訳するな!」
私は「いえ、そうではなく。」
社長は「だーかーらーーー。いーいーわーけーするなーーー!」
なんだこれは?私への嫌がらせか?私も段々、腹が立ってきた。
私は「ハラスメントですか?」
社長は立ち上がり「なに?ハラスメント?横文字で言うと賢いと
か、思ってない?僕が意味を知らないと思ってるの?それって嫌
がらせって意味でしょ?」
なんだ、こいつは、今時ハラスメントなんて誰でも使っている。
私は横文字を使えば賢く見られるとか当然、思ってない。
社長は私を睨みつけ「僕がいつパワーハラスメントしたって言う
の?」
私は、パワハラなどと言っていない「いえ、ハラスメントです」
社長は「パワーハラスメントでないの?」
私は「違います」と言い。なんだこいつは?と思った。
社長は「パワーハラスメントじゃないんだ?ふーん、なにそれ?
僕が社長だから怖くなったの?高橋は根性もないんだ。」
私が、この社長に何をしたと言うんだ?私は自制心が無くなっ
て行くのを感じた。
「あんたなー、いい加減にしろよー!、俺が、あんたに何か、し
たか?」と言ってしまった。
社長は「なに社長に向かって、あんたとか言ってんの?」
私は「あんたがダメなら、お前でいいよなー!」
社長はヘラヘラ笑いながら「バカな高橋に、お前って言われちっ
たよー、逆ギレですかー?逆ギレですかーー?」
私がいつ逆ギレした?逆ギレの意味はなんだ?通常、正しい者
が、悪い者へ怒ることの逆だったはず。
今の状況だと私が悪くて、社長が正しいってことになると逆ギレ
が成立するはずだ。
私がいつ悪い事を言った?社長がいつ正しい事を言った?
この状況は断じて私の逆ギレではない。
社長の方を見ると何か言っている。「よーし、僕、バカな高橋
をリストラしちゃうぞー♪」
なんだこいつは、ケツを振りながら言っているぞ・・・。
「バカな高橋、リストラしちゃうぞー♪」
「バカな高橋は社長に、お前って言った罪でリストラであります♪」
「バカな高橋は、これからハローワークに行くであります♪」
なんだこれは、何がそんなに楽しいのだ?
私がリストラされる?何故だ?私がなにをした?
社長は、笑いながら「これパワーハラスメントだね♪ウフ♪」
私は「だから、パワハラじゃねぇって言ってんだろ!」
私はとりあえず、こいつを座らせる事にした。
「いいから座れ」座らない・・・。
私の声は、だんだん大きくなってきた。
「座れー!」座らない・・・。
「座れー!座れーー!座れーーー!座れーーーー!」
私は絶叫していたのかもしれない、やっと座った。
私は冷静になろうと努めた。
そもそも話の発端は何だ?牛丼の販売価格だったよな?
社長の方を見ると、おとなしく座っている。
私は考えてみる事にした。私が牛丼の販売価格を知らなく
て、給料泥棒だのバカだのと言われたんだよな。
そして、自社の商品の販売価格を言えなくて、言い訳す
るなと言われ、リストラをするとまで言われたんだよな。
私が社長だと思って、遠慮したのがいけなかったのか?
いやいやいやいやいや・・・。そうでは、無いはずだ。
私は、社長に向かい話しかけた。
言葉使いは荒いままだ。
高橋「俺が牛丼並の値段、知らなくて問題あるの?」
社長「ありません・・・。」
どうやら、さっきの座れの絶叫が効いてるようだ。
高橋「じゃー、聞くけど?俺が自社の販売価格知らなくて
問題あるの?」
社長「ありません・・・。総務ですし・・・。」
高橋「だよなー。バカとか給料泥棒とか言われる筋合いは?」
社長「ありません・・・。」
高橋「お前さ、うちの会社が何を扱ってるか知ってるの?」
社長「は、はい・・・。」
高橋「言ってみろよ!」
社長「貴金属です・・・。主にジュエリーです・・・。」
高橋「そうだよな、扱ってる商品も1万点ほどあるけど
販売価格なんて、スラスラ出ないよな?
社長「出ないっすよ・・・。高橋さん、総務ですし・・・。」
なんだこいつ、さん付けになったぞ。
今まで、威張り散らしてのは何だったんだ?
高橋「そうだよな?それと牛丼の値段、関係あるの?」
社長「ないっす。全くないっす・・・。」
高橋「うちの会社って飲食業界にも進出すんの?」
社長「どうなんでしょう・・・?」
高橋「俺、聞いたことないんだけど?お前、知ってるの?」
社長「高橋さんが知らないのに、僕、知らないっすよ」
高橋「あと何だ?リストラするとか言ってたな?すんの?」
社長「しないっすよ。高橋さん、優秀っすもん」
高橋「しない?」
社長「しないっす!」
高橋「そうじゃねーだろ?」
社長「できないっす!」
高橋「そうだよな?日本語ちゃんと使おうな!」
社長「高橋さんも、きっついなー、勘弁してくださいよー」
高橋「パワハラとか言ってたな?無能のお前にパワーあんの?」
社長「一応、社長っすよー。勘弁してくださいよー」
高橋「はぁ?お前に何の権限もないだろ?」
社長「そうっす・・・。」
高橋「お前さ、なんで、この部屋にいんの?」
社長「またまたー、社長の部屋だから社長室って言うんっすよ」
高橋「はぁ?なんでいんの?」
社長「な、なんででしょう・・・?」
高橋「お前、頭おかしいの?」
社長「おかしくないっすよ」
高橋「おかしいの?」
社長「おかしいっす・・・。」
高橋「帰れ!」
社長「勘弁してくださいよー」
高橋「帰れーー!」
社長「これでも社長なんすよ」
高橋「帰れーーーーーーーーーーーー!!!」
社長「・・・。」
高橋「下のフロアに帰れよーーーーー!
ここ、お前の会社じゃ、ねーんだからーーーーーー!」