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羊の三題噺。

【三題噺】今日も明日も、明後日も。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2011/07/30


液体窒素でいろんな物を凍らせる。

ひとつひとつ並べてみれば、幼い日の宝物に似ていた。


「何してんの?」


聞き慣れた青年の声。顔を上げずに、おなざりな返事をする。


「不老不死の秘薬作り」

「……馬鹿?」

「あんたが?」

「嫌だ嫌だ。今時の高校生は」


ついと顔を上げれば、ホルマリン漬けの豚の胎児が虚ろな目で私を見ていた。

そんな私の視界に、彼が無理矢理入り込む。

虚ろな瞳が、彼の透明度の高い瞳とすりかわる。

くり抜いて、光に翳したらさぞかし綺麗だろうな、とぼんやり思う。

そして彼は対して興味なさそうに、形だけの注意を口にする。


「備品を無駄遣いしてんなよ」

「あなたのその台詞のほうが、よっぽど酸素の無駄遣い」

「……前から思ってたけどお前、俺のことナメてるよな?」


若干引き攣った笑みで彼はそう言った。

彼と私は理科研究会の会員だ。

会員はあと幽霊会員が2人ほど。

ここ、理科室が与えられたテリトリーになる。

そこで私は彼曰く備品を無駄遣いする。


「で、今回は何を試したかったわけ」


表情豊かなわりに抑揚のない無機質な声。

彼は壊れかけたラジオに似てる。


「永遠まで生きるにはどうしたら、と」

「それが液体窒素にどうつながんの」

「人が死ぬのは自分が自分でなくなる時でしょ?だから、凍らせて保存するの」


どう?と首を傾けて、机を示す。

机の上に並ぶのは、校庭で摘んだ名前さえ知らない花と、鏡のかけら、折れた鉛筆に、ノートの切れ端に卵。

みんな凍らせた。


「相変わらず、お前の持論は分からねぇ」


彼は卵を手に取る。

そして、冷たく閉ざされた殻にふぅと息を吹きかけた。


「でも、これは死んでるよ。生きてるとは言えない」


転がされた卵がビーカーに当たって、音を立てる。

それを目で追いながら呟く。


「こんなに不変で綺麗なのに」

「不変で綺麗なんて死体みたいだ」


鼻で笑った彼に、わざとらしく小首を傾げてみせる。

長い横髪が目にかかった。

邪魔だし明日にでも切ってしまおうかなと、頭の片隅で考える。


「なら、私は殺人犯だわ」


私の台詞に彼は呆れたように嘆息した。


「やっぱり変わってるな、お前」


対する私はくすりと音もなく笑って、ポケットから蝋燭を取り出す。

そして、マッチをすって火をつけた。

赤い熱の塊がゆらりと彼の瞳に揺れる。


「殺人犯の次は放火犯になるわけ?」


おどけてみせた彼に答えず、蝋燭の蝋をぽたりと卵に落とす。

ぽたり、ぽたり、ぽたりと。

いくつもの白が卵に落ちては歪を描く。


「瞬間を切り取ることが出来たら、永遠になると思ったのに」


静かに呟けば、渇いた音が微かに鼓膜を震わす。

卵にひびが入っていた。

その白さに思わず眉を潜めた。


「確かにこれじゃ、死体だわ」


私はひとつ頷いて、火を卵に近づける。

卵は静かに焼けた。


「お前、変わってるんじゃないな」


彼は卵の燃えかすを指でつまんだ。

指から、さらさらと舞う微かな灰。

命の砂。

むしろ死の砂かしら、冷めた思考が告げる。


「窒素みたいだ」

「存在感の薄さが空気並とでも?それとも生存条件として?」

「両方。無色で無味無臭のくせに、生きるためには必要不可欠なあたり」


さらりと披露された知識に、ふぅんと気のない言葉を返す。


「じゃあ、あなたは差し詰め炭素ね」

「その心は?」

「ダイヤモンドになれなかった、鉛筆の芯」


そう言って、私は蝋燭の火を一息に吹き消した。




彼と私は理科室にいる。

今日も明日も、きっと明々後日も。

そうして私は生きていく。

三題噺として書きました。

卵、蝋燭、窒素。(第二弾)


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