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時空の旅人  作者: しおん
2/3

第1話:間引く国

 

 若者がシェガー(ホバーつきの2人用オープンカー)に乗っていた。後ろに座席は荷物で埋め尽くされていた。手首にソウラ(一時的に自分の周りの空間を操れる器具)がついていた。

 砂漠を大きな波をつくって走っていく。


「暑い・・・ほんと、暑い」

 どこからか、声が発せられた。


「97回目。」

 運転手が最初の声に返事をした。


「暑すぎ・・・次の国はまだ?」

 最初の声が言った。


「98回目。あと15分くらいじゃないかな。」

 運転手が答える。


「何を根拠に?・・うー暑い」

「勘。99回目」

「・・・・」「・・・・」

 

 二つの声はまた、無言で走っていった。


「暑・・・」

「おめでとう、ホルス。100回目達成。」

「キラは暑くないの?」

 ホルスが言った。


「別に」

 キラが短く返事をした。


「ありえない・・・ねぇ、ソウラ使おうよ・・ああ、暑うわああぁぁぁぁあ!」

 ホルスと呼ばれた声が急に叫んだ。

 キラはシェガーを片手で運転し、ペンダントを持った手をおもいっきり横に突き出していた。ホルスとはペンダントのことのようだ。


「キキキラ!やめてぇぇぇ」

 

 キラは再びペンダントを首にかけた。


「ああ、びっくりした。急になにするのさ?」

「ホルス、100回目までは我慢するっていったはずだけど?」

「言ってたけど、それが?」

「101回目からは我慢しないってこと。」

「分かる分けない、そんなの」

「それと、ソウラ使うと疲れるからヤダ。」

「・・・・・・・」


「着いたよ、ホルス。」

 キラが言った。


「ん・・?やっとか・・・」

 

 すぐ近くに大きい門がたっていた。キラは門をくぐった。


「ようこそ、わが国へ。お名前は?」

 武装した兵士がにこやかに話しかけてきた。


「キラです。こっちはホルス。」

 

 キラはシェガーから降りて、ペンダントを指差して言った。


「よろしく」

 ホルスが言った。


「こちらにサインして下さい。・・あ、ホルスさんのは結構です。何日滞在されますか?」

 

 兵士は1枚の紙と羽ペンを差し出した。


「長くて4日。」

「ありがとうございます。わが国をお楽しみくださいね。」

 

 キラはシェガーに跨った。寝ているホルスをぺチっとたたいて起こした。ホルスはいてっと言った。

 通りはにぎやかだった。キラはシェガーからおり、押して歩いた。


「あなた、旅人さん?」

「はい。」

 

 たくさんの子供に囲まれた20代後半ぐらいの女性が声をかけてきた。


「珍しいものねぇ。旅人さんなんて何年ぶりかしら。私はセリナよ。お名前を伺ってもよろしい?」

「キラです。」

「僕は「旅人さんだー!旅人さんだよ!」

 

 子供たちがキラの周りに集まってきた。ホルスの自己紹介は子供たちの声でかき消された。


「こんにちわ」

 キラが子供たちにむかって笑顔で言った。


「キラの笑顔なんて何年ぶりかしら」

 ホルスがキラ以外に聞こえない小さな声でセリナの口真似で言った。


「少しお茶でもしない?」

「キラ、お茶だって!疲れたから休もう。」

 ホルスがうれしそうに言った。


「ペンダントさんもそう言ってることですし。どう?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「ちなみに僕、ホルスっていうから。」

 

 セリナは、あら、そうなの?じゃぁホルスさんとキラさん、こちらにどうぞ、と言って紅茶とお菓子をご馳走してくれた。キラはお礼を言った後に、尋ねた。


「セリナさん、一つ質問してもいいですか?」

「どうぞ」

 セリナはにこにこしながら言った。


「どうして子供ばかりなんですか?」


「やっぱり気づいた?そんなに分かるものかしら?・・・・一つは成人男性が軍隊に入るからよ。」

セリナは一呼吸置いて、いった。

「この国ではね、30歳から成人とみなされ、軍隊にはいるの。35歳になると軍隊に残るか、残らないかを自由に決められるようになってるわ。必ずみんなが軍隊に残るけどね。軍隊に入っている期間中は、軍隊意外の人と対面を禁止してあるの。」


「戻ってくる人はいない、ということですよね?」

 キラが聞いた。

「ええ、そうよ。好きな人が30歳になったらそれっきり会えないってわけ。」

「セリナさんも?」

 ホルスが聞いた。ホルスは遠慮というものを知らない。キラはホルスを鞄に押し込んで、

「すみません、続けてください。」

 とにこやかに言った。

 セリナは苦笑いした。

「いいのよ、キラくん。私の婚約者は役人だったわ。で、7年前に軍隊に入ってそれっきり。戻ってくるって約束してくれたのに・・・。」

 セリナは笑って、もう昔のことだけどね、と言った。

「さて、話に戻るけど・・・あとは女性。女性は・・なぜかまだよく分かってないらしいんだけれど・・・成人になるとある病気にかかるの。」

「病気、ですか。」

「そうなの。その病気っていうのは人によってさまざまなんだけど、すごく死亡率が高いのよ。というか絶対死ぬって感じ。」

「え!それって怖いじゃん。」

 ホルスが鞄の中からモゴモゴと言った。


「ええ。前は結構怖かったけど、それがこの国での寿命かなって思ったの。」

 セリナは笑顔で言った。


「すごいですね。」

 キラは関心した表情をしていた。 


「男性は軍隊、女性は病気。だからこの国は子供ばっかりなのよ。」

「そうですか・・・あの、人口は減らないんですか?」

「なんで?」

「男性はいるとしても、女性が亡くなってしまうのならどうしても人口が減ると思うんですが・・・」

 

 セリナが少し困った顔をした。


「そうねぇ・・・言われてみるとそうかも。こんなこと普段考えないから・・・。でも、人口が減っているなんてこと、聞いたことないわ。成人になるまでに子供を生むんじゃない?」

「なるほど」

 アルが言った。

 キラは、そろそろ失礼させていただきます、いろいろとありがとうございました、と言い、安めでシャワーかお風呂のある宿を知らないかと尋ねた。セリナは近くのホテルを紹介してくれた。さらに、この国のことをもっと詳しく知りたいのなら、北の役所に行くといいわよ、と親切に教えてくれた。キラは最後にもう一度お礼を言って、シェガーを走らせた。

 

 

 

 キラは7時ぴったりに起きてホルスをはじいて起こした。ホルスは、もっと優しく起こせないのか、と文句を言った。


「今日はどこに行くの?」

「どうしようかな。とりあえず北にいって役所にお邪魔しよう。」

 

 キラは荷物を全部シェガーに乗せた。ホテルからでて、シェガーを走らせる。

「なんで荷物つむの?もう2日いるんでしょ?」

 ホルスが言った。


「ぼくの旅は気まぐれ」

 キラはそれだけ言って黙った。

 

 北には市街地があった。そこも大半が子供だった。わずかな20〜25歳くらいの商人が売り物を売ろうと叫んでいた。


「にぎやかな国だね。子供の楽園ってやつ?」

「なかなかおもしろい国だよ。でも、やっぱり子供ばかりというのは違和感があるな。」

 

 キラはそのまま市街地を突っ切り、役所の前に行った。

 

 役人が急いで出てきた。笑顔で言った。


「ようこそ旅人さん!お時間ありますか?」

「ありますよ」

 

 その一言を聞いて役人はさらに顔を明るくした。


「そうですか!もしよろしければお話させて下さい!」

「喜んで」

 ホルスがキラの代わりに返事をした。


「どうぞどうぞ!」

 

 キラは大きな部屋に案内された。長い机といすが何個か置いてあった。いすに座るよう勧められ、座った。


「旅人が訪れるのはめずらしいんですか?」

「それはもう!少なくとも僕が役人になって7年経ちますけどあなたが初めてですよ。誰かにこの国のことを教えたかったんですよ。だから僕、うれしくて!」

「うん、よく伝わってくるよ。」

 ホルスが言った。


「そう?ではこの国のシステムについてお話ししてもいいですか?」

「お願いします」

「どの辺まで知っていますか?」

「30歳から成人で、成人男性は軍隊に、成人女性は病気になってこの国は子供ばかりいるってところまで」

 ホルスがすかさず言った。


「あれ、そこまで知っていましたか。」

 役人は残念そうな顔をした。

「知っていたらなにか困ったことでも?」

 キラが言った。


「後説明することといえば、なんで30歳から成人だとか、軍隊にはいるだとか、病気の研究はどこまで進んでいるかぐらいなんです」

「ほうほう」「それでも構いませんよ?」

「でも・・・・うーん」

 

 役人は唸って、悩んでいた。キラは黙って待った。そして、


「あなたは私の初めてのお客さんですから、特別お話させていただきます。」

 役人はにっこり笑って言った。

「ラッキー!」

 ホルスが言った。キラは黙ったままだった。


「本当は禁止されているんですけどね。」

 役人はまじめな顔になって、話し始めた。


「実は、あなたたちが知っていることは『嘘』なんです。必ず男性が軍隊に残ること、知ってますよね?それも『嘘』です。女性は病気に罹ったりしません。全て政府がつくった『嘘』ですよ。」

「何のために?」

「人口が増えすぎたため、間引く必要があったからです。始まりは今から134年前です。一人の王様がこういいました。『国が崩壊する。いらない人間を間引け。』、と。大臣たちは会議で話し合いました。『これから可能性のある子供を殺すのはもったいない。もう人生を十分生きた、40歳から間引こう』一度はこの意見で固まりました。しかし、まだ人口が多すぎました。そこで今の『30歳から』という制度になったのです。」

「間引くってのは・・・」

 ホルスが言った。


「殺すということです。」

 役人は頷きながら言った。


「やっぱり。」

「30歳の男女、全員ですか?」

 キラは言った。


「そうです。ただ、医者は例外のときがありますが。」

「殺すため・・・ですね。しかし、人口は減っていないと聞きましたが?」

「はい、そうです。政府が今の人口を保てるように管理してますから。毎年、間引く国民で、こちらが人工的に子供をつくります。数は決まって200。現在そのうちの50が流産するように設定してます。一昨年までは40でしたよ。同時期に作りますから、みんなほぼ同じ誕生日なんですよ。今年間引く国民の子が134代目です。」

「・・・・・・」

「これを134年前からずっと続けていますよ。どうです?すばらしいでしょう?増えすぎず、減りすぎず、みんなが快適に暮らせるように間引くんです。」


「・・・ええ、そうですね。」

 キラが笑顔で相槌をうった。


「役人さんも?」

 ホルスが言った。


「いいえ。私は違います。事実を知っている人は死ぬまで王様に仕えるんですよ。ただ・・・」

 役人は少し口ごもった。


「ただ、私の前の役人さんは違いました。30歳で間引かれてしまいました。」

「なぜ?」

「それは、その人が反逆をくわだてたからです。馬鹿な人ですよ。そのまま王様につかえていれば将来は絶対約束されていたのに・・・。」

「ちなみに役人さんは何歳?」

 ホルスが言った。


「私ですか?私は明日でちょうど30歳ですよ。明日の夜、妻と子がお祝いしてくれるんです。」

 役人はうれしそうに言った。


「そうなんですか。おめでとうございます。それじゃぁお話のかわりにプレゼントを。明日会えないかもしれませんので今。いいですか?」

「あれ?キラ、人にあげるものなんてあったっけ?」

 キラはペンダントを人差し指で弾いた。


「ぐっ」

 ホルスがうめいた。キラはしばらく鞄をごそどそとさぐって、ひとつの本を出した。


「こんな物しかないんですが・・・。」

「それは?」

「『身の守り方』についての本ですよ。たぶん必要になると思いますから。」

「『身の守り方』?大丈夫ですよ。私の一生は約束されています。・・でも、せっかくですから頂きますね。」

「その本が役に立たないことを祈ってるよ。」

 ホルスが静かに言った。


「どういう意味?」

 役人がきょとんとした顔で言った。キラがすくっと立ち上がって、遠慮がちに言った。


「今日はお話ありがとうございました。できればその本を今晩あたり・・・」

「キラ・・・?」

 ホルスが不思議そうに声をかけてきた。キラはくすくすっと笑った。


「ホルス、ごめん。調子狂ったかい?いつもと違うからね、こんなの。」

「まったくだよ。」

 ホルスが呆れた様子で言った。


「あの・・?どうしましたか?」

「すみません、何でもありませんよ。今日は本当にありがとうございました。ぼくたちはホテルに戻ります。」

 

 役人はにっこり笑った。


「こちらこそ、お話を聞いてもらえて、とてもうれしかったです。僕は今日という日を忘れません。なんせ、初めての旅人さんですから!」

 

 キラは最後になんと言おうかと少し迷って、


「今日を大切にしてくださいね。」

 と言った。そして役所を後にした。


「キラ、変」

 ホルスが思ったままの感想を言った。


「自分でも、そう思うよ。」

「なんでさ?」

「分からないよ。ただ・・・」

 キラは口をつぐんだ。

 

 ・・・なんていえば言い?『まっすぐな人には生きて欲しかった』『待ち続ける人をこれ以上見たくない』思ったことはある。ただ、それをホルスに伝える気にはならなかった。


「ただ?」

 ホルスがうながす。


「・・・『ぼくのわずかな良心』ってやつかな」

 結局それだけ言った。

  

 

 キラはホテルに戻らずそのまま国を出た。何もなかった砂漠にキラたちの姿がポツリと現れた。


「この国のご感想は?」

 ホルスがいつも通り聞いてきた。キラはしばらく答えなかった。


 

 キラは急に口を開いた。

「ホルス」

「なに?」

「ぼくはジャガイモにはなりたくないな。」

「同感」


「この世界は終わりかな?」

 ホルスが聞く。いつも通りの会話。


「・・・ああ。この世界にはしばらくいたからね。もういいよ。」

 キラが答える。いつも通りの会話。

 ペンダントから強い光が発せられた。その光が消えたときには、砂漠には何一つなかった。


 キラが去った次の日、役所には別の若者がいた。

 

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